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第二章 第三十九話:「フィリピン交易と新たな商圏」

天正五年(1577年)春——敦賀城

堺が黒川家の交易を封じようと画策する中、俺たちはすでに次の一手を打っていた。

「殿、準備が整いました。」

藤堂宗春が、満足げな表情で報告を寄越した。

「マカオのポルトガル商人との直接交渉が進み、さらにフィリピンのスペイン人とも取引の可能性が出てきました。」

「スペイン人……か。」

俺は扇をゆっくり開きながら考え込んだ。

フィリピンは、スペインの支配下にあり、マニラを中心に東南アジアと交易を行っている。ここを押さえることができれば、南蛮貿易の流れを大きく変えることができる。

「彼らの望むものは?」

間宮時継が答えた。

「香木、絹、陶器、鉄、そして金です。」

「ならば、我々は彼らから何を得る?」

藤堂が続けた。

「銀、火薬、鉄砲、そして新たな技術です。特に、スペイン人はポルトガル人とは異なり、大規模な交易と植民政策を進めております。彼らと繋がることで、新たな交易の道が開けるでしょう。」

俺は静かに微笑んだ。

「よし、では交渉に向かう。」

________________________________________

*マニラ湾・フィリピンのスペイン人商館

フィリピンの港町に足を踏み入れた俺たちは、異国の活気を肌で感じていた。マニラの市場には、日本にはない珍しい香辛料、細かい銀細工、カラフルな織物が並んでいる。

「Bienvenido, Señor Kurokawa.」

俺を迎えたのは、スペイン商館の長であるドン・フェルナンド・デ・ラ・クルスだった。

「ようこそ、マニラへ。我々は貴殿との交易を楽しみにしていた。」

俺は軽く頷き、流暢なスペイン語で返した。

「Muchas gracias, Señor Fernando. También deseo que este comercio sea próspero para ambos.(ありがとうございます、フェルナンド殿。我々の交易が互いに繁栄をもたらすことを願います。)」

フェルナンドの目が大きく見開かれた。

「¡Dios mío! 貴殿はスペイン語を話せるのか!」

俺は微笑んだ。

「交易を行うには、相手の言葉を理解するのが基本です。」

彼は愉快そうに笑い、俺の肩を軽く叩いた。

「では、早速取引の話をしよう。」

________________________________________

*交易の交渉——新たな市場の開拓

「我々は、日本の金、鉄、陶器、絹を求めている。」

フェルナンドは言った。

「代わりに、我々の銀、火薬、鉄砲を提供できる。そして……」

彼は少し間を置き、俺の表情を窺った。

「フィリピンで産出される珍しい香辛料や、カカオという豆から作る特別な飲み物もある。」

「カカオ……?」

俺は初めて聞く単語に興味を引かれた。

「これは、ヨーロッパでも珍重される。『チョコレート』という名で呼ばれ、貴族たちが愛飲している。」

「興味深いな。」

俺は考え込んだ。

「ならば、我々の茶の湯と組み合わせることで、新たな価値を生み出せるかもしれない。」

フェルナンドが笑った。

「なるほど、貴殿はただの商人ではないようだ。」

「交易とは、物を売買するだけではない。価値を創り出すことだ。」

俺は扇を閉じ、彼の目を真っ直ぐ見た。

「この取引、成立させよう。」

________________________________________

*黒川家の優位性と堺の焦り

敦賀に戻ると、すぐに藤堂宗春が報告を持ってきた。

「殿、堺の商人たちが動揺しております。」

「フィリピン交易が成功したと知れ渡ったか?」

「はい。南蛮貿易の流れが堺経由ではなく、黒川家を通じるようになれば、彼らの支配力は弱まります。津田宗及殿も危機感を抱いているようです。」

俺は静かに微笑んだ。

「ならば、次はさらに堺を揺さぶる。」

斎藤友継が尋ねる。

「具体的には?」

「京の商人たちと結びつきを強める。そして、公家たちが求める品を堺よりも安く提供し、公家が黒川家を選ばざるを得ない状況を作る。」

間宮時継が低く笑った。

「殿、これはまさしく商業戦争ですな。」

「そうだ。」

俺は静かに夜空を見上げた。

「堺の独占が崩れ、新たな商業国家が誕生するのも時間の問題だ……。」

黒川家の商圏拡大は、もはや止められない流れとなっていた。


スペイン語を話せる人材をもっと育てなければなりませんね。

そろそろ、蒸気船を登場させてもよいかなあ。


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