第二章 第二十一話:「商業都市への第一歩」
4月になりました。
天正三年(1575年)晩秋——
信長公の裁定を得て、堺との正式な商業協定は確実に進行しつつあった。俺は敦賀へ戻り、協定の運用に向けた準備を本格的に開始した。
港では、堺からの商人たちが頻繁に訪れるようになり、取引量は目に見えて増加していた。市場には南蛮からの香辛料や砂糖が並び、日本海を越えてきた大陸の織物や陶器も見受けられるようになった。町の賑わいは日に日に増していた。
「殿、堺の商人たちとの契約が整いました。これで正式に敦賀に堺商人の常設商館を設けることになります。」
藤堂宗春が報告する。
「よし、商館ができれば、堺と越前の交易がさらに安定する。商人たちの信用を得るためにも、迅速に進めよう。」
俺は巻物を広げ、敦賀港の新たな開発計画を見つめた。
「さらに、琵琶湖水運の開発を進める。京の商人たちが堺経由ではなく、敦賀経由で物資を仕入れる道を確立すれば、公家の影響力も削げる。」
斎藤友継が慎重に言葉を挟んだ。
「しかし、京の商人は慎重な連中です。堺との結びつきを断つような動きを見せれば、公家勢力が反発するでしょう。」
「だからこそ、我々は選択肢を増やすのだ。京の商人にとって、どちらがより利益をもたらすのかを考えさせる。琵琶湖を使った交易が安定すれば、彼らは自然と動く。」
俺は港の外を眺めた。波間には、新たな交易の息吹が漂っている。
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*柴田勝家の牽制
その日の夕刻、間宮時継が駆け込んできた。
「殿、柴田勝家殿が動きました。越前の税制改革について異議を唱えております。」
「ほう……。」
俺は静かに杯を置いた。
「どのような内容だ?」
「交易が発展することで、農村部の収益が不均衡になると主張しています。特に、越前の年貢収入が減少すれば、織田家全体の財源にも影響があると。」
「建前としてはもっともらしいが、要は黒川家の影響力が増すことを警戒しているということだな。」
「その通りかと。」
俺は少し考えた後、ゆっくりと頷いた。
「ならば、我々も一手打たねばなるまい。」
「具体的には?」
「商業税の一部を織田家に上納し、軍資金として供出する制度を導入する。これにより、織田家全体の財源が安定し、柴田殿の懸念を払拭する。」
斎藤友継が驚いた表情を見せた。
「殿、しかしそれでは我々の利益が削られますぞ。」
「それでも、長期的に見れば商業が拡大し、最終的には我々の利益にもつながる。今は織田家内での立場を固めることが先決だ。」
間宮が静かに頷いた。
「信長公もこの決定には異を唱えないでしょうな。」
「そうだ。そして、柴田殿に伝えよ。我々は商業で織田家を支える意思があると。」
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*未来をみつめて
その夜、俺は再び敦賀港を歩いた。
商人たちが活気に満ちた声で取引を交わし、船乗りたちは夜風に吹かれながら積み荷の確認をしている。
「殿、敦賀がまるで新しい堺のように見えますな。」
藤堂宗春がそう言いながら、嬉しそうに微笑んだ。
「まだ道半ばだ。だが、確かに越前は商業国家としての第一歩を踏み出した。」
俺は夜空を見上げた。
満天の星々が降って来るようだ。
「ここからが本当の勝負だ。」




