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第二章 第四十六話:「明国官僚との対面」

天正五年(1577年)晩夏——マカオ・ポルトガル商館

明国との交易を成立させるため、ポルトガル人の仲介で明国の官僚と接触することになった。交渉の場は、マカオにあるポルトガル商館の一室。明国側からは、広州の役人である**王志遠おう しえん**が使者として派遣されてきた。

「黒川殿、こちらが王志遠様です。」

ポルトガル商館の責任者、ドゥアルテ・ペレイラが紹介する。

王志遠は落ち着いた表情を崩さず、俺をじっと見つめた。

「貴殿が黒川家の当主か?」

流暢な中国語で問われた俺は、静かに頷いた。

「その通り。我々は貴国との正規の交易を望んでいる。」

王志遠は茶を一口啜りながら、慎重に言葉を選んだ。

「我々の国では、日本との正式な貿易は現在認められていない。にもかかわらず、なぜ貴殿は交易を求めるのか?」

俺は微笑みながら、扇を広げた。

「交易とは、互いに利益をもたらすもの。我々が持つ鉄、漆器、陶磁器、香木は貴国にとって価値のあるものではないか?」

王志遠は沈黙し、扇を手に取った。

「貴殿の言うことは尤もだ。しかし、倭寇の問題もある。貴殿が我々に害を及ぼさぬ保証は?」

「それを証明するために、我々は貴国の規律に従い、正規の貿易手続きを踏む覚悟がある。」

俺は慎重に言葉を紡いだ。

「黒川家はただの商人ではない。織田家の信任を受け、日本の安定に尽力している。もし貴国と正式な貿易関係を築ければ、倭寇の取り締まりにも協力できる。」

王志遠の目が僅かに細まった。

「ふむ……織田家の名を出すとは、貴殿はただの地方商人ではないのだな。」

俺は扇を閉じ、静かに頷いた。

「我々が築くのは、戦ではなく商業の道。我々が交易を進めることで、明国も日本も、互いに利益を得ることができる。」

________________________________________

*交渉の行方

長い沈黙の後、王志遠は微笑みを浮かべた。

「興味深い……。」

彼はゆっくりと茶を置いた。

「貴殿の提案を持ち帰り、広州の上層部に伝えるとしよう。しかし、貴殿の誠意を示すために、いくつか条件を出させてもらう。」

俺は静かに頷いた。

「お聞きしよう。」

王志遠はゆっくりと指を折った。

「第一に、日本側の商人が正式な勘合符を持つこと。これは、明の商業規律を守るための最低条件だ。」

「承知した。我々はその手続きを取るつもりだ。」

「第二に、貴殿が持参する交易品の品質を保証すること。明国では偽物や粗悪品の流通を厳しく取り締まっている。」

「黒川家の名にかけて、最高の品を提供しよう。」

王志遠は少し微笑んだ。

「第三に……この交渉の成否を決めるのは、広州の更に上の役人たちだ。貴殿が彼らと直接会談する準備はあるか?」

俺は目を細めた。

「むしろ望むところだ。」

王志遠は立ち上がり、扇を閉じた。

「では、我々は広州へと戻り、上層部にこの話を伝えよう。貴殿も、準備を整えておくがよい。」

俺は深く一礼した。

「貴国との交易を成功させるため、全力を尽くす。」

________________________________________


その夜、俺はマカオの港を眺めながら考え込んでいた。

「次は広州か……。」

藤堂宗春が隣で笑った。

「しかし、明国の官僚との対面を果たしただけでも、大きな前進ですな。」

「確かに。しかし、ここからが本当の勝負だ。」

俺は夜風を感じながら、静かに呟いた。

「この交渉が成立すれば、黒川家の商圏は更に広がる。日本と明の新たな時代を切り拓くためにも、全力で臨むとしよう。」


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