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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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選別試験は滞り無く

――ヒュン、ヒュン、ヒュンッ――


室内の各所に生み出される光を放つリングを人影が過る。


――ピコンッ――


その瞬間、リングは消え…音と共に正反対の位置にリングが現れる。


「――チィッ!」


壮年の男性はそう心の中の苛立ちを舌打ちに変えて方向を転換させる。


――ザッ――


「――ふむふむ成る程、計測は完了した…次の〝最後の試験〟に移ろうか…休息は?」


そして、そのリングを潜り抜けると…その横に立っていた〝青年〟は息切れしている壮年の魔術師へ言葉を掛ける。


「――フゥッ…いや、要らねぇ…ハァァッ…やっぱ煙草は止めねぇとなぁ…体力が落ちてやがる」


その言葉にその魔術師はそう言い、苦笑いを浮かべる…ソレに対してその青年は呆れた様に目の前の男性に返す。


「節度を守れば依存する事も無いだろうに」

「ハッハッハッ…若気の至りって奴だよ、分かんだろ?」

「まぁね…その手の人間は良く居るものだ……さぁ、長話もそこそこに、互いに成すべき仕事を熟すとしよう」

「だな」




〜〜〜〜〜〜



――ブンブンブンブンッ――


「〝反曲の風嵐(リカーヴ・サイクロン)〟!」


凄まじい風の〝収束物〟が言葉と共に放たれる…それは周囲に乱立する無数の〝妖魔の幻影〟を穿ち、〝人の幻影〟を華麗に躱して幻影の周りを駆け巡る。


「――終了」


――ズォンッ――


私の〝宣言〟と同時に風の〝刃〟が動きを止め、一際大きな突風と共に消える…。


「――ウフフッ♪…どうかしら、小さな〝試験官〟さん?」


そして、私の視線の先では風に揺蕩う装いを美しく着こなす黒衣の美女がその豊満な身体を揺らし私を見詰めていた。


「……文句無しに〝合格〟だよ、素晴らしい操作精度だ、術その物の完成度もかなり高い…瞬間瞬間に切り替わる幻影の位置に対応出来る〝反射神経〟に、〝人型幻影(ペナルティ・ダミー)〟を避ける判断力もかなりの物だ…君のスペックは全てに於いて不足無いと言う事は疑いようが無い…」

「あぁん♪――嬉しいわ!」

「……」


――ギュウッ――


そんな彼女へ、私は率直な感想を述べる…のだが、私はその眼前の人物をある意味で〝警戒対象〟として除外するべきか本気で悩む…何故ならば――。


――サワッ――


「ハァッ…ハァッ…柔らかい肌の内側に有る引き締まった筋肉…良い匂い…ウヘヘヘ…!」


彼女の性的趣向が…今回の〝目的〟に於いて…余りにも不適切で成らないからで有る…しかし、彼女が優秀な魔術師なだけに、この一点で落とすのも勿体なく、さりとて未来ある生徒達を〝爛れた色情〟の毒牙に晒させる可能性も考慮すれば、落とす事が懸命で有る様な気もする…。


「――公序良俗に反するならば、例え優秀で在れ採用は見送らざるを得ないが…どうするかね?」

「――ンッ…それは、困るわね…うん、分かったわ気を付ける…あ、でも連絡先の交換位は…」

「君が私の信頼を勝ち取れたのなら〝考慮しよう〟」

「!……言ったわね?」


…取り敢えずは様子見だ、問題行動が無ければ吟味した後に最終決断を下す事にしよう…うん。




そして、あれよあれよと選別試験は進み…この室内に残る魔術師も見る間に減り…〝最後〟の一人…。


――ザッ――


「ホッホッホッ♪……最後は儂かい?」

「あぁ…そうだとも」


私の知り合い、そして食い逃げ犯の翁殿が残る。


「――知り合いだからと、〝忖度〟はしない事を最初に言っておこう」

「無論、承知しておる」

「では…早速やっていこうか」


私はそう言い翁と私との間に〝半透明の防護壁〟を構築する…その全ての完成を見届けると、翁は軽く壁に触れ…私へ問う。


「ふぅむ…一つ聞こう…この防護壁がお主の〝全力〟なのか?」

「…コレは飽く迄も、採用の基準として用意した物だよ」

「ふむ……そうか」


翁は私の言葉を味わう様にそう言い…静かに何かを考える風に目を閉じる…その瞬間。


――シャランッ――


「――フゥゥッ…存外…〝柔らかい〟のう?」

「ッ!?」

「―――ほぉ…」


私の目の前に翁が現れ、その背後では切り裂かれた〝防護壁〟がゆっくりと砕け…消滅していくのが見えた。


「――ステージ1はクリア…得物は刀、優れた技量と一瞬の内に此処まで肉薄する速度が武器か……しかし、何よりも〝驚異的〟なのはその〝刀〟かな?」

「クククッ…流石は学者、勘が良いのう?」

「……気には成る…が、相手の詮索は御法度、ただありのままを記録しておくとしよう」



私はそう言い、一次試験を驚くべき速さで終えた翁を二次試験へと進ませる。


「説明は不要だね?」

「うむ…何時でも良いぞ」


そして、私は指定位置に着いた翁を見てそう言うと…翁もまたそう返し集中を高める…静寂に佇む〝リング〟が現れ、私は開始の音頭を取った…。


「〝始め――」


瞬間……その場に居た〝老人〟は姿を消し、リングの先には既に通過した翁が――。


――ブォンッ――


消える…そしてまた別の位置に現れたリングの先には翁が。


――ブォンブォンブォンッ――


消えては現れ、現れては消えて…リングの先に翁は居る…物音一つさせずに、翁は恐るべき〝機動性〟で他の試験者には到底真似できない程の〝成績〟を出す。


――ブォンッ――


「――オーケー…もう分かった、充分だ……全く、最後の最後で飛んだ化物が出てくるとは…凄まじい〝能力〟だねぇ」

「ホッホッホッ…なぁに、コレも昔取った杵柄と言う奴よ…これ以上は必要かのう?」

「う〜む……まぁ、一応続けるべきだろう…彼等にはキッチリ全工程を行わせて君だけ無しでは筋が通らないだろう…それに、三次試験が上手くいくと言う保証は無いだろう?」

「ま、それもそうじゃのう」



我々はそう言い、未だ驚天の最中に居る字波君を放置して三次試験を開始する……。


「三次試験は〝的当て〟の様な物だ…制限時間内で〝妖魔型〟を攻撃する事、一体一点、より多くの妖魔へ攻撃が当たればポイントが増える…しかし〝人型〟に触れてしまうとペナルティでポイントは減る…そして、出現する幻影の位置は完全にランダムで入れ替わる…反射神経と〝判断力〟が求められる試験だ」


私の言葉を聞きながら、翁はその刀に手を掛け…視線一杯に広がる〝幻影〟を見て黙る…。


「それでは…最後の試験………〝開始〟!」


私がそう言い、開始の宣言を言い放った直後…。


――カチンッ――


……と、刀が鞘に触れる音が響いた……その瞬間。


――ブブブブブンッ――


眼前に広がっていた〝妖型幻影〟の首が分かたれる…残ったのは〝人型の幻影〟だけで有り、人型には一切のダメージが無かった…。


――ブォンッ――

――カチンッ――

――ブォンブォンッ――

――カチンッ――


一瞬の静寂がまた破れる、破れてはまた翁の凄まじい〝斬撃〟により回帰し、ソレが幾度と繰り返される…その間であっても、やはり人型の幻影はどれ一つとして傷すら負うことは無かった…。


「――オーケーだ……コレで全ての〝試験〟を終了する…採用の可否は3日後に連絡するので待って欲しい」

「うむ、分かった…」

「では、コレで試験は終了する…帰って構わないよ翁殿…」

「そうか…では、そうさせてもらうとするかのう…またの、〝孝宏〟殿よ」



私はそう言い、この室内から去る翁を見送り…静寂の中で字波君の下へ向かう、


「――いやはや、とんだ〝強者〟も居たものだねぇ…字波君?」

「えぇ……これなら追加で募集しなくても何とか成りそうね」


そして、他愛も無い会話を挟みながら…我々もまた、この一室から立ち去るのだった。

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