第二章 第四十五話:「明国交易の突破口」
天正五年(1577年)晩夏——敦賀城
琉球王国との交渉を終えた俺は、正式な返答を待ちながら、次の一手を考えていた。琉球を通じて明国と交易するためには、さらに慎重な外交と準備が必要だ。
「殿、琉球王からの返答が届きました。」
藤堂宗春が手紙を持ってきた。
「結果は……?」
俺は静かに巻物を開いた。
——琉球王尚永は、黒川家との交易を歓迎する。琉球を経由して明国へ物資を送ることを許可し、黒川家が南蛮商人と共に貿易を発展させることを期待する——
俺は静かに頷いた。
「よし、第一段階は突破した。」
間宮時継が腕を組みながら言った。
「とはいえ、これで終わりではありませんな。明国は、正式な勘合貿易を重視しており、無許可の交易は密貿易と見なされる危険があります。」
「だからこそ、明の官僚たちをどう説得するかが重要だ。」
俺は扇を閉じ、地図を指さした。
「次の目的地は、マカオだ。」
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*敦賀城・留守居役との会話
出立前の夜、俺は留守居役として城を預かる黒川直継と向き合っていた。
「殿が日本を留守にされる間、城の防備と政務はお任せを。」
直継は落ち着いた口調で言った。
「家臣たちも心得ておりますゆえ、どうか交易に専念ください。」
「頼むぞ、直継。」
俺は微笑みながら続けた。
「堺の動きには特に注意してほしい。奴らがこちらの商圏を崩そうと何か仕掛けてくる可能性がある。」
直継は静かに頷いた。
「藤堂殿や間宮殿と連携し、黒川家の商業基盤を守ります。どうかご武運を。」
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*マカオ・ポルトガル商館
マカオは、ポルトガル人が明国から租借して築いた貿易都市であり、東西交易の中心地だった。ここを拠点に、明国の役人たちとの交渉を進めることができれば、公式な許可を得る道が開ける。
「Senhor Kurokawa, 貴殿の話は非常に興味深い。」
ポルトガル商館の責任者、ドゥアルテ・ペレイラが微笑んだ。
「しかし、明国との交易は慎重に進めなければならない。特に、倭寇との関係を疑われれば、全てが水の泡になる。」
俺は静かに頷いた。
「その点は理解している。我々は正規の商人として交易を進める。そこで、貴殿の持つ明国の官僚たちへのコネクションを借りたい。」
ペレイラは少し考え込んだ。
「もし貴殿が明国へ利益をもたらす交易品を用意できるならば、交渉の席を設けることは可能だ。」
「それならば、こちらからは日本の最高級の鉄、陶磁器、漆器、香木を提供しよう。」
ペレイラは満足げに頷いた。
「よろしい、では私が明国の役人と接触し、交渉の場を整えよう。」
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その夜、俺はマカオの港を眺めながら、未来を思い描いていた。
「これで、明国との交易の糸口が掴める……。」
藤堂宗春が隣で微笑んだ。
「ついに、黒川家の商圏が東アジア全域に広がる時が来ましたな。」
「まだ道半ばだ。しかし、ここを突破すれば、日本の交易の歴史そのものを変えることになる。」
俺は夜風を感じながら、静かに呟いた。
「次は、明国の官僚たちとの交渉だ。」




