第二章 第二十五話:「交易の拡大と政治の駆け引き」
天正四年(1576年)春——
春風が越前の地を吹き抜け、雪解けとともに新たな季節が訪れた。港では商人たちが忙しく立ち働き、敦賀から堺、京へと向かう商隊が行き交っている。
「殿、京の商人たちが正式な商業協定を結ぶことを承認しました。」
藤堂宗春が朗報を携えて現れた。
「協定には、琵琶湖経由の物流の安定化、京の商館設立、および黒川家が京の交易の一部を管理する条項が含まれています。」
「……ついにここまで来たか。」
俺は地図を広げ、新たに確立された商業ルートを確認した。
「これで、京と越前の結びつきがより強くなり、堺の影響力を相対的に抑えることができる。」
斎藤友継が慎重に言葉を選びながら進言する。
「しかし、これにより堺の保守派がさらに反発することも考えられます。津田宗及が黙っているとは思えません。」
俺は深く頷いた。
「津田が動くならば、京の商人たちにとっての越前の価値をさらに高めることで、選択の余地をなくしてしまえばよい。」
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*柴田勝家の新たな牽制
「殿、柴田勝家殿が再び動きを見せました。」
間宮時継が密書を差し出す。
『黒川、商業の拡大は結構なことだ。しかし、織田家の戦の支えがなければ、その繁栄も続かぬことを忘れるな。軍備のさらなる充実を期待する。』
「……つまり、さらなる軍事資金の拠出を求めているのか。」
俺は静かに密書を閉じた。
「商業の発展を続けるには、織田家内での立場を維持する必要がある。柴田殿の要請を完全に無視するわけにはいかん。」
斎藤が慎重に口を開いた。
「開発軍団の規模を拡大し、それを商業の発展と軍事の強化を兼ねた組織にするというのはどうでしょう?」
「ふむ……それならば、表向きは柴田殿の要望に応える形となる。」
俺はしばらく考えた後、決断した。
「よし、開発軍団の増強を進めると同時に、交易の安全確保のための護衛部隊をさらに強化する。これをもって、軍備の拡張と説明しよう。」
間宮が頷いた。
「織田家内の武断派への牽制にもなりますな。」
「そうだ。そして、信長公にも報告を入れよう。我々の動きが織田家の利益に資するものであると示す必要がある。」
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*交易拡大の新たな展開
「殿、京と越前の商業協定が締結されました。」
藤堂宗春が正式な文書を持ってきた。
「これにより、越前は日本海交易の拠点としてさらに発展し、京の商人たちも堺に頼らずとも物資を調達できるようになります。」
「そして、それは堺にとっても無視できない変化となる。」
俺は巻物を閉じ、静かに微笑んだ。
「津田宗及にとって、この協定は彼の権力基盤を揺るがすものとなるだろう。」
斎藤が言った。
「となると、津田は何かしらの手を打ってくるでしょうな。」
「それに備え、我々も手を打つ。京の商人との関係をさらに深め、交易の流れをこちらに完全に引き込むのだ。」
俺は港の方を見つめた。
「ここからが、商業国家・越前の真の試練となる。」




