第二章 第五十六話:「堺の商人の敗北と黒川家の商業確立」
天正六年(1578年)春——堺・津田宗及の屋敷
南京での交渉を終え、正式な勘合符を手に入れた黒川家の成功は、堺の商人たちにとって衝撃的な出来事だった。これまで日本の交易を独占してきた堺は、大きな脅威に直面していた。
「……勘合符を手に入れただと?」
津田宗及は、使者からの報告を受け、茶碗を静かに置いた。
「まさか……本当に明国が黒川家を認めるとは。」
彼の周囲に集まる堺の有力商人たちは、皆、動揺を隠せずにいた。
「黒川家が勘合貿易を始めれば、我々の影響力は急激に低下する!」
「これでは、堺の商業基盤が崩れてしまう……。」
津田はゆっくりと息をついた。
「ここまで来ると、もう黒川家を妨害する手段は限られる……。織田信長公も黒川家の交易を認めてしまった今、強硬策は取れぬ。」
「では、どうするのです?」
津田は目を閉じ、考えを巡らせた。
「……今後は黒川家と共存する道を探るしかあるまい。」
商人たちは驚いた表情を見せた。
「しかし、それでは……。」
「堺はこれまで数百年もの間、交易の中心だった。しかし時代は変わる。我々が変わらねば、堺そのものが衰退してしまう。」
津田宗及はゆっくりと立ち上がり、厳しい表情で言った。
「黒川家が新たな商業国家として台頭するのならば、我々もそこに組み込まれる道を探るのだ。」
商人たちは互いに顔を見合わせながら、ようやく津田の決断を受け入れ始めた。
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*敦賀城——黒川家の新たな商業体制
堺の商人たちが黒川家との対立を緩める中、黒川家では新たな商業体制の確立が進んでいた。
「これで、正式に黒川家が日本の交易を担うことになる。」
藤堂宗春が満足げに言った。
「今後は、堺の商人たちとの関係を慎重に調整しながら、新たな貿易の流れを作ることが肝要ですな。」
間宮時継が地図を広げた。
「越前敦賀港を中心に、堺・長崎・博多・琉球と連携し、交易ネットワークを広げる。これによって、日本全体の商業を統括できるようになるでしょう。」
俺は静かに頷いた。
「黒川家の商業国家としての基盤が、ようやく整った。」
「次なる課題は?」
藤堂宗春が問う。
「南蛮貿易の拡大と、東南アジアとの直接交渉だ。」
俺は扇を閉じ、静かに言った。
「この日本の商業の中心となる黒川家が、さらに世界へと歩を進める時が来た。」
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この日、黒川家は正式に日本の貿易を主導する立場を確立した。堺の商人たちは黒川家と対立するのではなく、新たな商業秩序の一員として生き残る道を選んだ。
しかし、交易が拡大するにつれ、新たな問題が浮上するのは明白だった。
スペイン・ポルトガルとの交渉、東南アジアの勢力、そして新たな商業戦争——。黒川家の挑戦は、まだ始まったばかりである。




