第二章 第五十五話:「勘合符獲得の最終交渉」
天正六年(1578年)春——南京・明国官庁
織田信長の許可を得た俺たちは、勘合符の正式な発行に向けた最後の交渉のため、再び南京の明国官庁を訪れた。ここでの交渉に勝てば、黒川家の交易は公認され、日本の貿易史を大きく塗り替えることになる。
「黒川殿、ようこそ。」
商務を統括する役人、周啓祥が厳かに出迎えた。
「貴殿の申し出について、朝廷内でも検討が進んでいる。だが、最後の試練が残っている。」
俺は静かに頷いた。
「試練とは?」
「貴殿がわが国にとって真に有益な存在であるかどうか、証明することだ。すでに倭寇討伐や貢献の意思は確認した。しかし、交易を安定させるには、黒川が長期的に信頼に足る相手であると保証せねばならぬ。」
俺は周啓祥の視線を受け止めた。
「どうすれば、それを証明できる?」
周啓祥は静かに茶を啜り、言った。
「明国へ正式な『貢ぎ物』を納め、皇帝陛下の恩寵を受けることだ。」
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貢ぎ物の選定
「貢ぎ物か……。」
藤堂宗春が低く呟く。
「これは単なる形式ではなく、黒川家が明国の規範を尊重し、貢献する意思を示すためのものですな。」
間宮時継が地図を広げた。
「何を献上すべきでしょう?」
朝貢貿易か、俺は慎重に考えた。
「明国にとって価値のあるもの……。」
俺は筆を取り、献上品の案を記した。
1.最高級の漆器(越前・輪島塗)
2.武具(日本刀)(最高級の鍛造技術によるもの)
3.薬草・漢方原料(日本独自の薬学の貢献)
4.日本の新たな茶道具(千利休の監修による茶器)
「これらは、明国にとっても価値のあるものばかりだ。」
藤堂宗春が頷く。
「明の皇帝に強い印象を与えられるでしょう。」
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*最終交渉
貢ぎ物の準備を整えた俺たちは、再び南京へ赴いた。
「黒川は、皇帝陛下への誠意を示すため、これらの品物を献上いたします。」
周啓祥は献上品を一つずつ確認し、やがて満足げに頷いた。
「これは……素晴らしい。」
「我々は、単なる貿易相手ではなく、貴国との長期的な信頼関係を築きたい。」
俺は慎重に言葉を選びながら続けた。
「この交易が、双方に利益をもたらすと信じている。」
周啓祥はしばし沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「よかろう。貴殿らの交易を、明として正式に認める。これより、日本の黒川に勘合符を発行する。」
俺は深く一礼した。
「深く、感謝いたします。」
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数日後、南京の官庁にて正式な式典が執り行われた。俺は明国の高官たちの前で、正式な勘合符を受け取った。
「これにより、貴殿らはわが国と正式に貿易を行うことができる。」
勘合符は、日本と明国の交易を正式に許可する証であり、これを持つことで黒川家の交易は公的に認められた。
式典の後、藤堂宗春が笑みを浮かべながら言った。
「ついに、やりましたな。」
間宮時継も満足げに頷く。
「これで、黒川家は日本の貿易の新たな中心となる。」
俺は勘合符を握りしめながら、静かに呟いた。
「これが、新たな時代の始まりだ。」
しかし、この成功は同時に新たな敵を生むことになる——。
反黒川の堺商人は難物ですね。




