第二章 第七話:「信長の裁定」
柴田勝家が黒川家の商業改革を妨害している可能性が濃厚となった今、俺は次の一手を考えなければならなかった。
「殿、織田家内での立場を強化するためにも、信長公に直接この件を報告するのが最善かと存じます。」
斎藤友継の進言に、俺は頷いた。
「確かにな。だが、単なる告発ではなく、信長公が黒川家の商業政策を重視していると周囲に示す形を取らねばならん。」
「では、信長公へ献上する形で、越前の商業発展の成果を示してはいかがでしょう?」
瀬戸忠勝が提案する。
「例えば、商業からの税収の増加や、交易品の流通量の変化を報告し、織田家全体の利益につながると証明できれば、信長公は柴田勝家の行動を問題視するかもしれませぬ。」
「なるほど……」
俺はしばらく考えた後、決断した。
「よし、岐阜城へ向かう。信長公に越前の商業政策の成果を示しつつ、この件をどう裁定するのかを見極める。」
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岐阜城での謁見
数日後、俺は家臣を連れ、再び岐阜城へと向かった。
城内は相変わらず活気に満ちており、信長の統治が着実に進んでいることがわかる。
謁見の場に通されると、信長がすでに座していた。
「黒川、そちの動きは聞いておる。越前での商業改革が進んでいるようだな。」
「はい。おかげさまで、交易量は増加し、商人たちも安定した取引を行えております。」
俺は持参した資料を広げ、交易の拡大や税収の増加について説明した。
「このまま商業基盤を確立すれば、織田家の軍資金を安定的に供給することが可能となります。」
信長は興味深そうに資料に目を通した。
「ほう……なかなかの成果だな。しかし、その商業を妨げる者がいると聞いている。」
「……はい。」
俺は慎重に言葉を選びながら、商隊襲撃の件、警邏組の調査結果、柴田勝家の家臣の関与が疑われることを報告した。
信長はしばし沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「黒川よ、そちはこの件をどう処理したい?」
「信長公のお裁定を仰ぎます。」
俺が頭を下げると、信長は笑った。
「そちも策を巡らせるようになったな。確かに、ここで余が直接裁くことで、黒川家の正当性を示せるというわけか。」
信長は膝を叩き、側近の村井貞勝に命じた。
「柴田をここへ呼べ。」
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柴田勝家との対峙
しばらくして、柴田勝家が城内へと現れた。
彼の鋭い眼光が俺を射抜く。
「信長公、お呼びとあれば馳せ参じました。」
「勝家、そちの家臣が黒川の商隊を襲ったとの報告が上がっておるが、如何に?」
勝家は一瞬沈黙した後、低い声で答えた。
「存じませぬな。」
「ほう?」
信長が薄く笑う。
「勝家よ、余の家臣が互いに争うのは見過ごせぬ。黒川の商業政策が織田家の利益に資するものであることは、すでに示されておる。」
勝家の表情が僅かに動いた。
「信長公、しかし……」
「ならば勝家、そちが商業政策を担うか?」
信長の言葉に、勝家は何も言えなくなった。
「そちは軍を率い、余のために戦うことが役目であろう?」
信長の声には、明確な決定が込められていた。
「この件、これ以上黒川の邪魔はするな。」
勝家は深く頭を下げた。
「……ははっ。畏まりました。」
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越前への帰還
岐阜を後にしながら、俺は大きく息をついた。
「……これで、商業改革の妨害はひとまず収まるか。」
「ですが、柴田殿がこれで納得したとは思えませぬ。」
斎藤友継が警戒を口にする。
「そうだな。しかし、これで信長公の裁定が下った。今後、勝家が動くならば、表立ってではなく、さらに裏で手を回す形になるだろう。」
「となると、我々もより慎重に動かねばなりませんね。」
「その通りだ。商業の発展をさらに加速させ、黒川家の存在価値を揺るぎないものとするのだ。」
俺は拳を握りしめた。
これからが本当の勝負だ。




