第一章 第六話:「信長の反応」
秋の冷たい風が城の石畳を吹き抜ける。商人たちとの会合が成功した今、次に向き合うべきは織田家の反応だ。
黒川家が越前の商業を担うと決めた以上、それを信長に認めさせねばならない。
俺は、織田家の家臣であり、信長の信頼厚い村井貞勝へ書状を送った。そこには、黒川家が商業を基盤にした統治を行うこと、その経済基盤が織田家の財政を支えることを簡潔に記した。
「……さて、信長公はどう出るか」
信長という男は、一般的な戦国武将とは違う。
この時代の多くの大名は、土地を支配し、領民から年貢を徴収することで財源を確保していた。しかし、信長は違う。
商業を重視し、経済を活用することで戦を支える体制を築いた武将だ。
関所の撤廃や楽市楽座の導入、そして南蛮貿易を積極的に行い、莫大な富を得ていた。
俺の構想が受け入れられる可能性は十分にある。しかし、信長は慎重な男だ。俺の提案が彼の利益に適うと判断されなければ、一瞬で否定されるだろう。
そして数日後、村井貞勝からの返書が届いた。
「黒川殿、信長公が直々にお会いしたいとのことです」
俺は息をのんだ。
「……本能寺か?」
「いえ、岐阜城です」
岐阜城。
かつての稲葉山城を改修し、織田家の中枢として機能している城だ。そこで、信長は直接俺と会談をするという。
「つまり、俺の提案に対する決断は、まだ出ていないということか……」
もし信長が完全にこの案を受け入れるつもりならば、書状一つで済ませるはずだ。しかし、こうして直に会うことを選んだ以上、俺の考えを見極めようとしているのだろう。
「村井殿、会談はいつです?」
「五日後です」
「分かりました。岐阜へ向かう準備を整えましょう」
俺はすぐに家臣たちを呼び、旅の準備を進めるよう指示した。
この会談は、黒川家の運命を左右する。
信長がこの計画を受け入れれば、黒川家は越前での統治権を強固なものとし、商業国家への道が開ける。しかし、拒絶されれば——いや、それどころか、信長の怒りを買えば黒川家そのものが危うくなる。
「俺は戦国時代に生きている。この世界で生き残るためには、信長という男を理解し、その意向を掴み、共に進む道を見出さなければならない」
馬の準備が整い、俺は家臣数名を連れ、岐阜城へと向うことにした。
信長との対話が、今始まる。