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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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未だ未熟な雛達よ

――パラパラパラッ――


林の中で、少女はその無表情を彼方へ向けながら言の葉を紡ぎ、書物へ命じる。


「〝獣の追憶(ダーウィン・テイル)〟――〝今は亡き滅狼〟」


――カカカッ――


『グルルルルルルッ』


その言の葉に応じ、書物は巡れ上がる頁の1枚から文字の群れを生み出し…その中から実態を持った獣を正面に居る五人の青年達にけしかける。


「〝氷武羽衣〟――〝透蒼の強弓〟」


――ドスドスドスッ――


それに対して、青年の一人…黒髪で、他の生徒と比較しても筋肉質な青年はその手に氷の弓を形成すると軽々と引き絞り、矢を放つ…その威力は凄まじく、狼共の首をその間打ち抜き、勢いは衰えず少女に迫る。


――パラパラッ――


「〝幻想の追憶(フェアリー・テイル)〟――〝鳥継ぎの獅子〟」


後もう少しでも、少女の行動が遅ければ放たれた矢は少女の眉間を射抜いていただろう…宙を泳ぐ氷の矢は、軽々と弓を引いていた青年の見た目とは裏腹に、恐ろしい威力を孕み、背後に続く木々を打ち倒す。


――バサッ…バサッ…――


「――優れた〝筋力〟、〝能力の応用〟も上手い…うん、良いよ…その調子」

「ッ!」


――ガギィンッ――


刹那に消えた少女を探す生徒達の耳に、聞き心地の良い少女の声が突き抜ける…その瞬間捉えた、空気を引き裂く音に氷太郎はその弓を盾代わりに背後からの奇襲を防ぐ。


「…でも、流石に〝独り善がり〟……それじゃあ仲間も君も死ぬ…君の欠点は〝周囲との連携力〟…良くも悪くも、〝個〟で完結し過ぎてる」

「――何だその身体…ァッ!?」


防いだと同時に捉えたその姿は、直近に居る氷太郎と、続いて少し離れた位置に居る彼等の度肝を抜く様な〝異常な姿〟だった…。


「――それに皆、まだまだ予想外への対応が甘い…驚いても取り乱しちゃ駄目」


其処に居たのは…〝下半身にライオンの脚〟を持ち、〝灰色の翼〟を大きくはためかせて氷太郎へ足蹴りを見舞う〝妖魔が如き少女〟の姿。


――ヒュドッ――


「グッ…ガハッ…!?」

「私は〝答え〟を教えない、既に私の手の内は晒した…私は加減が苦手…君達が死ぬ一歩手前まで、痛めつける…大丈夫、死ぬ程苦しくても死にはしない…ちょっと死にたくなる位辛いだけ……耐えれる筈、君達は魔術師に成るのだから」


少女はそう言うと氷太郎を残る生徒達の方に蹴り飛ばし、その無表情な顔をコテンと、傾げさせてそう言う…その言葉の柔らかさとは相反するその言葉の〝中身〟に、生徒達の間には緊張が奔り――。


――ゲホッゲホッ…――


「――クッソ痛えッ…腹ん中グチャグチャに何だろッ…!」

「大丈夫、治癒なら不身孝宏謹製〝再生薬〟を使えば、欠損や破損程度なら修復出来る…市場に出回る物よりも数倍効果的…治癒の痛みも無くせるらしいけど、コレは倍痛む、凄く痛い…」

「……んで態々そんなデメリットを――」

「『〝恐怖〟が薄れてしまうから』…だって……さぁ、お喋りは終わり…そろそろ二回戦目を始める…〝構えて〟」


幾ばくかの会話の後に、また再び殺気と戦意の渦巻く闘争の空気が雑木林を満たす。



○●○●○●


――ガゴォォンッ――


「「シィィァァァッ!!!」」


――ジリィィンッ――


また別の場所では、一人の青年が巨大な大太刀を振り抜き、一人の大男の大剣とぶつかり合っていた。


――ザザザッ――


「――止まったァッ、やれやァ!」

「チッ…!」


それへ地面を軽く削りながらも勢いを殺す大男を見ながら、その青年はそう言い声を張る…その瞬間。


――ズボッ――


草むらを突き抜ける様に無数の方角から魔術の制圧射撃が大男を襲う。


「〝鋼鉄の機剣〟――〝加速剣身(ソニック・フォルム)〟!」


その弾丸射撃を大男は全て切り飛ばしながら、弾丸射撃の中を掻い潜り此方へ迫るその青年を見る。


(強い…強靭な肉体、タフネス、遠距離には乏しいものの近距離戦では恐ろしい程の脅威と成るな…何より特筆すべきなのは――)


「〝倉石〟――〝後ろ爆破〟せぇ!」

「――〝OK〟!」


――ドォッ『ガッ』――


「キェェェリャァァァッ!!!」

「チィッ…鉄砲玉かテメェは!?」

(仲間の使い方が〝上手え〟…指示だけじゃない、全員の能力を把握して常に変化する戦場での最適を突いて来やがる…何処が素人だよ!?)


――ガッ――


「――だが、コレで金剛級張ってんだ!…簡単にやられると思うなよ!!!」

「あたぼうよッ、おいは殺り合う奴等を舐めた事はなかぞ!」


そして、また切合が始まる…降り頻る弾幕を躱しに弾き、その上で眼の前の脅威を相手に二人は二人してその大得物を振るう。


「――優秀な指揮官だ、戦闘能力も申し分ねぇッ…だが成る程、テメェの〝悪癖〟を見つけたぞ…!」


――ザシュッ――


「ツゥッ――洒落臭ェッ」


速度を増す…その大男の…〝大鶴刃〟の大剣が青年…〝伊方武〟の肌身を切り裂く…しかし、伊方武は食らった傷の痛みに怯むどころか、その勇み足を止めずに猛攻を仕掛ける。


「それだ…テメェは若い連中に良く居るタイプだ…〝自分が死んでも相手を倒す〟、〝仲間を確実に生かす為に己を捨てる〟…分かりやすい〝英雄思考〟…〝犠牲前提の謀策〟…お前一人が死にゃ、全部上手くいくと思ってる…そのリスクを軽視してだ」

「ッぬぅ…!?」


――ザシュッザシュッ――


しかし、徐々に…その剣と剣のぶつかり合いは大鶴刃の手に軍配が上がっていき、次第に伊方武は防戦一方に追い込まれてしまう。


「――〝最悪〟だ、〝最悪の状況〟を想定しちゃいねぇ…お前が死んだら誰が後ろの仲間を守る?…後ろの連中が攻撃に集中出来るのはお前という〝防波堤〟が有るからだ…指揮官で有るお前が居なければ周囲の奴等は連携力に欠けちまう…戦術的視野に長けたお前が、このチームの要だろ…なら、尚更〝死んじゃ駄目な立場〟じゃねぇのか?」

「――グッ!?」


そして、等々捌ききれずに武はその身を引き…膝を突く。


「武…!?」

「――さぁ、立てよ餓鬼共…まだ闘いは終わっちゃいねぇぞ!――テメェ等は時間いっぱい、俺がその性根を叩き直してやらぁ!」



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