第二章 第十五話:「帰還と報告」
試験交易の船が敦賀港へ戻ってきたのは、早朝のことであった。朝靄が薄く漂う中、波止場には水夫や荷受け人が集まり、船の到着を今か今かと待ち構えていた。帆が港の入り口に見えた瞬間、港は活気を帯び、商人たちは口々に何かを話しながら準備を進める。
「船が戻ったぞ!」
「博多の品はどうなった?」
「儲けは出たのか?」
港の賑わいの中、俺は番所の前に立ち、船が岸につくのを見守った。
「殿、無事に戻ったようです。」
斎藤友継が安堵の表情を浮かべながら報告する。甲板から降り立ったのは、監視役として同行させた藤堂宗春だった。彼の表情はどこか険しい。
「ご苦労だったな、宗春。詳しく話を聞かせてくれ。」
俺が促すと、藤堂は荷下ろしが進むのを横目に語り始めた。
「交易自体は成功しました。対馬でも博多でも商売は成立し、確かな利益を得られました。しかし……」
「しかし?」
「堺の一部の商人たちが、我々の動きを監視していた形跡があります。さらに、博多での取引の際、京の公家と繋がる商人が圧力をかけてきました。取引を妨害するほどではありませんでしたが、明らかに我々の交易拡大を快く思っていない様子でした。」
俺は腕を組み、深く考え込む。
「やはり京の公家勢力が背後にいるか……。彼らは商業の流れを堺に留め、独自の影響力を維持しようとしている。」
間宮時継が口を開いた。
「殿、堺の商人の中にも、この交易を歓迎する者と警戒する者がいるようです。津田宗及を中心とする反対派は、この成功が堺の商業秩序を揺るがすと考えているのでしょう。」
「津田の動きは?」
「現在のところ、明確な妨害行動は見られませんが、慎重に動いているようです。ただし、彼の背後にいる京の公家たちは、次の手を打ってくる可能性があります。」
俺はしばし考えた後、口を開いた。
「まずはこの交易の成功を大々的に伝える。越前と堺の交易が利益を生むと堺の商人たちに認識させるのだ。津田らのような反対派が存在しても、商人たちの多くが利益を求めるならば、やがて彼らの影響力は薄れる。」
斎藤が頷く。
「また、京の商人たちにもこの交易の話を広めるべきかと。琵琶湖水運の整備が進めば、彼らにとってもこの交易が無視できないものになります。」
「そうだな。琵琶湖と淀川を繋げる新たな商業路を開拓すれば、越前は京とも密接に結びつくことができる。」
俺は番所の外の賑わいを再び眺めた。荷揚げの作業が進み、商人たちは新たな取引に向けて動き出している。活気に満ちたこの光景こそが、我々の進むべき道を示していた。
「この交易を、さらに発展させるぞ。敵が増えようとも、商業の流れを止めるわけにはいかん。」
藤堂、斎藤、間宮が一斉に頷いた。
こうして、越前と堺の商業関係は、新たな局面へと向かうことになった。




