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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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燻り火の狼煙

戦いには数多の要素が絡み合う…〝武人の巌根〟に及ばずとも、私とてソレは理解している…。


兵力の差異、支援の質、前衛後衛、軍隊規模の戦術指揮…お祖父様の代ではそれこそ、一師団規模の魔術師を指揮しかの〝始まりの悪魔〟と同クラスの妖魔を仕留めたと聞く…兎も角、それだけ私には〝戦いの知識〟が備わっている…。


「フンッ!」

「クッ…ガァァッ!?」

「前線で仲間の為に身体を張るッ、良いわねぇその〝漢気〟!…唆るじゃない、の!」


――〝勝てない〟――


始めに見たその時、私は確かに〝そう感じた〟…そしてソレは、戦いが長引くに連れて増してゆくばかりだ。


「皆…!」

「御免なさい…もう、動けません…!」

「すまん九音ッ、俺ももう限界だ…〝地力〟が違い過ぎる…!」


既に〝二人〟…戦線から離脱した…今何とか相手を凌いでいる仲間も、直に体力が尽きるだろう。


(どうする、どうする…どうすれば〝勝てる〟…!?)


使い魔は使えない、自身と他の生徒達とで相手を打破せねばならない…その上で今…あの巨漢の怪力を凌ぎ、鎧の如き鋼の肉体を打ち倒すにはどうするべきなのか…。


――ゴオォォォッ――


「〝業焔の狐火〟!」


考えた末に放った、轟々と猛る炎の波が仲間を吹き飛ばしたその巨漢に迫る…。


「あらやだッ、こんな森の中で放火何て危ないじゃない!」


しかし、その魔術を目にしてもその人物は不敵に挑発的な笑みを浮かべたまま、その炎へ手を伸ばす…すると。


「〝滅〟ッ!」

「…は?」


その炎にただの掌底を突込み、炎を一瞬で散り散りに〝掻き消す〟…。


「――呆けちゃ駄目よ?」

「ッ!?」


ソレに呆けた刹那に、その巨漢は肉薄し…その拳を私の身体へと叩き込む。


「〝破ッ〟!」

「――ガッ…ヒュッ!?」


瞬間感じる、身体を突き抜ける衝撃…その衝撃は臓腑の中に渦巻く空気を全て絞り出し、その視界に映る景色はぼんやりとした色彩の流動と化し…。


――ドゴォッ――


背面から大木に衝突し、身体の節々から悲鳴と血を吹き出させた。


「……アレは…何だ…」

(拳が叩き込まれた…のでは無い…!)


眩む思考を理性で動かし、苦痛を押し退け今し方受けた〝攻撃〟を思い返す。


――ドッ――


減り込んだ…様に感じた…事実としてその拳は私の腹部を強く打ち据えた…しかし。


――パチッ…パチパチッ――


「〝拳に纏った魔力〟を…攻撃と同時に放出…?」


癒しの炎と共に身を起こし…私は独り言を呟く…すると、予想外に、その独り言を其の場にいないはずの〝声〟が肯定する。


「その通りよ、〝賢いお嬢さん〟!…魔術師ならば使えて当然、使えない訳が無い〝魔力放出〟の技術…その〝最適化の一つ〟が私の〝魔術〟…〝掌撃術〟!…驚いたかしら?」


その声の主は、己が飛ばされたその後を応用に駆け抜け…その巨大で筋肉に満ちた肉体を躍動させ此方へと迫る…此処まで響く大声と共に。


「サァ〝お嬢さん〟!…残るは貴方唯一人ッ…投降するなら今の内よ!」


迫る、迫る…強大な敵の足音が…その音と声を聞きながら…私は己がここから勝つ〝方法〟を探す。


「――……〝無理〟だ」


〝私〟では勝てない…そう、結論を付けた…相手は金剛級の戦闘魔術師、対して此方は〝孤立した学園生〟…万に一つと勝負に成ることは無いだろう。


ならば…〝諦める〟か……。




――パチッ――


いいや……〝冗談じゃない〟…仲間の仇討ちをせずに、ただ自分が傷付くことを恐れて投降するなど、〝恥〟以外の何者でも無いだろう。


――パチパチッ――


ならば〝考えろ〟…知恵を使い、この状況を打破して見せろ。


思考しろ、思考しろ、思考しろ…思い出せ、全てを、全ての状況を、言葉を…この状況から勝ち得る未来の可能性を。


――パキッ…パチッパチッ…――


〝多く〟は望まない、〝安全〟は考慮しない…必要なのは〝勝利〟の〝可能性〟で有り、その為の〝綱渡り〟は許容範囲だ……ならば。


『〝チームは夜間に実戦を共にする五人組〟』

『時間内に〝一本〟取れ』

「……ッ…良し」


〝この策〟が、唯一のか細い〝突破口〟と成る…。


「ッ――」

「〝逃さない〟わ、よぉ!」

「グゥッ!?」


そして、私が歩を進めようとしたその瞬間…此方へ追い付いたその巨漢は拳を私へ叩き付けた…。



●○●○●○


――パァンッ――


「ッァァ!」

「――流石、学年大会の決勝進出者…タフで、諦めが悪く、恐ろしい♪」


自身に放たれる…その弾丸を弾きながら、私は疲労に深い吐息を吐く…。


「〝成長〟――〝捕縛して〟!」

「其処のお嬢さんも、味方の治癒と同時に此方の妨害…サポート役としては既に一級品の魔術師だ…うん、結構結構♪」


――バラッ――


私達を見ながら依然余裕を浮かべたその男性は、その口角を愉しげな笑みに変えて、片手のナイフで椿ちゃんの植物を切り刻む。


「――個人的な主観としては、既に君達を合格としてやりたい所だが…生憎、この〝レクリエーション〟のルールは〝金剛級から一本〟取る事だ…私も金剛級としての〝自負〟が有る以上、そう簡単に負けてやる気は無いよ?」

「分かってる、よ!」


――ヒュンッ――


私はまた、肉薄する…振るう刃は以前に増して早くなり、避け辛く成っていく…だと言うのに、その男性は未だ傷一つ追わずに〝攻撃を軽く避けてくる〟…。


――コレが〝金剛級〟――


と、私は彼我の距離に有る巨大で堅い壁を感じ…一人深い〝絶望〟に沈む…手加減をされているのは目に見えていた…それでも尚、私の剣は届かない、椿ちゃんの植物も、他の日善君の土の魔術も何もかも…私達の攻撃は通用せず、ただただ思い知った…。


――ギィィンッ――


「さて…残す所〝30分〟…もうそろそろ潮時だが…どうするかい〝黒乃結実〟…最後の最後まで、〝諦めない〟のかな?」

「当たり…前…!」

「――♪…フフフッ、ならば頑張り給え…私も手は抜くまい」


そして、私達に再び…暴風の様に苛烈で…悪魔の様に嫌らしい攻撃が私と皆を襲う…その時。


――バサッ――


その男性の背後の空に舞う…煌々と燃える赤い〝火の鳥〟と目が合った。

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