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第二章 第十二話:「間者の報告と隠された策謀」

茶の湯の席での交渉を終えた俺は、堺の宿舎に戻った。交渉自体は成功したものの、津田宗及の本心は未だ掴み切れない。彼の態度にはまだ警戒心が残っていた。

「殿、間宮が戻りました。」

斎藤友継の声に促され、俺は宿の奥の座敷へと向かった。そこには間宮時継が静かに座していた。彼の表情は険しく、何か重大な事実を掴んだことがすぐに分かった。

「報告を。」

「殿、我々が警戒していた通り、津田宗及は京の公家と密かに連携を取っております。それだけではなく、堺の商人の中には、織田家内の反信長派とも接触を図っている者がいることが判明しました。」

俺は眉をひそめた。

「つまり、黒川家の経済基盤を利用しながらも、最終的には織田家からの独立を画策しているということか?」

「その可能性が高いです。特に、津田宗及の背後には、三条西実澄さんじょうにし さねずみという公家が控えております。」

「三条西実澄……たしか、信長公の政策に表向きは従っているが、実際は京の勢力温存を目論んでいる人物だったな。」

間宮は深く頷いた。

「さらに、堺の商人たちは京の公家たちから政治的な庇護を受けることで、織田家の支配を最小限に留めようとしております。黒川家の商業改革は、その構図を根本から揺るがす可能性があるため、一部の者はこれを歓迎しておりません。」

「しかし、津田は表向き俺の提案を受け入れた。」

「ええ。それは貴殿が示した日本海交易の利点が、彼らにとっても無視できないほど魅力的だからです。ただし、彼らはまだ貴殿を完全に信用してはおらず、今後の動きを探る意図があるでしょう。」

俺は考え込んだ。堺の商人たちは、織田家の庇護を受けながらも独立性を保とうとしている。黒川家が強くなりすぎれば、それは堺の立場を脅かすことになる。

「ならば、津田宗及の信頼を得るために、さらなる保証を示す必要がある。」

「具体的には?」

「まず、津田だけでなく、堺の商人全体に黒川家が商業発展において重要な存在であることを知らしめる。越前の商人と堺の商人が共同で行う初の日本海交易を大々的に成功させるのだ。」

斎藤友継が口を開いた。

「なるほど、実際に利益が生まれれば、商人たちの立場は自然と黒川家に寄ることになりますな。」

「加えて、信長公に堺との交易の拡大を正式に認めさせる動きを取る。これにより、黒川家が織田家の意向を受けていると示せば、堺の商人も織田家との対立を避けるため、我々に協力せざるを得なくなる。」

間宮が頷いた。

「信長公の名を借りて商業政策を推し進めれば、公家と繋がる津田宗及の立場も難しくなるでしょうな。」

「そうだ。しかし、それでも津田が裏で妨害を企てるようなら、こちらも彼の動きを牽制せねばならん。」

「どのように?」

俺はゆっくりと微笑んだ。

「津田宗及が最も恐れているのは、堺の商人たちの信用を失うことだ。もし彼が黒川家の商業発展を妨げるような動きをすれば、その情報を堺の有力商人たちに流す。そうなれば、彼の影響力は大きく削がれるはずだ。」

「つまり、津田が策を弄するならば、それを逆に利用するということですか。」

「その通りだ。」

俺は立ち上がり、窓の外を見た。遠くに広がる海の向こうには、日本海交易の未来が待っている。

「越前と堺の交易は、これからの戦国の世を動かす鍵となる。俺たちは、その流れを制する者にならねばならん。」

斎藤友継と間宮時継が深く頷いた。

「では、次の一手を打ちましょう。」

これで交渉は終わりではなく、むしろ本格的な駆け引きが始まるのだった。


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