第二章 第十話:「暗躍する影と対抗策」
堺の商人たちとの会談は成功に向かいつつあった。しかし、その裏では確実に何者かが動いている。
間宮時継が低い声で囁いた。
「殿、今外にいた者は、京の公家筋と繋がりのある間者のようです。」
俺は眉をひそめた。
「京の公家か……。やはり、堺の商業網と繋がり、黒川家の台頭を抑えようとしているのか。」
「可能性は高いですな。それに、堺内部にも黒川家の影響力が強まることを嫌う者がいるでしょう。堺の自治を守るため、黒川家の商業圏を押さえ込みたいのかもしれません。」
「ならば、このまま手をこまねいていては、商業改革は潰される。」
俺はすぐに動くことを決めた。
「間宮、まずはこの間者の正体を突き止めろ。裏でどの勢力が動いているのかを知る必要がある。」
「承知しました。手勢を使って、間者の動きを追跡いたします。」
間宮は静かに部屋を出て行った。
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*商人の不穏な動き
その夜、俺は堺の宿舎にいた。
窓から港を見下ろすと、灯りが揺らめき、海風が静かに吹き抜ける。堺は活気に満ちているが、その中に敵意が潜んでいるのを感じていた。
斎藤友継が部屋へ入ってきた。
「殿、堺の商人の中に、こちらの動きを警戒している者がいるようです。特に、津田宗及 という商人が、黒川家の進出に反対する動きを見せております。」
「津田宗及……聞いたことがあるな。」
「はい。茶の湯を嗜む有力な商人で、今井宗久とも近しい存在です。ただし、宗久ほど織田家に忠実ではなく、どちらかと言えば公家や朝廷と結びつきを強く持っています。」
「なるほど……。」
つまり、津田宗及は黒川家の商業拡大を快く思わず、京の公家と連携して阻止しようとしている可能性が高い。
「津田が具体的に何を企んでいるか、探らねばならん。まずは茶の湯の席を設け、表向きは堺との親交を深めつつ、彼の真意を探るのだ。」
「間宮がすでに動いております。数日中には何らかの情報が掴めるでしょう。」
俺は頷いた。
「ならば、それまでは慎重に動く。無理に堺の商人を抑え込むのではなく、味方につける手を考えるべきだ。そのためにも、津田宗及と茶の湯の席を持ち、彼が何を最も重視しているのかを確かめる。」
「例えば?」
「津田が公家と結んでいるならば、こちらは信長公の権威を用い、さらに南蛮貿易の利益を示して揺さぶる。」
「南蛮貿易……確かに、堺の商人たちは南蛮との交易で利益を得ています。」
「その貿易ルートを、越前でも整備する。津田が黒川家を敵視しているのは、単に堺の利益が脅かされると考えているからだ。だが、こちらが堺の商人と共に日本海貿易の新たな市場を開拓する提案をすれば、彼らにとっても悪い話ではなくなる。」
「なるほど……堺を潰すのではなく、堺の商人たちと利益を分かち合う形に持ち込むのですね。」
「そうだ。それと同時に、間宮の調査が終わり次第、津田宗及の本当の狙いを明らかにする。」
俺は窓の外を見つめた。
「ここでの交渉が、黒川家の未来を決める。慎重に、そして確実に進めるぞ。」




