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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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死の淵で悪巧み

――ズガンッ――

――ドゴンッ――


嵐の様に苛烈な斬撃が大地を、木々を刻み躍動する。


「おいおい小僧ッ、さっき迄の威勢はどうした、えぇ!?」

「チィッ…!?」


その攻撃を辛うじて捌きながら、着実に迫る〝限界〟に舌打ちを漏らす…戦局は煮詰まり、変転させる為の一本が遠く…時間だけが消費されてゆくこの現状は…明確に〝俺等〟を蝕んでいた。


(どうする…このまま行けば〝時間切れ〟…)


既に時間経過の報せから数分は過ぎた…残された時間は半刻も無い。


(……俺がどうにか――)


――出来るのか?…。


『〝英雄思考〟』

『〝犠牲前提〟の謀策』

『お前一人が死ねば全て上手くいくと思っている』


否、無理だ…相手の剛剣を受け止めきる余力は己には無い、相手の攻撃を受け止め切る〝防護〟を〝仲間〟は持ち合わせていない…。


「逃げてるだけじゃあ何時までも〝進めねぇぞ〟!…さぁどうするよ〝餓鬼共〟!!!」


咆哮が如く、熊の様な巨漢はその声を吐く…気迫と敵意、強い殺気に身が締まる…そして、己は今の己を〝自覚〟する。


――〝恐怖〟――


己の身にポツリと生まれたその〝感情〟…ソレが微かに、己の身体を鈍らせている事に…。


「ビビれッ、気付けッ…〝テメェにゃ俺は倒せねぇ〟!」

「ッ……何を!!!」


その言葉に、恐怖を押し退け刃を振るう…それは感情に駆られた一撃で有り…この戦局で成してはならない〝愚行〟であった…。


――ギリィィンッ――


「――効かねぇなぁ?」

「ッ〜!?」


――パキッ…パキパキパキッ…――


剣が罅割れる…亀裂が〝奔り〟…その刀身を真っ二つに割り…飛ぶ…その隙を見逃す程、眼の前の〝敵〟は馬鹿ではなかった…。


――ズシャァッ――


「――ゴフッ!?」

「勝負あり…だな?」


――ドゴッ――


胸に痛みと血飛沫が走る…この感覚は知っている…〝斬られた〟…吹き飛ばされながら、嫌に冷静な己の思考に悪態を吐く。


忘れたつもりは無かった、無かった筈だ…しかし、心の底で何処か〝軽視〟していたのだろう…〝恐怖〟が持つ力を。


……そして、何時しか〝忘れてしまった〟のだろう…〝孤独〟の中で消えてしまったのだろう。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


(皆……すまん)


沈み行く最中で…俺は、今窮地に立たされている〝仲間〟を見て…そう、過ちの懺悔を…心の中で口にした。



●○●○●○


「……もう、終わり?」


――ズサァッ――


獅子の前脚から投げ捨てられる、そのボロボロな生徒の姿を見ながら、その〝少女〟は不思議そうに首を傾げる。


「まだまだ、手が折れただけ、脚が折れただけ…それだけだよ?…まだ動ける筈…無理?…なら降参すれば良い」


少女の言葉に、取り分け酷く〝ボロボロ〟な青年はそう言い…その掠れた声を、言葉に成らない声を響かせる。


「……れ…が…る…よ」

「そう……」


その瞬間、少女はその双翼を仰ぎ……その青年を〝蹴った〟…。


「なら、諦めるまで痛め付ける…眠らせても良いけれど…ソレはしない」

「ッ……ッ……!?」

「〝無力感〟…君に植え付ける…君一人で成せないと知れ、君如きでは〝勝てない〟と記憶しろ…君は強く…しかし弱い…驕りは遍く全ての〝敵〟で有ると…今再びに胸に刻み付けろ…」


蹴って、殴って、振り回し、引き摺り回し…しかし〝殺さず〟…苦痛の中で眠りこける事も出来ずに青年は苦悶に顔を歪ませる…。


「まだ…やる?」


そして再び、持ち上げながらそう問う…ピクリとも動かないその青年は次の瞬間。


「………ッ――!」


――ガブッ――


牙を剥き出し、少女の足へ噛み付いた…少女はその目に、未だ〝砕けぬ意思〟を見ると、肩を竦め――。


「本当に、諦めが悪いね……君は」


――ドゴォッ――


その青年を地面に投げ付けた…その身体はボールの様にリバウンドし、やがては一本の木に直撃し、青年を受け止める。


「……ガハッ…!?」


痛みと共に口から血が流れ落ちる…耄碌とし始める意識と視界に、その少女が此方へと歩んでいる様を見る。


「勝ち目は無いよ…君じゃ無理、天地がひっくり返っても…二者択一、〝負けを認めて眠る〟か、〝負けを認めず痛めつけられるか〟…何方でも構わない」

「ハァッ…ハァッ…」


その言葉に、答えは帰らない……ただ、青年の意識は揺れ動き、その言葉だけが脳内で反響する。


青年は既に限界だった…その魔力は殆どが底を尽き、肉体はその指一つと動かす事が敵わない程に破壊され…絶体絶命の状況に在った…。


「何方にせよ……直に決着は着く」


そして、意識は黒に染まり…次の瞬間。


――パンッ――


「『ハッハッハッ…コレまた派手にやられたねぇ〝二人共〟!』」

「「……は?」」


己等は真っ黒な世界の中で、老人姿の人物にそう〝笑いながら出迎えられた〟…。


「さすにただのレクリエーションで死に掛けるのは予想外だよ…君等、〝不身孝宏〟の施した〝安全装置〟が無かったら八割方死んでたんじゃないかね?…いやしかし、ほぼ同時に気絶してくれたのは助かったよ、うん」


その謎の老人はそう言い言葉を捲し立てるとまた可笑しそうに面白そうにニヨニヨと笑う。


「「ッ…誰だ!?」」

「おぉ、良々…意識の方は〝元気〟だね…コレは重畳…此方も〝悪巧み〟を持ち掛ける甲斐が有るって物だ♪」


そしてその老人は暗闇に腰掛け…二人

へ問う。


「唐突だが君達……〝彼等〟に勝ちたくは無いかね?」

「「ッ!?」」


その言葉は二人の警戒心を削ぐには充分な一言で有り、その人物は二人の反応を確かめると二人へ態とらしい自己紹介を始める。


「申し遅れたね、私は〝紅葉〟…金剛級魔術師の一人、まぁつまり、君等が倒すべきレクリエーションの相手の一人な訳だが…其処は良い、省略しよう」


その人物はそう言うと、二人へ座る様に指示し言葉を続ける。


「さて…早速だが事前確認を取って良いかな?…君達は〝勝ちたい〟かね?…〝YES〟か〝NO〟か…何方だね?」

「……いや、そもそも…此処は何処だよ?」

「〝意識の狭間〟かな?…いやね、骨が折れたよ、君達が昏倒する直前に意識を引っぱり上げるのは…偽装も苦労した…此方も〝魔力はそう無い〟からねぇ」

「……何で俺等にそんな話をしよる?」

「そりゃあまぁ…私の趣味と言うか〝業務〟と言うか…〝面白そう〟だからかな?」


その老人へ二人は問いを投げ、その問いを老人は軽く返しつつ二人へ告げる。


「――このままだと〝勿体無い〟と思ったんだよ…うん、ほら…記憶はちょっとした事で欠落するだろう?…衝撃的な出来事は深く根付くとしても、その根本は曖昧になる、次第に〝苦手で在った理由〟すらも分からなくなる…そうなると次第に君達の形は元に戻る…コレじゃ繰り返しだ…〝君達の成長〟は遠退いてしまう…だから、今の内に…〝自らの過ちを理解している内に記憶を固定〟させようと言う訳さ…言い回しは難しいが、詰まる所…君達の〝悪癖〟を矯正しようと言う話だ」

「「……」」

「さて……それじゃあ手短に行こう…私としても何時この〝ズル〟が露見するか分からないし…私のやり方は〝順序が違う〟だけで君達が何れ〝手にする物〟だからね…コレならギリギリ〝違反行為〟に成らないだろう」


そして老人はそう何処かで見たような薄ら笑いを浮かべたまま、二人へ〝知恵〟を与えるのだった……。


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