第二章 第二十三話:「商業の拡張と新たな策謀」
天正三年(1575年)晩冬——
敦賀の港に新たな活気が満ち溢れていた。年の瀬を迎え、堺との第二次交易が成功裏に進む中、京の商人たちも越前との結びつきを強める動きを見せ始めた。
「殿、琵琶湖経由で京への物流が安定し始めました。」
斎藤友継が報告する。
「京の商人たちも、堺を経由せずに直接越前と取引を行うことに興味を示しているようです。」
「それは良い兆しだ。」
俺は地図を広げ、交易ルートの流れを確認した。敦賀港から琵琶湖を通じて京へ物資を運ぶこの新たな商業ルートが軌道に乗れば、公家勢力の影響を抑えつつ、商業圏をさらに拡大することができる。
「だが、当然ながらこれを快く思わない勢力もある。」
間宮時継が口を開いた。
「堺の商人たちの中でも、まだ反発している者がいます。津田宗及の一派が、京の商人たちに働きかけ、越前との交易に圧力をかけようとしているとの情報が入りました。」
「津田宗及か……。」
俺は眉をひそめた。彼は商業の急激な変化を恐れ、伝統的な堺の自治を守るために動いている。しかし、その影響が強まりすぎれば、商業の発展そのものが停滞してしまう。
「ならば、彼らの動きを牽制しつつ、さらなる利益を提示して京の商人たちを引き寄せる策を考えねばならんな。」
「具体的には?」
「琵琶湖沿岸に新たな市場を開設し、京の商人たちが越前の物資をより直接的に扱える仕組みを整える。これにより、京の市場が越前を通じて拡大することを証明するのだ。」
斎藤が頷いた。
「それが成功すれば、京の商人たちは堺ではなく越前との取引を優先するようになりますな。」
「そうだ。しかし、津田宗及は黙ってはいまい。」
俺は深く息をついた。
「そして、柴田勝家も。」
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*柴田勝家の新たな動き
「黒川殿、柴田勝家殿より新たな通達が届いております。」
間宮時継が、密書を差し出した。
俺はそれを受け取り、開封した。
『黒川、商業の発展は結構だ。しかし、軍資金の拠出を増やすだけでは足りぬ。越前もまた、織田家の武威を示すための力を持つべきではないか。』
「……つまり、兵を増やせ、ということか。」
俺は苦笑した。
「軍備を拡張すれば、柴田殿の思うように織田家の戦力として組み込まれる。だが、我々が自前の軍を持てば、それは黒川家の独立性を高めることにもなる。」
斎藤友継が慎重に言葉を選びながら言った。
「軍備増強の名目で、交易ルートの護衛部隊を正式に編成するのはいかがでしょう?」
「それは良い策だ。柴田殿の要求に応じつつ、商業の安全を確保する。」
俺は頷いた。
「よし、信長公へ正式に提案しよう。我々は商業だけでなく、交易を守るための兵を整えると。」
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*冬の夜に
その夜、俺は敦賀の港を歩いていた。
雪が舞い落ちる静寂の中、商館の灯火が温かく揺らめいている。遠くでは荷揚げ作業が続き、商人たちの声が響いていた。
「商業の発展は、ただ利益を追うだけではない。」
俺は独り言のように呟いた。
「それは、新たな秩序を生むことでもある。」
越前は、確実に新たな時代へと向かっていた。
柴田勝家は、やはり史実ではこの領地をいただいていますから、ちょっとしつこい感じです。




