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第一章 第三話:「織田家との駆け引き」


朝の冷気が肌を刺す。秋が深まる越前の空は澄み渡り、夜露に濡れた城の屋根瓦が朝日を反射して輝いていた。俺は、織田家の派遣した役人との会談に向かっていた。

信長が越前を征服した後、まだ統治の体制が完全に整っていない今こそ、交渉の余地がある。織田家は実利を重んじる。彼らにとって利益になる提案をすれば、我々黒川家がある程度の自治権を得ることも可能だ。

俺の計画は明白だった。**「越前を戦の地ではなく、商業と生産の拠点へ変える」**こと。そのためには、織田家の信頼を得ると同時に、あまりにも強くなりすぎて目障りな存在にならないよう慎重に動く必要がある。

「若君、織田家の役人、村井貞勝殿がお待ちです」

案内の者がそう告げた。村井貞勝——信長の側近であり、行政面の実務に長けた男だ。軍事一辺倒の者ではなく、冷静な計算ができる人間であることが、今回の交渉には幸いだった。

俺は襖を開け、静かに部屋に入った。

「お待たせしました。黒川真秀でございます」

「お初にお目にかかる。織田家家老、村井貞勝である」

村井は温和な表情を浮かべながらも、その目には鋭い光が宿っていた。単なる役人ではなく、戦国の修羅場を知る男の目だ。油断はできない。

「早速だが、黒川殿——貴殿は織田家の支配のもとでどのように越前を治めるつもりか?」

単刀直入だ。無駄のない進行、さすが織田家の官僚だと感心する。

「越前は、今まさに大きな転換点にございます。戦の傷跡は深く、民は動揺し、旧体制が崩れた今、新たな統治の形を示さねばなりません。しかし、刀ではなく、米と金による統治が最適かと存じます」

「ほう?」

村井が興味を示す。俺は続けた。

「この地は、商業の要衝である敦賀港を擁し、南蛮貿易をさらに発展させることが可能です。また、寺社勢力と争うのではなく、彼らを金融や物流の拠点として組み込めば、経済発展と安定が同時に得られます。すなわち、越前は戦場ではなく、商業都市へと変えるべきです」

「……ふむ。興味深い考えだ。しかし、織田家は寺社勢力には厳しい。信長様が比叡山を焼き討ちにされたことは知っておろう?」

「もちろんです。しかし、信長公が排除されたのは『権力を持ちすぎた宗教勢力』であり、経済に貢献する寺社ではないかと」

「……つまり?」

「寺院の武装解除を徹底することで、政治の場から排除し、経済活動に専念させるのです。これにより、信長公の方針にも沿いながら、無駄な戦を避け、織田家に安定した税収と商業の利益をもたらします」

村井は腕を組み、考え込んだ。

「黒川殿、貴殿は実に面白いことを申す。だが、肝心の民衆や寺社側がそれを受け入れる保証があるのか?」

「すでに動いております」

俺は永泉との会談を持ち出し、一向宗側が対話の余地を残していることを説明した。

「越前一向宗門徒たちには生きる道を示す必要があります。生き残る道を示せば、彼らもそれに従うでしょう」

「……信長公は武力での解決を好まれるが、貴殿のような考えを嫌うわけではない」

村井はゆっくりと頷いた。

「よろしい。織田家はこの方針を注視しよう。だが、ひとつ心得ておけ——信長公の意に沿わぬ動きを見せたとき、黒川家は即座に処断される」

「承知しております。しかし、信長公の戦略に利益をもたらす限り、我々も必要とされるはずです」

村井は微笑した。

「やはり、貴殿はただの文官ではないな。よい、信長公に報告しよう。貴殿の考えがどこまで受け入れられるか、見させてもらう」

こうして、俺は織田家の認可を得る足掛かりをつかんだ。

だが、これはほんの始まりにすぎない。寺院勢力を説得し、商業改革を推し進め、信長の期待を裏切らず、それでいて黒川家の独自性を保たねばならない。

政教分離への道は、まだ険しい。


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