第二章 第二話:「越前商業改革の始動」
秋の朝、城下町の市場に足を踏み入れると、喧騒と活気が入り混じった空気が広がっていた。
しかし、まだ完全に復興したとは言い難い。商人たちは慎重な態度を崩さず、交易の流れも滞りがちだった。黒川家が本格的に商業国家への道を歩み始めるには、まず具体的な行動を示し、民衆と商人の信頼を得なければならない。
俺は斎藤友継、藤堂宗春、瀬戸忠勝らを伴い、市場の視察を行った。商人や職人たちと直接言葉を交わし、現場の声を聞くためだ。
「殿、お噂は聞いておりますぞ。黒川家は商いを盛んにするお考えだとか……?」
布商の男が遠慮がちに問いかける。
「その通りだ。越前は戦の地ではなく、商いの地として栄えるべきだ」
「それはありがたい話ですが、戦のたびに税や取り締まりが変わるのが困りますな。安定した決まりごとがなければ、商いも長続きしませぬ」
その通りだ。戦国の世では、大名が変わるたびに税率や取り締まりが変動し、商人たちは常に不安定な立場にあった。
「だからこそ、俺は『公定税制』を定める。商人たちが納める税を一定にし、突然の変更を禁じる。また、黒川家の名のもとに、取引の安全を保障する」
瀬戸忠勝が補足する。
「さらに、交易品ごとに明確な基準を設け、相場を安定させます。これにより、不当な値付けや過度な買い占めを防ぎ、商人同士の公平な取引を保証します」
商人たちは顔を見合わせた。税率の安定、交易品の基準化——これらは彼らにとって大きな安心材料となる。
「それが実現するならば、安心して商売ができますな」
「そのためには、まず黒川家の保護のもと、商人組合を設立する。これにより、商人たちは互いに連携し、問題があれば黒川家と協議のうえで解決できる仕組みを作る」
藤堂宗春が付け加えた。
「また、越前独自の通行証を発行し、黒川家の支配地域内では自由な移動を認める。これにより、商人たちは街道の関所で不当に足止めされることなく、迅速に交易が行える」
商人たちの表情が変わった。少しずつ、俺たちの考えが彼らに浸透しつつある。
「……殿が本気で商業を支えてくださるのであれば、我らも全力で協力いたしましょう!」
そう言って、商人の代表格が深く頭を下げた。
警邏組織の設立:間者と治安維持
市場や街道の整備と並行して、越前国内の治安維持も急務であった。商業が発展すればするほど、間者や盗賊、密偵の暗躍も増す。そこで、新たに『警邏組』と呼ばれる組織を設立することにした。
「商いが繁盛するほど、間者や盗賊の企みも増える。特に、織田家と敵対する者たちが、越前を混乱させようとするのは避けられない」
俺は斎藤友継と藤堂宗春に向かって言った。
「そこで、新たに警邏組を設置し、越前国内の警備を強化する。警邏組は商人の護衛、密偵の摘発、盗賊の取り締まりを主な職務とする」
「つまり、商業の発展に伴う犯罪の抑止機関ということですな」
「そうだ。特に、密偵や間者の摘発には重点を置く。彼らが敵対勢力に情報を流せば、黒川家の商業基盤が脅かされることになる。警邏組には、武士だけでなく、町民からも有能な者を登用し、城下の動向を探らせることにする」
「なるほど……身分にこだわらず、情報収集を徹底するというわけですね」
「また、商人たちにも協力を仰ぐ。商業の安全が守られることは彼らにとっても利益となる。警邏組の一部には商人たちと連携する情報組織を加え、市場や宿場で不審な動きがあればすぐに報告できる体制を作る」
「これが実現すれば、越前は戦国の世で最も安全な商業地となるでしょう」
俺は深く頷いた。
「商業国家を確立するには、ただ道を整え、税制を安定させるだけでは足りない。安全と秩序を守ることが、すべての基盤となるのだ」
藤堂宗春は微笑しながら言った。
「戦わずして国を強くする……殿はやはりただ者ではございませんな」
俺は静かに息を吐き、城下の活気を見つめた。
「まだ道は半ばだ。だが、越前は必ず、戦国の混乱を超えて、新たな時代の礎となる」
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街道整備の開始
市場を後にし、次に向かったのは街道の整備現場だ。
越前の交易が活発になるためには、安全な街道が必要不可欠だった。これまでの戦乱で荒れた道を修復し、各所に休息所を設置することで、商人や旅人が安心して移動できる環境を作る。
「殿、すでに人足を集め、街道の補修を始めております。来春までには京へ続く主要道が整備される見込みです」
報告するのは現場を統括する職人頭の藤木。
「さらに、街道沿いには宿場町を整備し、旅人が休める場所を増やします。これは商人のみならず、旅人や巡礼者にも恩恵があるでしょう」
俺は頷く。
「街道の安全を維持するため、武装した盗賊団や野武士の取り締まりも徹底する。商人が安心して越前を通れるようになれば、交易量は飛躍的に伸びるはずだ」
藤堂宗春が感心したように言う。
「こうして見ると、殿の考えは一つ一つが理に適っておりますな。武力による支配ではなく、商業と秩序による統治……これは戦国の常識を覆すものです」
「だが、これで終わりではない。越前を商業国家として確立するには、さらなる施策が必要だ」
俺は馬を進めながら、次の計画を思い描いた。
これから行うのは、貨幣制度の確立と織田家との協力強化。
商業改革の第一歩は踏み出した。だが、この道はまだ始まったばかりだ——。




