第二章 第四十三話:「明国交易への挑戦」
天正五年(1577年)初夏——敦賀城
堺との商業戦争が最終局面を迎えつつある中、俺はさらに大きな目標に目を向けた。それは、明国との直接交易 である。
「殿、いよいよ動かれるのですね。」
藤堂宗春が地図を広げながら言った。
「南蛮商人との交易は成功し、博多との連携も強化されました。しかし、明国との交易となると、やはり障壁が大きいかと。」
「それは承知の上だ。」
俺は地図を指でなぞりながら続けた。
「琉球経由での明国貿易は、基本的に室町幕府の頃から行われていた。しかし、今の日本では正式な勘合貿易は途絶えている。ならば、我々が新たな交易の道を作るまでだ。」
間宮時継が慎重に口を開く。
「明との直接交易は、リスクも大きいですぞ。特に、倭寇の問題が絡めば、向こうの官僚たちが容易に許可を出すとは思えません。」
「だからこそ、倭寇とは違うことを明確にし、我々が正規の交易者であることを示す必要がある。」
俺は微笑んだ。
「そのために、琉球とマカオの南蛮商人を経由し、まずは明の商人たちとの繋がりを作る。」
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*博多・神屋宗湛の商館
「明国との直接交易……。」
博多の有力商人・神屋宗湛は、俺の言葉を聞いて静かに考え込んだ。
「確かに、黒川家がこれまで築いた商圏を考えれば、可能性はある。しかし、明国側にその意思があるのか?」
俺は茶を啜りながら答えた。
「そこは、南蛮商人と琉球の力を借りる。我々は琉球経由で明の商人たちと交渉し、南蛮貿易の品々を通じて、向こうに利益を示すのだ。」
神屋宗湛は小さく笑った。
「なるほど、交易は利益こそが全て……明国も結局のところ、商いには逆らえぬというわけですな。」
「その通り。」
俺は扇を閉じ、彼を見据えた。
「琉球の使者を通じて、明国との交易交渉を進める。そして、いずれは日本からの正式な交易団を送り込む。」
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*敦賀・黒川家の南蛮商館
「明との交易を試みる、だと?」
マカオにいるポルトガル商人ジョアン・デ・アルメイダは、俺の提案を聞いて驚きを隠せない様子だった。
俺たちは敦賀にある黒川家の南蛮商館で交渉を進めていた。ここは、日本における南蛮貿易の拠点の一つとして機能し、多くの外国商人が行き交う場所である。
「Senhor Kurokawa, 貴殿の大胆さには驚かされる。だが、明国は日本の交易を正式には認めていないのでは?」
「だからこそ、南蛮商人の協力が必要なのだ。」
俺は静かに言った。
「貴殿らの持つ交易網を活かし、琉球やフィリピン経由で明国の商人たちと接触する。その際、南蛮の品々が流通することが明国にとっても利益になると示せば、向こうも動かざるを得なくなる。」
アルメイダはしばらく考え込み、やがて笑った。
「確かに、それは我々にとっても悪くない話だ。よし、協力しよう。」
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その夜、俺は港を眺めながら、これからの展開を思案していた。
「明国との交易が成功すれば、黒川家の商圏は東アジア全域に広がる……。」
藤堂宗春が隣で微笑んだ。
「まさに、天下を支える商業国家の道が開かれるということですな。」
「その通りだ。」
俺は波間に浮かぶ南蛮船を見つめながら、静かに呟いた。
「この戦いは、まだ終わらぬ。次は、いかにして明国に黒川家の存在を知らしめるか……それが鍵となる。」
日明貿易は、ハードルが高いかな。




