第二章 第二十七話:「商業国家の礎」
天正四年(1576年)初夏——
柴田勝家との交渉が成立し、黒川家は織田家内において、軍事と商業の両面で確固たる地位を築くことに成功した。交易と戦を結びつけることで、軍備増強を求める武断派とも一定の協調関係を保つことができるようになったのだ。
しかし、この動きは越前国内だけでなく、京や堺の商人たちにも大きな影響を与えていた。
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*京の反応——公家勢力の動き
「殿、京の商人たちの中に、我々との協定に警戒を強める者も現れました。」
藤堂宗春が持参した報告書には、公家勢力が黒川家の商業支配を危険視しているとの記述があった。
「公家たちは、商業の利権を堺と連携することで維持しようとしている。越前の独立した交易網が拡大すれば、彼らの影響力は弱まることになる。」
斎藤友継が慎重に言葉を選ぶ。
「京の商人の中には、堺との関係を維持したい者も多いです。特に公家と結びつきの深い商人は、黒川家が商業の中心になることを脅威と見ております。」
俺は静かに考え込んだ。
「ならば、京の商人が黒川家の交易に依存せざるを得ない状況を作るべきだ。堺を完全に排除するのではなく、京と越前の交易の方が利益を生むと認識させる。その一環として、南蛮貿易を活用しよう。茶器に適した品々を朝鮮や南蛮貿易を通じて入手し、それらの価値を高める。そして、それらを千利休殿に鑑定してもらい、茶の湯文化に活かすことで、新たな価値を生み出すのだ。」
間宮時継が頷いた。
「具体的には、どう動きますか?」
「京において、黒川家専属の商館を開設する。そして、取引を越前経由にすることで、輸送コストを下げる。公家勢力が堺に依存する理由をなくしてしまえば、京の商人たちは自然とこちらへ流れる。」
「それができれば、公家の影響力も大きく削げますな。」
「同時に、公家の中で我々に好意的な者を見つけるのも重要だ。」
俺は扇を広げながら静かに言った。
「朝廷や寺社の一部と協力し、文化的な影響力を強める。彼らにとって、黒川家が敵ではなく庇護者であると示せば、我々の商業圏が安定する。」
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*堺の反応——津田宗及の策謀
「殿、堺の津田宗及が、再び京の公家と接触したようです。」
間宮時継が情報を伝えてきた。
「津田は我々の台頭を阻止するため、公家を通じて信長公へ圧力をかけようとしているのか?」
「その可能性は高いです。」
俺は深く息をつき、戦国の商業の複雑さを改めて実感した。
「ならば、こちらも手を打たねばならん。」
斎藤が口を開く。
「津田宗及を排除する動きを進めますか?」
俺は首を横に振った。
「いや、堺を完全に敵に回すのは得策ではない。むしろ、堺の商人の中で我々に協力的な者たちと結びつきを強める。」
藤堂が頷く。
「例えば、今井宗久殿や千利休殿がいますな。彼らは信長公にも近い存在です。」
「そうだ。茶の湯の文化を通じて、堺の商人と京の文化人を結びつけ、黒川家の存在を不可欠なものとする。また、輪島の漆職人に目をつけ、特注の茶道具を作らせよう。越前の商業文化を独自の価値に昇華させることで、堺や京の商人たちにとっても無視できぬ存在となる。」
俺は笑みを浮かべた。
「商業だけではなく、文化的な影響力を広げることで、津田宗及の動きを抑え込むのだ。」
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*未来への布石
夜、俺は城の庭を歩きながら、遠く敦賀の港を眺めた。
商業国家としての基盤は整いつつある。しかし、経済だけではなく、政治的な駆け引きも必要な段階に入っている。
「これからが本当の勝負だな。」
俺は静かに呟いた。
「戦国の世で商業が国を動かす……その証を刻む時が来た。」
津田宗及...難しい商人です。




