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第二章 第十四話:「交易の波紋」

試験交易の船が出発してから数日が経った。敦賀港は相変わらず活気に満ちていた。波止場には、色とりどりの帆を掲げた船が並び、水夫たちの掛け声が響き渡る。港の市場には、越前の塩魚や京から運ばれた絹、堺から持ち込まれた南蛮渡来の珍品が並び、商人たちが賑やかに声を張り上げていた。漂う魚介の匂いに混じって、香辛料や干し果物の芳しい香りが漂い、人々の活気に満ちた声が絶えない。

俺の心には不安が渦巻いていたが、この賑わいを見る限り、交易の未来は確かに動き出していると感じることができた。

「殿、対馬からの報せが届きました。」

斎藤友継が巻物を持って駆け込んできた。

「船は無事に対馬へ到達し、交易は成功。しかし……」

「しかし?」

俺は巻物を開き、視線を走らせる。

「博多での取引に問題が発生したとのことです。堺の商人が取引を進める中で、京の公家と繋がりのある勢力が圧力をかけてきたようです。」

「公家の勢力か……。やはり、彼らは堺の交易を通じて影響力を維持しようとしている。」

間宮時継が口を開く。

「さらに、船の帰路に不審な動きがあったとの報告もあります。どうやら、堺の一部の商人が、交易の成功を妨害しようとした形跡があるようです。」

「津田宗及の差し金か?」

「確証はありませんが、可能性は高いです。彼は日本海交易が堺の支配構造を変えてしまうことを恐れています。」

俺は深く息を吐いた。

「ならば、堺の商人全体にこの交易が利益をもたらすと証明するしかない。」

「殿、京の商人とも繋がる道筋を作るべきでは?」

斎藤の提案に、俺は頷いた。

「そうだ。越前から琵琶湖への街道が整備されれば、琵琶湖と淀川を経由して京の商人とも交易が可能になる。この流れを作れば、公家の影響を最小限にしながら、商業網を広げることができる。」

「しかし、京の商人は慎重です。彼らがこの新たな交易路に興味を持つためには、何らかの具体的な利点を示す必要があるかと。」

「ならば、琵琶湖の港湾を整備し、越前の物資が確実に京へ流れるようにする。さらに、堺と越前の交易が順調に進めば、京の商人たちも新たな市場の可能性を考えざるを得なくなる。」

「つまり、京を堺から切り離すのではなく、両者を結びつけることで、公家の力を削ぎながら商業圏を拡大するということですね。」

間宮が静かに頷いた。

「問題は、津田宗及がこれをどう受け止めるか、ですね。」

「彼は商人だ。利があると分かれば、完全に敵には回らないはずだ。」

俺は番所の外の賑わいを眺めながら、次なる策を思案した。市場では商人たちが声を張り上げ、荷車を引く者たちが忙しなく行き交っている。焼き魚や味噌の香ばしい香りが漂い、船着き場からは水夫たちの掛け声が響いてくる。この活気が、黒川家の商業改革の証でもあった。

「まずは、試験交易の成功を大々的に宣伝する。そして、琵琶湖水運の活用を京の商人たちにも伝え、彼らを巻き込む。堺と京を競争させるのではなく、黒川家が新たな商業の中心となることを印象付けるのだ。」

「承知しました。」

斎藤友継と間宮時継が頷く。

商業の流れは着実に変わりつつある。

しかし、それは同時に、新たな敵を生み出すことにも繋がる。

「越前が商業の中心となるためには、堺、京、そして織田家内の政治勢力とも折り合いをつけねばならん。」

俺は静かに呟いた。

戦場ではない、新たな戦いが今、始まろうとしていた。


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