第二章 第三十一話:「京の寺社と商業の影響力」
天正四年(1576年)秋——
寺社との結びつきを強化するため、黒川家は京へと使者を送ることにした。越前の商業発展が単なる取引の拡大ではなく、文化と結びつくことで織田家の支配にも寄与することを示すためだ。
「殿、京の東福寺、建仁寺、北野天満宮など、名のある寺社が黒川家の申し出に興味を示しております。」
藤堂宗春が報告する。
「特に、茶の湯文化と結びつく南蛮交易品への関心が強く、寺社の儀式や茶会に新たな価値を見出そうとしているようです。」
「なるほど……。」
俺は巻物を広げ、寺社との交易の流れを確認した。
「公家衆は堺の交易網を維持しようとしているが、寺社が我々の品を必要とするならば、京の商業圏において黒川家の存在はより強固なものになる。」
間宮時継が慎重に言葉を選ぶ。
「しかし、寺社を味方につけることで公家の反発も増すでしょう。」
「その通りだ。」
俺は静かに頷いた。
「だからこそ、寺社への寄進は慎重に行う。単なる布施ではなく、文化を支える者としての役割を果たすことで、黒川家の交易を正当化するのだ。」
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*京の動き——寺社勢力との交渉
黒川家の使者が京に到着すると、まずは東福寺の僧たちと会談を持った。
「黒川殿の貿易は、我々の儀式や茶会にとっても有益なものとなるでしょうな。」
東福寺の僧が、黒川家の使者に向かって語った。
「香木や南蛮の茶器、それに特注の漆器などが揃えば、格式のある茶席を設けることができます。」
「それだけではございません。」
黒川家の使者が続ける。
「寺社がこれらの交易を通じて独自の経済基盤を築くことができれば、公家の影響力からも一定の距離を保つことが可能となります。」
「……確かに。」
僧侶たちは互いに顔を見合わせた。
「公家の力が弱まることは、寺社にとっても好都合かもしれませんな。」
「ただし、信長公の意向もあります。我々が過度に黒川家へ依存することは、織田家の権威を脅かしかねません。」
黒川家の使者は微笑んだ。
「それゆえ、黒川家の交易が織田家の財政を支え、信長公の勢力強化に寄与していることもお伝えください。寺社が黒川家の貿易を利用することで、織田家の支配力も増すのです。」
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*公家の反発と織田家の立場
「殿、公家衆が堺の津田宗及と接触し、黒川家の交易を制限しようと動いております。」
間宮時継が報告を持ち込んだ。
「信長公に、黒川家の勢力拡大が公家の支配を脅かすと訴えているようです。」
「想定内だ。」
俺は静かに言った。
「だが、すでに信長公には黒川家の交易が織田家の財源を支えていることを伝えてある。公家がどれほど騒ごうとも、織田家の利になる限り、信長公は動かない。」
藤堂宗春が付け加えた。
「さらに、寺社勢力が黒川家に依存すれば、公家衆の影響力を抑えることができます。」
「その通り。」
俺は巻物を閉じ、静かに微笑んだ。
「商業とは、単なる取引ではない。政治の均衡をも動かす力を持つ。」
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その夜、俺は城の縁側で静かに茶を点てた。
茶碗に映る月を眺めながら、交易がもたらす未来を考えた。
「寺社と公家、織田家内の勢力……すべてを絡め取り、黒川家の商業国家としての地位を確立する。」
俺は静かに息を吐いた。
「まだまだ道は長い。しかし、確実に前へ進んでいる。」




