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愛、即、死。――恋した瞬間、君は死ぬ。  作者: 墻寧
第一部「即死能力発覚編」
15/16

第15話 ボス戦は、愛が重すぎて胃もたれする

 ダンジョンの最深部。

 巨大な扉を開けた先に待っていたのは、禍々しい紫色のオーラを放つ魔物だった。


 上半身は妖艶な美女。下半身は巨大な花のような植物。

 ダンジョンボス、『エルダー・アルラウネ』。

 その能力は凶悪だ。冒険者の「愛」や「欲望」を吸収し、糧とする精神喰らい(マインド・イーター)。


「あらぁ……。活きのいい男の子と、可愛らしいお嬢さんたちねぇ」


 アルラウネがねっとりとした声で俺たちを見下ろす。

 その視線が俺に固定された。


「特にそこの男の子……。美味しそうな『トラウマ』と『諦観』、そして隠しきれない『フェロモン』を持ってるわねぇ。ジュルリ」


 舌なめずりされた。

 普通の冒険者なら戦慄する場面だ。

 だが、俺は歓喜していた。


(来た……! これだ!)


 俺は心の中でガッツポーズをした。

 「愛を吸収する」魔物。

 つまり、こいつにルミナたちの「俺への歪んだ愛情」を吸い尽くしてもらえばいいのだ!

 愛がなくなれば、俺はただの「目つきの悪い男」に戻れる。

 即死リスクも消える。

 平和が訪れる!


「おい、化け物!」


 俺は一歩前に出て、両手を広げた。


「腹が減ってるんだろ? なら遠慮するな! ここに極上の『愛』があるぞ!」


 俺は背後の三人(チーム雑草)を指差した。


「こいつらの愛は脂っこいぞ! コッテリ系だ! 胃袋がはち切れるまで吸い尽くしてくれ!」


「師匠!?」

 ルミナが驚愕する。

「まさか、私たちの『師匠への想い』を武器にするおつもりですか!?」


「そうだ! 武器だ! 弾薬だ! 全部撃ち尽くして空っぽになれ!」


「……残酷な指示ね」

 セラフィナが眼鏡を直す。

「でも合理的だわ。精神エネルギーを魔力に変換してぶつける……いわば『愛の特攻』ね」


「ユウリのためなら、あたしの『大好き』全部あげるー!」

 ミルミルが尻尾を振る。


 よし、合意は取れた(誤解だが)。

 さあ吸え! アルラウネ!


「ふふふ……いい覚悟ねぇ。なら、いただきましょうか!」


 アルラウネが触手を伸ばした。

 ピンク色の霧が、ルミナ、セラフィナ、ミルミルの体を包み込む。


 吸収ドレイン開始。


 俺は期待に胸を膨らませて見守った。

 さあ、吸い取れ。

 「師匠素敵!」も「サンプルとして興味深い」も「ご主人様大好き」も、全部だ。

 そして俺を解放してくれ!


 チュウウウウウ……。

 掃除機のような音が響く。


「んっ……ふふっ……甘酸っぱい恋の味……」


 アルラウネが恍惚の表情を浮かべる。

 よし、いけてる!


「もっとだ! もっと吸え!」

 俺は応援した。


「あら、意外と量があるわねぇ……。でも、私の胃袋は宇宙よぉ……」


 ズズズズズ……。

 吸収が続く。

 しかし、1分が経過しても、3人の愛が枯れる気配がない。

 それどころか、アルラウネの顔色が徐々に変わってきた。


「……ん? あれ? ちょっと……重い……?」


 アルラウネの額に脂汗が浮かぶ。


「な、なによこの『質量』……。ただの恋心じゃないわ……。『崇拝』? 『執着』? 『依存』? うっ、味が濃い……!」


 ルミナが目を閉じて祈っている。

 「師匠……貴方は私の光……私の道標……たとえ世界が滅びても、貴方の背中を追い続けます……!」


 セラフィナがブツブツと呟いている。

 「遺伝子レベルでの結合……魂の融合……貴方の全てを解剖して、私の全てで埋め尽くしたい……」


 ミルミルがよだれを垂らしている。

 「ユウリ……美味しい……ユウリ……食べる……」


「お、おぇっぷ……!」


 アルラウネが口元を押さえた。


「ちょ、ちょっとストップ! タンマ! もうお腹いっぱい!」

「ダメだ! 残さず食え! 『出されたものは残さず食べる』のがマナーだろ!」


 俺は叫んだ。

 ここで止められてたまるか。中途半端に愛が残ったら意味がない!


「無理よ! これ以上入らない! ていうかこの愛、ドロドロしてて消化に悪すぎるわよ! 胸焼けする!」


「ええい、根性なしめ! それでも魔王軍の幹部か!」


「理不尽なこと言わないでよ! ……ぐっ、あああああ!」


 バキンッ。

 嫌な音がした。


 アルラウネの腹部(植物部分)が、限界を超えて膨れ上がっていた。

 キャパシティ・オーバー。


「愛が……重すぎるぅぅぅッ!!」


 ドカァァァァァァン!!


 盛大な爆発音がダンジョンに響き渡った。

 アルラウネは、三人のヒロインが抱える「激重感情」を処理しきれず、物理的に爆散したのだ。

 ピンク色の煙が舞う中、俺は呆然と立ち尽くしていた。


「……嘘だろ」


 魔物を倒した。

 だが、愛は減っていない。

 むしろ――


「はっ……! 体が軽い!」

 ルミナがスッキリした顔で目を開けた。


「心の中のモヤモヤした独占欲を吸い取ってもらって、純粋な『信仰心』だけが残りました! ありがとう魔物さん、おかげで師匠への愛がより研ぎ澄まされました!」


「デトックス効果ね」

 セラフィナが眼鏡を光らせる。

「雑念が消えて、貴方への『探究心』がクリアになったわ。さあ、実験を再開しましょう」


「お腹すいたー! ユウリおかわりー!」

 ミルミルが飛びついてくる。


 逆効果だった。

 「不純物」が取り除かれ、より純度を高めた「特級呪物(愛)」が完成してしまった。


【警告。全員の好感度、「純愛ピュア・ラブ」モードへ移行】

【不純物がなくなったため、即死判定の精度が向上しました】

【見つめ合うだけで心停止する可能性があります】


 俺は膝から崩れ落ちた。

 ダンジョン攻略完了。

 報酬:魔石(アルラウネの遺品)。

 代償:逃げ場のない愛。


「帰ろう、師匠。私たちの家へ」

 ルミナが差し伸べてきた手は、後光が差して見えた。

 それが天国への誘いなのか、地獄への招待状なのか。

 今の俺には、その手を払いのける気力さえ残っていなかった。

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