表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛、即、死。――恋した瞬間、君は死ぬ。  作者: 墻寧
第一部「即死能力発覚編」
10/16

第10話 買い物は、好感度のインフレ市場

 冒険者にとって、装備は命だ。

 だが、俺にとっての装備とは「モテないための拘束具」であるべきだ。


「師匠。その剣、錆びてボロボロではありませんか?」


 街の大通り。武器屋の前で、ルミナが俺の腰の剣を指差した。

 俺の愛剣『なまくら丸(拾った鉄くず)』だ。切れ味は皆無。これでスライムを叩くと、切れるというより弾ける。


「これでいいんだ。俺は『不殺』を誓っているからな」

「不殺……! 強大な力を持ちながら、あえて錆びた剣で己を戒めるとは……」


 違う。金がないのと、鋭い剣を持つと「剣聖」とか勘違いされそうだからだ。


「しかし、防具は新調すべきです」

 セラフィナが口を挟む。

「貴方の防御力は数値上、紙くず同然よ。昨日のように泥でコーティングするのも合理的だけど、街中では衛生的に問題があるわ」


「ユウリ、新しい服買おー! あたしが選んであげる!」

 ミルミルが俺の腕を引っ張る。


 ……まあ、確かに。

 俺の服はボロ布だ。これ以上みすぼらしいと、逆に「影のある浪人」みたいでカッコいいとか言われ始めたので、イメージチェンジは必要かもしれない。


「わかった。買いに行く。ただし!」

 俺は釘を刺した。

「選ぶのは俺だ。お前らのセンス(キラキラ騎士、インテリ魔導士、露出狂獣人)は信用ならん!」


          ◇


 訪れたのは、王都でも有名な高級武具店……の、向かいにある古着屋『呪い堂』。

 店主が死んだ魚のような目をしている、怪しい店だ。

 ここなら、「ダサくて」「呪われてて」「誰も近寄らない」装備があるはずだ。


「いらっしゃ……ひぃっ!?」

 店主が、俺の背後の美女三人を見て悲鳴を上げた。

 聖女、魔女、獣人。この店の客層(主に闇金業者やネクロマンサー)とは明らかに違うオーラを放っている。


「おい親父。この店で一番『人気がない』『不気味な』装備をくれ」

「は、はい……こちらなどいかがでしょう」


 店主が震える手で出したのは、フルフェイスの鉄仮面だった。

 表面には無数の傷。目の部分は黒く塗りつぶされ、口元には格子。

 商品名:『処刑人の沈黙サイレント・マスク』。


「いいな。これだ」

 俺は即決した。

 これなら顔が見えない。視線による即死判定を防げる!

 俺は早速、その鉄仮面を被ってみた。


 ガチャン。


 視界が狭まる。呼吸が少し苦しい。

 鏡を見る。そこに映っていたのは、どう見てもホラー映画の殺人鬼だった。


「ククク……どうだ。これなら誰も俺に恋などしまい。近づくことすら躊躇うだろう!」


 俺は自信満々で振り返った。

 さあ、悲鳴を上げろ! ドン引け!


「……なんてこと」

 ルミナが口元を押さえた。

 その瞳が、なぜか潤んでいる。


「師匠……そこまでして、ご自身の『美貌』を封印されるのですか?」


「は?」


「貴方のその整った顔立ちは、多くの女性を惑わせてしまう。だからこそ、あえて醜悪な仮面でその罪(美しさ)を隠し、孤独に生きようというのですね……!」


 なんでそうなる!

 俺はただの不審者になりたかっただけだ!


「わかります。仮面の下に隠された素顔を知っているのは、私たちだけ……。背徳的で、ゾクゾクします」

 セラフィナが眼鏡を妖しく光らせた。

 彼女の頬が赤い。

 「秘密の共有」というスパイスが効いてしまっている!


「ユウリ、それカッコいいー! 悪者みたい!」

 ミルミルが尻尾を振る。

「ねえねえ、その仮面つけたまま『ガウガウ』ってやって! 襲って!」


【警告。対象:全員。好感度上昇】

【「仮面系男子」というニッチな需要を掘り当ててしまいました】

【ミステリアス値、限界突破】


 失敗だ!

 仮面は逆効果だった! 「隠されると見たくなる」のが人間の心理か!


「脱ぐ! こんなもん脱ぐぞ!」


 俺は仮面を外そうと手をかけた。

 ……外れない。


「ん? んんんーッ!?」


 ガタガタと揺らすが、びくともしない。

 そういえば商品名が『呪い堂』だった。これ、呪いのアイテムか!


「親父! 外れんぞ! どうなってる!」


「あ、あのお客さん……それは『一生愛する人とキスをするまで外れない呪い』がかかってまして……」


 ――時が止まった。


 一生愛する人と、キス。

 俺の場合、それは「キス=即死」を意味する。

 つまり、この仮面は一生外れないことが確定した。


「ふざけんなァァァァッ!!」


 俺の絶叫が仮面の中で反響し、不気味な重低音となって店内に響いた。


「あら? キスが必要なの?」

 セラフィナが一歩前に出る。

「仮説の検証が必要ね。私のキスで呪いが解けるか、試してみましょう」


「待ちなさいセラフィナ殿。呪解ディスペルなら聖職者の役目。私の清らかな口付けで浄化します」

 ルミナが顔を赤らめて迫る。


「あたしが舐めて溶かすー!」

 ミルミルが飛びついてくる。


「寄るな! 全員ステイだ!」


 俺は店の中を逃げ回った。

 鉄仮面を被った男が、美女三人に追いかけ回される。

 はたから見れば「モテモテの鬼ごっこ」だが、実態は「デスゲーム」だ。


 ガンッ!


 逃げ回る最中、俺は店の商品棚にぶつかった。

 棚の上から、一着の服が落ちてくる。

 それは、黒い革の拘束衣のようなジャケットだった。


「おっ、それは『魔獣使いのコート』! 着るだけで周囲の魔物を魅了する効果が……」

 店主の説明が終わる前に、そのコートが俺の肩に引っかかった。


 ズシッ。

 呪いの仮面と、魅了のコート。

 最悪のコーディネートが完成した。


【警告。フェロモン出力、300%に増幅】

【周囲の女性客(おばちゃん含む)からの視線集中】

【即死エリア、拡大中】


 店の外の通行人までもが足を止め、俺を見ている。

 「なにあの仮面の人……素敵……」「悪い男の匂いがするわ……」


「違う! 俺は変質者だ! 通報してくれ!」


 俺は叫びながら店を飛び出した。

 だが、その声も仮面のせいで「渋い低音ボイス」に変換されてしまう。


「ああっ、行ってしまわれる……」

「追いかけましょう、私たちのダークヒーローを!」


 背後から迫る『チーム雑草(の美女たち)』。

 そして増えていく街のファンたち。


 結局、その日の夜。

 宿屋の主人(男)に頼み込んで、ペンチで無理やり仮面を破壊してもらうまで、俺はトイレに行くことすらままならない「アイドル地獄」を味わった。


 教訓。

 変にカッコつけようとするな。

 ありのままの俺(ジャージ姿)が一番平和だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ