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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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金剛に挑め

――カンカンカンッ――


「――さて、さて…林間合宿の目玉は〝夜間から深夜〟に掛けての〝実戦〟だが、昼間には何もしない…と言うわけではない」


はい其処、『え〜ッ』て顔をしない…君達にとって有益で有り、尚且つ楽しい物を用意したのだから先ずは聞き給え。


「――と言う訳でだ、折角雇ったのだから有効活用させてもらうとしようか、〝諸君〟」


私がそう言うと、私の背後に居る魔術師達が前に出る。


「――と言う訳でレクリエーションだ、相手は我等が日本の魔術師組織〝八咫烏〟、其処に在籍し、最上の〝天鋼級〟へと手を伸ばさん程の実力者達だ…内輪での戦いだけでなく、偶には外部からの新鮮な体験を取り入れてみよう!」


私の言葉に、先程までは面倒臭げにだらけていた彼等の目が鋭くなる…そうだろうとも、何れ己等の大半が所属するだろう〝組織〟の、その中でも上位も上位に位置する程に〝優秀〟な魔術師と手合わせを出来るのだから。


「――く・わ・え・て♪…彼等と手合わせし、〝3時間以内〟に一本取れた生徒達には特別に〝一つ〟…君達に合った私の〝蒐集品〟及び〝制作物〟を贈呈しよう…〝触媒〟でも、〝魔道具〟でも…〝魔導書〟でも…好きな物を一つ、だ」


此処まで餌を吊るせば、例えどんなナマケモノでも忽ちハイエナが如き飢えた獣に変わるだろう…フフフッ、やはり人を操るには〝相当の報酬〟が一番効果的だねぇ♪


「――チームは夜間の〝実戦〟で組む五人組だ…準備が出来た事を確認出来次第、レクリエーションを開始しよう…奮って参加したまえ!」


私はそう言い、後の進行を学年主任へ任せて宿泊施設へと赴く…。


「諸君、一応留意しているとは思うが……〝加減〟を忘れるんじゃないよ?」


最後に、護衛に集った金剛級魔術師各位に釘を刺す様に警告をして。



○●○●○●



「――〜〜〜♪」


――コンコココンッ♪――


一人の〝少女〟が、鼻歌混じりに机を小突く…その美しく艶の有る己の髪を風に揺らし…枯れ草の香りに満ちた夏の風情に彩られた己の部屋で、紙束にペンを走らせる。


「〜〜〜〜〜♪」


浮つく様に少女は歌を吟じ、しかしその手は正確に紙に文字を刻む…ソレが一段落すると、少女はその身体を伸ばし、己の頭に手を当てる。


「……フフフッ♪」


その頭には少女の黒い髪に更に彩りを与える〝黄金と白薔薇のカチューシャ〟が有り…ソレに触れるだけで少女の顔には穏やかで淑やかな〝笑み〟が咲く。


――コンコンッ――


「――入室しても構わないかね、〝字波〟君?」

「ッ!!!」


ふと響いたその声に、少女は一瞬緊張に身体を跳ね…そして即座に己の心を律し、少女から〝知的な美女〟へと姿を変えると、その声の主に部屋に入る様指示を出す。


「入りなさい、〝孝宏〟」

「…失礼するよ……ふむ、丁度執務も一段落したと言った様子で…ならば休憩がてらに経過報告でもしておこうかな」


部屋に入るなりその人物はその瞳を美女の方へ向け、彼女の状況を把握するや否や指を鳴らす。


――カタンッ――


「――さて、先ずは何から話すべきかな…うむ、此処は優先度の高い方から話すとしよう……君にとっては頭が痛い事だろうが、やはり〝鬼達〟はこの林間合宿中に仕掛けてくるだろう、〝確実〟にそうだ」

「……根拠は?」

「〝使い魔〟を見つけた、視覚を同期させ此方を伺っていたよ…隠れる素振りも無かったね…潔い事だ」


その言葉に苦虫を噛み潰したように顔を歪め、美女は溜息を吐く。


「……生徒達は?」


そして彼女はその厄介な情報から逃避する様に目の前の青年へそう問い、青年もまた、彼女の心境に理解を示しているのか深くは言わずに話題を変える。


「レクリエーション中だとも…魔術師に成ろうとするだけは有って、貴重な経験の場では貪欲を隠しもしないねぇ…実に私好みの生徒達だよ」

「どうせ貴方の事だから、焚き付けたんでしょう?」

「まぁね」

「大丈夫なの?」

「問題無いさ、全員に何かを与えるなんて事には成らないさ…腐っても彼等は金剛級、それも〝戦の魔術師〟なのだから、多少妖魔狩りを経験した程度の青年少女達では届かないよ」


その青年はそう言うと、注ぎ入れた紅茶に砂糖を大量に入れて一息に飲み干す。


「――まぁ、ソレでも1チーム、2チームは勝つだろうか…と言った所…許容範囲だとも」


そして、可笑しそうにそう笑うと…空いた窓から流れ込んでくる〝音〟に軽く笑い、窓の外を見る。


「さて…私もそろそろ戻ろうか……それじゃあ君も、程々に頑張り給えよ?」


そして、椅子から立ち上がりそう言うと…彼女にそう言い扉を開け――。


「それと…やはりそのカチューシャは君に似合っているよ、とても綺麗だ」


そう言うと、今度こそ部屋を出て行った…。


「……」


残ったのはその言葉に微笑んだまま、静止する一人の〝少女〟だけであった。




●○●○●○



「宜しくお願いしまーす!」

「うむ、宜しく頼むよお嬢さん?」


人気の無い木漏れ日の林の中…少女はそう元気良く挨拶をしながら、剣を構える。


「ふむ……情報通り〝剣を触媒に扱う魔術師〟…それも、身体強化に掛けては天才的な能力を持つと言うのは間違い無いらしいね」

「エヘヘッ、そう褒められると照れるなぁ♪」

「結実ちゃん、油断しちゃ駄目だよ!」

「――ハッ、ご、御免…椿ちゃん…」


その少女と、少女へ注意喚起する一人の少女、そしてその後ろで此方に警戒心の篭った視線を向けながら居る魔術師三人…ソレを見ながらフードに身を隠す男は、楽しそうに笑いながら言葉を綴る。


「元気が良いのは良い事だよ…家の相方は純粋さが無いと言うか、色々と〝合理的〟でねぇ…私とは反りが合わないからなぁ…」


その声は、軽い呆れを込め…しかし、ソレとは対照にその男が取り始めた構えは、一切無駄の無い重く芯の有る〝闘争の構え〟であった。


――カチャッ――


「ッ――銃?」

「中々珍しいだろう?……射出機構無く魔術を飛ばせるのに態々〝銃〟を使って戦う奴は居ないだろう?…だが、案外馬鹿に成らない物だよ…流石は人類が発明した〝恐るべき兵器〟…ってね…さて、そろそろお喋りも此処までに…始まるよ」


その男はそう言うと、片手に拳銃を、片手にナイフを構え…生徒達へ軽い威圧を放つ…その瞬間。


――ドオォォォンッ――


空高くに、開戦の火花が立ち上る…それと同時に、少女とその男は距離を詰めんと駆け出し……そうして、第一のレクリエーションは幕を開けるのだった。

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