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第一章 第八話:「信長との謁見」

岐阜城の城門をくぐると、すぐにその規模と威容に圧倒された。

山の頂にそびえる城は、まさに織田信長の権勢を象徴する存在だった。入り口の巨大な門の前には、槍を構えた織田家の兵たちが並び、厳重な警戒が敷かれていた。俺は深呼吸し、馬を降りた。

「黒川真秀殿、ご到着をお待ちしておりました」

出迎えたのは村井貞勝。温厚な表情だが、その目の奥には鋭い観察力が光っている。俺の一挙手一投足を見極めようとしているのだろう。

「村井殿、貴殿のご手配に感謝いたします」

「さようでございます。信長公は、黒川殿のお考えを直接お聞きしたいとのこと。どうか気を引き締めてお進みください」

俺は頷き、城内へと足を踏み入れた。

城の内部は驚くほど整然としており、無駄な装飾が少なく、それでいて壮麗な構造を持っている。特に、南蛮様式を取り入れたとされる装飾や建材が目に入り、信長の新しい価値観が体現されているのが分かる。

「こちらへ」

村井に導かれ、俺は城の奥深くへと進んだ。やがて、大広間の前で足を止める。

「黒川真秀、織田信長公に謁見いたします」

宣言とともに襖が開かれた。

________________________________________

織田信長、天下人の眼差し

広間の奥、黄金に輝く屏風の前に、織田信長が座していた。

豪奢な装いではない。しかし、そこにいるだけで圧倒されるような存在感がある。織田信長という男は、間違いなく、この戦国の世を統べるべき人間なのだと直感した。

「ほう……お主が黒川真秀か」

信長は鋭い眼光を俺に向ける。見下すわけでもなく、かといって親しげでもない。相手の本質を見極めるための視線だ。

「ははっ! 信長公のお目にかかることが叶い、恐悦至極にございます」

俺は深く頭を下げる。

「……頭を上げよ」

低く響く声。

顔を上げると、信長は俺をじっと見つめていた。

「黒川、お主が越前で商業を盛んにするつもりだと聞いたが、それは誠か?」

「御意。越前は敦賀港を擁し、北国と西国を結ぶ交易の要衝にございます。ここを商業の中心地として確立できれば、織田家の財政基盤もより安定し、戦の継続にも資するものと存じます」

信長は静かに頷いた。

「ふむ……お主の狙いは何だ?」

「商業を基盤とすることで、戦に依存しない統治を確立することにございます。そのために、織田家の後ろ盾を得て、越前の発展を促したく存じます」

俺の言葉を聞いた信長は、しばし沈黙した。

「面白いことを申すな」

微かに笑みを浮かべる。

「この戦国の世で、商業をもって国を治めるか……ふはは、貴様、面白いことを考えるではないか!」

突然、信長が笑い出した。

「しかし、黒川よ……お主の考えは良い。だが、ひとつ聞こう。もし、お主の目論見が、余の考えに背くことになった場合……どうするつもりだ?」

俺は迷わず答えた。

「信長公が日本を統べるお方であるならば、私はその道を支える者となるのみ。織田家の力があってこそ、越前の繁栄も成し得ることと存じます」

「ほう……」

信長はしばし考え込み、やがて口を開いた。

「よかろう。黒川よ、貴様に越前の商業を委ねる。だが、忘れるな。余に刃向かうことがあれば、一瞬で潰すぞ」

「御意!」

俺は再び深く頭を下げた。

信長は俺の意図を理解し、受け入れた。しかし、それは同時に、織田家の監視下に置かれることも意味している。

だが、これで道が開けた。

越前は、織田家公認の商業国家となる。

俺は、新たな時代を作るために歩みを進める。


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