第13話 決闘は、八百長(ヤオチョウ)失敗の喜劇
『チーム雑草』の知名度が上がりすぎてしまった。
美女三人(聖女、魔女、獣人)を侍らせる謎の黒づくめ男。
巷では「魔王の生まれ変わり」だの「夜の帝王」だの、好き勝手な二つ名がついている。
俺が求めているのは「モブA」の称号だけなのに。
「貴様か! か弱き乙女たちを洗脳し、悪のハーレムを築いている男は!」
大通りを歩いていた俺たちの前に、キラキラした男が立ちはだかった。
金髪碧眼。純白のマント。高そうな剣。
絵に描いたような「テンプレ勇者」だ。
「俺は『光速の剣士』アレイン! 正義の名のもとに、貴様を成敗し、彼女たちを解放する!」
アレインと名乗ったイケメンが、ビシッと俺を指差す。
周囲に野次馬が集まり始めた。
「おい、決闘だぞ」「あのイケメン、王都の剣術大会の準優勝者だぞ」
普通なら、ここで「なんだと?」と受けて立つ場面だ。
だが、俺の反応は違った。
俺は心の中で、ガッツポーズをしたのだ。
(来た……! 救世主が来た!!)
こいつに負ければいいのだ。
俺がボコボコにされ、無様に命乞いをする姿を見せれば、ルミナたちは幻滅するはず。
「なんだ、口だけの雑魚だったのね」と去っていくに違いない!
「いいだろう!」
俺は一歩前に出た。
「その勝負、受けよう。ただし、俺が負けたら彼女たちの『所有権』は全てお前に譲る!」
「師匠!?」
「ユウリ!?」
背後で三人が驚く。
ククク、驚け。俺は薄情な男だ。女をモノとして扱う最低野郎だ。
「ふん、望むところだ! 行くぞ悪党!」
アレインが剣を抜いた。
さあ、俺の「負けイベント」の始まりだ。
俺は剣を抜かず、その場に両膝をついた。
そう、土下座だ。戦う前から降参する、究極のヘタレムーブ!
「ひぃぃ! 助けてくれぇ! 俺が悪かった! 靴でも何でも舐めるから許してくれぇぇ!」
俺は額を地面に擦り付け、情けなく叫んだ。
どうだ! 見ていられないほど無様だろう!
さあルミナ、軽蔑しろ! セラフィナ、見限れ!
――ザッ。
アレインの動きが止まった。
「……な、なんだこの構えは……!?」
アレインの額に冷や汗が流れている。
「剣を抜かず、重心を極限まで低くし、地面と一体化する……。これは『土下座』ではない……東洋の暗殺拳、『大地・クラッシュ』の予備動作か!?」
「は?」
顔を上げると、アレインが震えていた。
「隙がない……! どこからでも飛びかかれる姿勢……。しかも、靴を舐める発言は、『貴様の足元などいつでもすくえる』という挑発……!」
違う! ただの土下座だ! 深読みしすぎだ!
「くっ……ナメるな! 光速剣!」
アレインが突っ込んできた。
速い。さすが準優勝者。
俺はパニックになった。
やばい、負けるのはいいけど、斬られたら痛い。死ぬのは嫌だ。
「うわあああ! 来るなあああ!」
俺はポケットに入っていた「小銭入れ」を取り出し、アレインに向かって投げつけた。
いわゆる「金で解決」しようとしたのだ。
「これで勘弁してくれ!」という賄賂だ。
ヒュンッ!
俺の投げた小銭入れ(銅貨50枚入り)が、空気を切り裂いて飛んだ。
火事場の馬鹿力と、スキル補正による身体能力強化が乗ってしまった。
「なっ……投擲武器だと!?」
アレインが反応する。
小銭入れは、彼が振り下ろした剣の切っ先に直撃した。
ガギィィィン!!
凄まじい金属音が響き、アレインの手から名剣が弾き飛ばされた。
剣は空高く舞い上がり、地面に突き刺さる。
「……ば、バカな……」
アレインが腰を抜かした。
「我が家宝の名剣を……ただの布袋(小銭入れ)で弾いただと……?」
違う。俺もびっくりしてる。
ただの銅貨が、散弾銃のような威力を持ってしまっただけだ。
「勝負あったな」
ルミナが冷ややかに告げた。
彼女は一歩前に出て、アレインを見下ろした。
「師匠は、貴方を傷つけないために、あえて『金』という柔らかい武器を使ったのです。もしあれが石礫だったら、貴方の頭はスイカのように割れていましたよ」
「ひぃぃッ!?」
アレインが青ざめる。
「それに、最初の『土下座』。あれは『無益な殺生はしたくない、頼むから引いてくれ』という、師匠の慈悲深い嘆願だったのです。それを貴方は……」
ルミナの瞳が、涙で潤む。
「師匠……どこまで優しいのですか……。自分のプライドを捨ててまで、若者の命を救おうとするなんて……!」
【警告。ルミナ・フレアハート、尊敬値が限界突破】
【「強き力を持つ者の謙虚さ」に、胸キュン中】
【即死リスク:心臓マッサージ待機レベル】
やめて! 解説しないで!
俺はただ命乞いをして、金を渡そうとしただけなんだ!
「くそっ……覚えてろ! チーム雑草ぉぉぉ!」
アレインは捨て台詞を吐いて逃げ出した。
残されたのは、歓声を上げる群衆と、俺を見る熱っぽい三人の視線。
「ユウリ、すごーい! あんな速い剣を、小銭でパコーンって!」
ミルミルが飛びついてくる。
「運動エネルギーの計算式が合わないわ……。やはり貴方の筋組織は常識外ね。解剖したい」
セラフィナがメスを取り出す。
「師匠。一生ついていきます」
ルミナが拝んでいる。
俺は地面に突き刺さったアレインの剣を眺めながら、深く絶望した。
負けることすら許されないのか。
この世界は、俺に「最強の英雄」というレッテルを貼り付け、窒息させようとしている。
しかも、投げた小銭入れを回収し忘れた。
全財産が減った。
勝負に勝って、財布と平穏を失う。
これが、愛され主人公の末路か。




