第二章 第二十四話:「軍備と商業の均衡」
天正四年(1576年)初春——
冬が明け、越前の地にも春の兆しが見え始めた。雪解け水が川を満たし、町の往来が再び活気を取り戻しつつある。
しかし、商業の発展と共に、黒川家は新たな試練を迎えていた。
「殿、柴田勝家殿が再び使者を寄越しました。」
間宮時継が密書を手にしている。
俺はそれを受け取り、静かに開封した。
『黒川、商業の繁栄は結構。しかし、織田家の一翼を担う以上、相応の軍備を備えるべきではないか。北の上杉も未だ健在。今後の戦に備えるがよかろう。』
「またか……。」
俺は軽く嘆息しながら、巻物を机に置いた。
斎藤友継が慎重な口調で言う。
「商業国家を目指す我々にとって、軍備増強は避けたいところです。しかし、これを無視すれば、織田家内での立場が弱まる可能性もあります。」
「そうだな。しかし、我々が軍を増やせば、それは黒川家の独立性を高めることにもなる。」
俺は深く考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「交易ルートの安全を名目に、護衛部隊を正式に組織する。これにより、軍備増強の要請に応えつつ、我々の目的を達成する。」
藤堂宗春が頷いた。
「それならば、商業の安定のためと説明できますな。」
「さらに、兵たちに戦闘だけでなく、築城や測量、航海術の基礎も学ばせる。軍ではなく、開発軍団として組織しよう。」
間宮時継が驚いた表情を浮かべた。
「開発軍団、ですか?」
「そうだ。彼らが戦場で戦うだけではなく、港の拡張や街道整備、さらには交易路の防衛にも関与できるようにする。」
斎藤友継が腕を組み、深く考え込む。
「軍備を増強しながらも、それを商業発展のために利用する……これは、面白い策ですな。」
「そうだ。柴田殿に報告する際には、開発軍団の設立について伝えよ。我々は織田家の力を支えるための兵を持つが、それは戦だけのためではない、と。」
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*堺と京の動き
「殿、京の商人たちがいよいよ本格的に越前との交易を望んでおります。」
藤堂宗春が嬉しそうに報告する。
「琵琶湖経由の物流が安定し、堺を経由しない取引が増えたためです。」
「京の商人が動けば、公家勢力の影響はさらに弱まる……。」
俺は机上の地図を指でなぞりながら、交易ルートの流れを確認した。
「だが、当然ながら津田宗及はそれを黙って見ているはずがない。」
間宮時継が口を開く。
「津田宗及は堺の自治を守るため、公家や織田家内の反対勢力と接触している可能性があります。」
「ふむ……ならば、京の商人たちとの関係をさらに強固にするため、正式な商業協定を結ぶべきだ。」
斎藤友継が頷いた。
「殿、それができれば、堺の影響力はますます減退するでしょうな。」
「そうだ。そして、公家勢力の影響を封じるため、京の寺社とも関係を築く。経済を動かすだけでなく、文化的な結びつきを持つことが重要だ。」
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*新たな未来へ
その夜、俺は城の庭で夜風を感じながら、未来を思い描いていた。
この体に転生してきて、史実にない理想を追い求め、ここまで来た。
交易は拡大し、商業国家としての礎が築かれつつある。しかし、その道のりは決して平坦ではない。
「戦を避けつつも、強さを示す。商業を発展させながらも、秩序を守る。」
俺は空を見上げ、呟いた。
「これが、新たな時代の歩みだ。」




