第二章 第十三話:「試験交易と揺れる堺」
さて、いよいよ交易が始まります。
堺の商人たちと交渉を終えた俺は、すぐさま敦賀へ戻り、日本海交易の実現に向けた準備を進めることにした。
「殿、堺側も試験的に貿易を行うことに合意しました。まずは堺の商人たちが出資した船を用いて、越前の敦賀港を経由し、対馬や博多との交易を試みるようです。」
斎藤友継が報告する。
「なるほど。まずは小規模な交易から試すのは理に適っているな。」
俺は巻物を広げ、交易の流れを確認する。堺と越前が協力し、日本海側の貿易を活性化することができれば、黒川家の商業基盤は確固たるものになるだろう。
「ただし、津田宗及がこの取引にどう関わってくるかは注意が必要です。」
間宮時継が慎重な声で言う。
「確かにな。表向きは取引に協力すると言っているが、完全に信用できるわけではない。」
「実は堺の一部の商人から、津田殿が京の公家とさらなる連携を取ろうとしているという情報が入りました。越前が堺との交易で力を持ちすぎれば、公家たちはその影響力を弱められることを危惧しているようです。」
「やはり……。」
俺は深く息をついた。商業の発展には敵も多い。しかし、だからこそ、この試験交易を成功させなければならない。
「まずは、交易の安全を確保する。間宮、敦賀港周辺の警備を強化し、不審な動きをする者がいないか監視しろ。」
「承知しました。」
「そして、試験交易の初回便には、我々の監視役として黒川家の者を同乗させる。堺側の船にただ任せるのではなく、我々も直接交易の流れを管理するのだ。」
「その役目は私が務めましょう。」
そう申し出たのは、藤堂宗春だった。
「商業の動きを知るには、現場を押さえるのが最善。私が船に乗り、堺の商人たちと共に交易を行います。」
「頼むぞ、宗春。」
俺は彼に向かって深く頷いた。
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*試験交易の開始
数日後、試験交易の初便が敦賀港を出発した。堺の商人たちと黒川家の監視役を乗せた船が、日本海を横断し、対馬と博多へ向かう。
「殿、船は順調に出発しました。」
港を見渡しながら、斎藤友継が報告する。
「良い兆しだ。あとは無事に帰還し、実際の利益を得ることができれば、堺の商人たちの態度も変わるだろう。」
しかし、俺の心はまだ安堵してはいなかった。
「津田宗及がこの交易に対して何も手を打たないとは思えない。間宮、敦賀と堺の間の交易路に異変がないか、引き続き探れ。」
「承知。」
試験交易は堺と黒川家の未来を左右する重要な一手だった。これが成功すれば、堺の商人たちは黒川家との交易により積極的になる。しかし、失敗すれば、黒川家の商業改革は堺との対立を生むことになりかねない。
「……これが、商業を戦の代わりにするということか。」
さらに、黒川家は越前から琵琶湖までの街道整備を進める計画を立てていた。これが完了すれば、琵琶湖を経由して淀川の水運を活用し、京の商人とも結びつけることが可能になる。京の市場と繋がることで、堺との交渉もさらに有利に進められるはずだ。
俺は静かに呟いた。
新たな戦いは、すでに始まっているのだった。




