第二章 第三十八話:「堺の反撃と商業戦争の激化」
津田宗及さんは、難物ですね。
天正五年(1577年)初春——堺・津田宗及の屋敷
京の公家たちが黒川家との取引を開始したという報せが、堺の有力商人たちの間に衝撃を与えていた。
「公家たちが黒川と結ぶなど、考えられぬ!」
津田宗及は、深々と座ったまま茶を一口啜り、静かにため息をついた。
「いや、考えられぬのではない。考えが及ばなかったのだ……黒川家は、単なる商売人ではなく、新しい商業秩序を作ろうとしている。」
周囲の商人たちがざわめく。
「このままでは、堺の独占的な立場が揺らぐ。信長公が黒川を後押ししている以上、手をこまねいているわけにはいかぬ!」
「では、どうする?」
津田宗及は静かに扇を広げ、冷静に語った。
「まずは、公家と朝廷への影響力を強める。それと同時に、黒川家が依存する交易路を揺るがせばよい。」
「交易路を……?」
「そうだ。南蛮貿易において黒川家が利用するルートを封鎖し、越前の商業基盤を崩すのだ。」
津田宗及は不敵に笑った。
「商いとは、力ずくの戦ではない。じわじわと締め上げるものだ。」
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*敦賀港・交易の動揺
その頃、敦賀では異変が起きていた。
「殿、大変です! 琉球経由の交易が滞っております!」
藤堂宗春が駆け込んできた。
「琉球の港が、一時的に堺の商人たちとの取引を優先し、我々の船が入港できなくなっております。」
俺は眉をひそめた。
「津田宗及め……やはり動いてきたか。」
間宮時継が続けた。
「さらに、長崎の南蛮商人たちも、堺を通じた取引を優先するよう圧力を受けているとのことです。」
俺は扇を軽く開いた。
「つまり、奴らは交易の要所を握ることで、こちらの貿易を制限しようというわけか。」
斎藤友継が慎重に言葉を選ぶ。
「ならば、こちらも手を打たねばなりません。」
俺は静かに笑みを浮かべた。
「堺の商人たちが我々を締め上げようとするなら、逆に彼らの交易路を奪えばよい。」
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*黒川家の反撃——交易の多角化
「琉球経由の交易が滞ったのなら、新たなルートを確保するまでだ。」
俺は地図を広げ、各地の交易路を指し示した。
「まず、マカオ経由の南蛮商人たちと直接交渉する。」
藤堂宗春が目を輝かせた。
「つまり、琉球を経由せずとも、直接ポルトガル人と取引できるようにするのですね!」
「そうだ。さらに、フィリピンのスペイン人との取引も強化し、堺の独占を崩す。」
間宮時継が低く笑った。
「それならば、堺は我々の交易を妨害するどころか、自らも巻き込まれることになりますな。」
「加えて、京の公家衆とさらに結びつきを強める。」
俺は扇を閉じ、続けた。
「貿易の要所を押さえるのは商人の戦だが、政治の力を動かすのもまた商いのうちだ。公家たちにとって、堺の商人たちが独占するよりも、黒川家が交易を管理したほうが利益になると示せばよい。」
斎藤友継が感心したように頷いた。
「堺を完全に敵に回すのではなく、彼らがこちらの商流に依存せざるを得ない状況を作るわけですね。」
俺は微笑んだ。
「そういうことだ。」
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その夜、俺は城の縁側に座り、静かに茶を啜った。
「商いとは、戦と同じく、先を読んで動かねばならん。」
俺は夜空を仰ぎながら続けた。
「堺の商人たちがどれほど抵抗しようとも、新たな交易路を切り開けば、黒川家の商業国家としての地位は揺るがない。」
藤堂宗春が笑みを浮かべた。
「次の一手は?」
「フィリピンとの交易交渉を進める。そして、公家との結びつきをさらに強固なものにする。」
俺は杯を置き、静かに呟いた。
「これは商業の戦争だ。負けるわけにはいかぬ。」
海外進出は史実の呂宋助左衛門を出し抜きましょう。




