第二章 第三十三話:「堺の抵抗と商業戦略の新展開」
天正四年(1576年)初冬——
冷たい北風が敦賀港を吹き抜けるなか、黒川家の交易活動はさらに拡大を続けていた。しかし、それに伴い堺の津田宗及の動きも活発化していた。
「殿、堺が新たに明との交易を独占しようと動いております。」
藤堂宗春が報告書を手にしながら伝えた。
「彼らは琉球経由で明の商人との関係を強め、黒川家が独自の貿易ルートを築くのを阻止しようとしています。」
「津田宗及……やはり手強い相手だな。」
俺は静かに巻物を広げ、交易ルートを確認した。
「我々が堺を越えて商業の主導権を握ると考えれば、当然の動きか。しかし、商業とは単なる取引ではない。相手の動きを読んで先を打つのが重要だ。」
間宮時継が頷いた。
「ならば、こちらも新たな一手を打つべきかと。」
俺は静かに息を吐いた。
「そうだ。我々は琉球ではなく、直接南蛮商人との繋がりを深める。そして、京の商人たちに我々の貿易を不可欠なものと認識させるのだ。」
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*京の商人たちとの交渉
黒川家の交易が拡大する中、京の商人たちは新たな動きを見せていた。
「黒川殿の茶器は、今や京の茶人たちにとって不可欠なものとなりつつあります。」
京の有力商人が俺に向かって語った。
「堺との関係を保ちつつも、我々は越前の交易がもたらす利益を見逃すことはできません。」
「ならば、こちらから条件を提示しよう。」
俺は扇を開き、静かに言った。
「京の商人たちが黒川家との取引を優先し、堺への依存を減らすならば、我々はより有利な条件で茶器や貿易品を提供する。」
商人たちは考え込んだ後、頷いた。
「それは魅力的な提案ですな。しかし、津田宗及殿がこの動きを黙っているとは思えません。」
「だからこそ、信長公の名を借りるのだ。」
俺は微笑んだ。
「信長公は、黒川家の交易が織田家の軍資金を支えていることを理解している。公的に認められた交易であれば、堺も強く反発はできまい。」
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*堺の対応と新たな商業圏の形成
堺では、黒川家の動きに対する対応が練られていた。
「京の商人たちが黒川家の交易を支持するとは……予想以上に手を打ってきたな。」
津田宗及が厳しい表情で呟いた。
「しかし、堺は簡単には揺るがぬ。我々には、これまで築き上げた信用と交易網がある。」
堺の商人たちが静かに頷く。
「ならば、我々も対抗策を打ちましょう。」
「信長公が黒川家を支持しているならば、我々は公家や京の一部勢力と結びつきを強め、独自の権益を守る。」
津田宗及は杯を手に取り、冷たく笑った。
「戦いはまだ終わらぬ。」
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その夜、俺は再び敦賀の港を歩いた。
商業の戦いは、剣を交える戦とは異なる。しかし、勝敗の行方は同じく、戦略と先見の明にかかっている。
「京と堺の均衡が崩れつつある今、我々がどこまで先を読めるか……。」
俺は静かに波を見つめながら、次の一手を練り始めた。
「商業国家としての未来を、確実なものとするために。」




