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第一章 第四話:「商業国家への布石」

朝の冷たい空気が頬を撫でる。俺は城の外へ出て、町の様子をじっくりと観察していた。

越前の城下町には、戦の影響が色濃く残っている。焼け落ちた屋敷、放置されたままの農地、目に見えて減った商人たち。民衆の顔には不安が浮かび、かつての賑わいは消えつつあった。

「この状況を立て直さねばならない」

俺は戦国時代の経済構造を思い出す。この時代、商業の中心は堺・博多・京都といった都市だった。これらの都市は、自治を認められた商人たちによって運営され、南蛮貿易を通じて莫大な利益を生んでいた。

一方、越前には敦賀港という日本海交易の要衝がある。ここを活用できれば、黒川家は戦乱の中でも経済基盤を確立し、織田家の中で独自の影響力を持つことができる。

「だが、まずは商人たちの信頼を取り戻す必要がある」

俺は町を巡りながら、商人や農民たちの声に耳を傾けた。

「殿様、今のままでは商売が成り立ちませぬ。戦の影響で街道も荒れ、税も重く、商いどころではないのです」

「ならば、商人が安心して交易できる仕組みを作らねばならんな」

「しかし、織田様のお役人は軍の都合を優先されるばかりで、商人のことなど考えてはくださらぬのです……」

俺は考える。この時代、大名は基本的に軍事を優先し、経済政策にはあまり関心がない。だが、信長は例外だった。

彼は商業の重要性を理解し、関所の廃止や楽市楽座の導入によって自由な経済活動を促した。

「ならば、信長の政策をさらに進めてやる」

俺は城へ戻ると、商業政策の改革を進めるための草案を作り始めた。

① 楽市楽座の徹底

•織田家の方針に倣い、市場の制限を撤廃し、商人が自由に商売できる環境を作る。

•寺社勢力が支配していた市場の権利を解体し、黒川家が公平に管理する。

② 交易ルートの確保

•敦賀港を拠点とし、堺や博多の商人と直接取引を行う。

•南蛮貿易の導入を進め、火薬や鉄砲を輸入しつつ、絹や陶磁器を輸出する。

③ 商人の保護

•黒川家の保証のもと、戦による被害から商人を守る。

•荒れた街道の整備を進め、物流の回復を図る。

策をまとめた俺は、貿易と商業に精通した瀬戸忠勝を呼び出した。彼はかつて堺の豪商の一員だったが、黒川家に仕えて貿易政策を担っている。

「瀬戸、今の越前の商業は瀕死だ。だが、俺はここを商業国家へと変えるつもりだ」

「ほう、殿は信長様よりもさらに商業に力を入れられると?」

「そうだ。そして、それを実行するのはお前だ。商人たちを集め、越前が『交易の要』になるよう根回ししてほしい」

瀬戸は目を輝かせた。

「なるほど……面白い。戦国の世で、戦ではなく商いで国を立て直す。確かに、その可能性はある」

「俺たちは、戦に頼らずとも生き残れる道を作る。そのために、お前の力が必要だ」

瀬戸は深く頷いた。

「承知しました。まずは、商人たちを集め、計画を練りましょう」

こうして、黒川家の経済改革の第一歩が踏み出された。

だが、この動きが織田家にどのように受け止められるか——それが、次の課題となる。


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