第二章 第八話:「秋の越前、商業の胎動」
岐阜からの帰路、越前の山々は紅葉に包まれ、黄金と朱の絨毯が大地を染めていた。川面に映る木々の色がゆらめき、秋の深まりを静かに告げている。涼やかな風が頬を撫で、馬上でその感触を楽しみながら、俺はようやく一息つくことができた。
信長公の裁定により、柴田勝家の妨害は一応の決着を見た。だが、それが完全な勝利ではないことは理解している。越前に戻り、さらなる経済発展を加速させる必要がある。
「殿、そろそろ城下に入ります。」
斎藤友継が馬を寄せてきた。
「ふむ。城下の様子はどうだ?」
「お戻りを待ち望んでいた様子です。商人たちは、柴田殿の妨害の件を知っていたようで、我々の帰還を心待ちにしておりました。」
俺は頷く。
「ならば、まず市場を見て回るとしよう。」
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*活気を取り戻した城下町
越前の城下町に足を踏み入れると、そこには確かな変化があった。
行商人たちが店を広げ、賑やかに声を張り上げている。新たに設けた楽市楽座の制度が機能し始め、関所の緩和と商業組合の支援によって、取引が活性化していることがわかる。
「さあさあ、加賀の絹だ! 今年は良い出来だぞ!」
「堺より取り寄せた南蛮の香辛料! 滅多に手に入らぬぞ!」
商人たちの声が飛び交い、道行く人々の表情にも活気が戻っていた。市場の片隅では、職人たちが道具を研ぎ、鍛冶屋からは金槌の音が響いてくる。
「殿、おかえりなさいませ!」
店先の布商の主人が深く頭を下げる。
「柴田様の件、大変だったと聞きました。ですが、こうして殿が無事に戻られたことで、我々も安心いたしました。」
「無用な混乱を招かぬよう、これからも商業を支えるつもりだ。何か問題があれば、遠慮なく申し出よ。」
「ありがたき幸せ!」
商人たちの安堵した表情を見て、俺は確かな手応えを感じた。
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*黒川家の次なる一手
市場を巡り、城に戻ると、間宮時継が待っていた。
「殿、戻られましたか。」
「何か動きがあったか?」
「柴田殿の兵の動きは沈静化しておりますが、堺の商人たちの中には、いまだ越前の商業改革に懐疑的な者もおります。特に、堺の両替商の一部が密かに京の公家と連絡を取っているようです。」
「公家か……。信長公の政策に不満を持つ者が、商業を利用して影響力を取り戻そうとするのは当然だな。」
「このまま放置すれば、堺と京の勢力が結びつき、越前の経済発展を阻むことにもなりかねませぬ。」
俺は少し考え、次の手を打つことにした。
「ならば、堺の商人たちとの会談を設ける。彼らに越前の商業政策が単なる地方の試みではなく、織田家全体に利益をもたらすものだと示さねばならん。」
「承知しました。」
俺は窓の外を見やる。
秋の風が城下を吹き抜け、冬の訪れを予感させていた。
越前は確かに発展している。だが、それを盤石のものとするには、さらなる一手が必要だ。
俺は決意を新たにした。
「越前の商業を守るため、次なる交渉に挑むぞ。」




