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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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選別と採用


アレ(合同訓練)〟から早一週間が経つ…彼等の勤勉さは既に知っていたが、其処は流石〝成長〟と〝変動〟に満ちた〝人間と言う種〟…取り分け若い彼等はその知的探求心と〝勝利〟へ強い関心が有るのか、その成長速度は想定外に早い。


「コレは予想外に面白くなってきたな」

「?……何の話?」

「いや別に?……ただ生徒達の訓練で一応と用意していた〝玩具〟が陽の目を見る事に成るかなと考えていただけさ…」

「そう…なら良いわ」


そんな私は字波君の後ろを歩く…何故か私が字波君の〝側近〟の様な扱いなのは理解しかねるが、兎も角…我々は現在、〝八咫烏〟の〝訓練施設〟を闊歩している。


「確かに生徒達の観察や訓練に関するマニュアルは渡しているとは言え…折角彼等が考案した新戦術を目にできるかもしれないと思った矢先に別行動とは…運の無い」

「そう言わない、訓練も大事だけど此方だって同じ位大事なのよ?」


字波君はそう扉前で私を嗜めると両手扉を開き、中へ足を踏み入れる。


「――あ、来ましたか〝字波理事長――」


――ギロッ――


その瞬間、此方に集まる視線に身体が反応する…部屋の中は広めの室内グラウンドの様になっており、防音防振、耐魔術、耐物理と万全な防性を持った素晴らしい空間に成っていると部屋を見て分かる…問題はその中に集まっている人物だ。


――オォォォォッ――


「――おぉ…本物の…」

「すげぇな…中で見ると断然〝勝ち目〟がねぇ…どんな魔力してんだよ?」

「あの小僧は何だ?」

「可愛い〜♪」


其処には筋骨隆々の、或いは可憐、或いはスマート、ミステリアス…兎も角それぞれ特徴的な〝魔術師〟が100名前後集まっていた。


「……ふむ」

「ホッホッホッ…久しいのう〝孝宏〟先生よ」

「久しいねぇ翁殿…今日は御付きの彼は居ないのかね?」

「まぁの、今回の仕事内容じゃとアヤツには荷が重いじゃろうと思っての」


そして一人…見知った老人がその場に居る、この爺さん、私に会計を押し付けた事はサッパリと忘れているな?…。


「――さて…今日は集まって頂き感謝するわ…〝金剛級〟魔術師の皆さん…自己紹介は…必要無いわね」


それは兎も角…ざわめく彼等の視線を受けながら私は字波君の背後に立つ…私より目立つ字波君が居ると言うのに此方へ向く視線が多いのは、恐らく彼女の〝功績〟故の物だろう。


(〝嫉妬〟、〝軽蔑〟、〝懐疑〟、〝興味〟…〝情欲〟?…〝情欲〟!?)

「ッ……!?」

「「……ウフフッ♪」」

(まさかの〝男女〟から?…流石姿だけとはいえまだ10代中期そこらの青年に情欲を抱くのは不味くないか!?…それも男女両者から!?)


いや、性的趣向に対して私は何も言わんが我が身が獲物となれば話は変わる…生憎誰彼に身をくれてやるほど節操無しでは無い。


「……(心底軽蔑する目)」

「「ッ……ハァッ、ハァッ…」」

「 」

(〝ソッチ〟系かぁ!?)


クソッ…粒揃いでワクワクドキドキな〝人材発掘〟の場と言うのに何故私が変態共の相手をしなければならないのだ!?…。


「――と言う訳で、貴方方には私の〝お墨付き〟である〝彼〟と手合わせをしてもらいます」

「――エッ?」


私が変態達の忌むべき執着に苦戦していると、ふと彼女の口から聞き捨て成らない言葉が響く…コレもあの変態共に気を取られた所為だ…おのれ!…。


「では…〝一人ずつお願いね♪…孝宏〟?」

「――ハァッ…分かった、〝分かりましたよ〟『――』〝理事長〟殿…ただし、此方側で合否を判断しますが宜しいですか?」

「…えぇ♪」


……何だ今の間は?…。


――ゴォッ――


「ッ――フフッ、殺る気だねぇ…♪」


兎も角私はこうして…魔術師達の上位カースト…即ちに〝金剛級〟と呼ばれる魔術師達が目指すべき初めの到達点達と、その実力を測る手合わせをする事になったのだった……。


「戦いに託つけて…あの子をドロドロに…ウフフフフッ♪」

「肌と肌のぶつかり合いを…グヘヘヘッ♪」


――……前言撤回、今直ぐにでも〝帰りたい〟…いや、〝帰ろう〟――。


――『キィィィィンッ』――


「孝宏?…まさか逃げるつもりかしら?……この私に〝恥〟を掻かせるの?」

「――……oh mygod (やはり神はクソだね)


私は己の手首まで伸びる紅い紋様に顔を引き攣らせる…そんな私を嗜虐的に見つめる字波君の声に神を呪う言葉を吐きながら…コレが仮に運命ならば、私は運命の創造主たる神を殺すだろう。



――ガッ――


「――さて…グダグダしても仕方無い、始めようか…先ずは〝一人目〟…〝戦の金剛中級〟…〝大鶴刃(おおつるやいば)〟殿、前に…得意魔術は〝強化魔術〟と〝製鉄魔術〟、適正属性は〝風〟…と」

「応…宜しく、〝小僧〟」


遠巻きに此方を眺める彼等を無視し、私は彼と相対する…身長165の私と比較してかなりの巨躯を誇る彼はその筋骨隆々な肉体を魅せる様に、その肩に巨大な大剣を置き此方を睨む様に見つめる…はて。


「随分と殺気立っているがご機嫌斜めかな?」

「フンッ……〝紅月〟のお墨付きか何か知らねぇが随分と自信が有るじゃねぇか」

「?」


その言葉に私は自分の言葉を振り返る…彼等が此処まで怒る理由に検討が付かなかったのだ…そして思い当たった。


『ただし、合否は此方側で判断する』


「――成る程、察するに君は私が君達に負けることは無いと暗に言われた事を挑発と捉えた訳か」

「……」

「まぁ、其処は置いておこう…前置きは兎も角早速〝選別〟を始めるとしようか」


その言葉に、大鶴刃君はその身に力を張る…が生憎と此処でやり合うつもりは無い。


「――〝投影防郭〟」


私は言葉短に詠唱を紡ぎ、彼と私の間に五、六枚のシールドを展開する。


「コレはとある〝妖魔の防御性能〟を数値化し、出力したシールドだ…先ずはコレを〝破壊〟して欲しい…1枚でも破壊出来るならそれでいい、次の試験に進む…良いね?」

「……ハッ、良いぜ…魔力も並程度のテメェが作る防郭魔術なんざたかが知れてらぁ!」


私の言葉が締め括られると同時に、刃君はそのシールドに突撃する。


「――〝鋼鉄の機剣(パンク・クレイモア)〟!…〝蒸魔機構回転(スチーム・ブラスト)〟!」


そして、以下にも鉄臭く男臭い〝機械仕掛けの大剣〟が振り下ろされたその瞬間。


――ドゴォォッ――


その衝撃の規模を語るかの様に凄まじい土埃が舞い上がる…。


「――……ッ、口程にもねぇな」

「ふむ…」


土埃が巻き上がるのを払い除けた、その先には…シールドを〝三枚〟砕いた大鶴刃がその顔を獰猛な笑みに歪め、立っていた。


「〝攻撃性能は問題無し(ステージ1、クリア)〟…では早速、次の試験に移ろうか」


そんな彼を見ながら、私は湧き出す興味を抑えつつ、彼へそう言った。

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