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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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無知無き再戦

――ザッザッザッ…――


「『位置に着いたね?…良し…では長話無駄話は無しにして、〝再戦〟としようか…君達に実り多い〝経験〟が与えられる事を期待しよう…では、〝起動〟するよ』」


四角の結界に広がる広大な〝大地〟…その中心に鎮座するのは隠す気等微塵も感じさせない〝洞窟〟…ソレを見る彼等魔術師の卵達の目には、その洞窟に対する強い〝警戒〟と〝緊張〟が見て取れた…。


――ズオォォォッ――


「『さて…折角だ、会敵のカウントダウンをして上げよう…そちらの方が気持ちの区切りが着くだろう?』」


そう言うと、姿の無い声の主は結界の内側、洞窟の真上に巨大な〝10〟を投影する。


「『それでは…10…9』」


情緒も慮りも無く、その声の主は淡々とカウントダウンを始める。


「『〝8〟』」

「作戦通りに頼むぞ…?」

「任せなさいッ」


「『〝7〟』」

「全グループの配置に不備は無い…が」

「油断は大敵ですよ東さん?」

「分かってますよ土御門さん」


「『〝6〟』」

「おーし、貴さん等、シャキッとせえよ!」

「伊方ん所に負けんなよテメェ等!」

『応よ!』


各グループがそう其々に意気込みを口にしながら、闘志を募らせる…その間にもカウントダウンは進み…遂に――。


「『〝3〟…〝2〟…〝1〟…』」


――ドオォォッ!!!――


〝黒〟は噴き出した…彼等の予測を、遥かに上回るやり方で。


「「「「ッ…はぁ!?」」」」


ソレは余りにも唐突で、余りにも〝急な濁流〟…1度目とは異なるその動きに、彼等は思わず叫ぶ。


「――どうなってんだオイッ、さっきと違うじゃねぇか!?」


その一人の生徒から発された怒りの声に、声の主は不思議だと言う様に言葉を返す。


「『そりゃそうだろ君ィ…自分の家を〝明らかに怪しい集団〟が見ていたとして君は普段通りに出掛けられるかね?』」

「――ッ…クソッ!…〝壁〟を張れ!…〝前衛〟!」

「「応!」」


その至極当然の言葉に生徒達は押し黙り…騒いだ所で状況は変わらないと理解したのか、其々に指示を出す。


「「「「〝土操作(ガイア・コントロール)〟…〝土流岩壁(ロック・ウォール)〟!」」」」


噴き出すゴキブリ達を無視しつつ、魔術師達はその洞窟の周囲から巨大な壁を構築し始める。


「漏れ出た妖魔は我々で処理します!」

「「「「「了解!」」」」」


予想外から始まった彼等の再戦は、最初の戦いに比べると一目瞭然な程に…そのその戦況を生徒達へ傾けていた。



●○●○●○


「良し良し!、妖魔の進出を防ぐ為の土壁…構築している術師の警護に残党の処理…シンプルだが、確かに効果的…各グループも前回と比べ動きが良い」

「――そう、そう!…硬い相手には機動力を削げ、火力が無いなら仲間のサポートだ!」

「関節や翅の付け根を狙えれ――いよし!…反省が活きてるぞ!」


――カリカリカリカリッ――


「クククッ……いやぁ…まるで子の成長を喜ぶ親の様な口振りだねぇ…」

「フフッ…まぁ分からなくも無いわよ…可愛い生徒達が頑張ってるのは見ていて応援したく成るものよ?」

「ハハハッ…確かに、そういう物か…」


隣で椅子に座りながら、彼等の奮闘に穏やかな目を向ける字波へ私はそう言い、手元の紙束にペンを走らせる。


「……貴方はそうでもないのかしら?」

「――いいや?…私とて生徒の成長は喜ばしい事さ、コレでも人情派だからね…ただこの勝利は当然の帰結だからね…不確定要素の無い〝確かな勝利〟だ、喜ぶ必要は有るまいよ」

「…自分の生徒だから?」

「いいや、そうじゃない…この作戦の試行が始まった時点で彼等は勝っている…〝増え続ける敵〟を相手に多方面での戦いは非効率だ…ならば〝戦闘範囲〟を狭めてしまえば良い…と言うのは当然の発想…しかし防ぐだけでは何時かは〝破れる〟…となれば求められるのは〝一箇所に集約〟し、〝一網打尽にする作戦〟だ…その策を遂行する実力を、彼等は既に証明している…後は〝心構え〟の問題だ…ソレを1度目で〝教えた〟のだからこの程度の障害では彼等は止まらないさ」


眼前で出来上がる…土塊の〝囲い〟…ドーム状のソレに目を向けながら…其処に近寄る〝魔術師達〟の最後の仕上げを見る。


「――さて、私もそろそろ〝準備〟しておこうか」

「?…何を?」

「フフフッ……〝御褒美〟だとも」



○●○●○●


――ギチッギチギチギチッ――


「〝火よ〟…〝原始より人と共に歩みし火よ〟…〝従属せし、叛乱せし禍福の御力よ〟…〝今我等が再びの足枷を与えん〟」

「〝従属せよ〟、〝我に下り、その御力を命ずるがままに振るえ〟」

「――〝燃やせ、却せ、滅せ〟…〝灰の海にて猛り歌え〟」


土の壁に手をふれ…無数の魔術師が詠唱を紡ぐ…それぞれが、それぞれのやり方で…その土の壁の奥に犇めく蟲共への〝復讐〟を成さんとする。


「――〝焔の天尾よ…その灼蓮を以て命を枯らせ〟」


――コオォォ…――


犇めく黒の〝闇〟に仄暗い〝釜の中〟で…彼らは無知が為にその〝赤〟を見ない。


今まさに…破ち切れんばかりに噴き出す…魔力と熱の〝奔流〟を。


――ゴッ――


ソレはくぐもった轟音を刹那に響かせ…その烈火を隙間から黒煙として〝見せ占める〟…。


「――…野焼きの臭いじゃのう?」

「そうか?…俺ァ焦げ臭え臭いがするな…」


その光景を…黒煙の登りを見ながら彼等は燃え盛る岩の〝釜〟を見る。


――グウゥゥゥッ――


「……なぁオイ、〝氷太郎〟…」

「…だな、〝武〟」


そして…その焦げた命の臭いを嗅ぎながら…二人は腹の音を奏で一緒くたに言う。


「「〝焼き芋〟食いてぇぇ……」」


ソレから五分経ち…次第に薄れ行く黒煙に、岩の壁が崩れてゆくと、結界が〝砕かれる〟…。


「『おめでとう〝諸君〟……見事〝第一の訓練〟は終了だ…アチチッ』」


其処には生徒達に声を掛けながら、その両手で銀色に包まれた〝何か〟を交互させる青年の姿が有った…。


「――と、取り敢えず熱―解散前に君達に訓練の映―アツッ像記録を渡しておくのでアツツッ、明後日の訓練前の復習として使い給えッ――アッツイ!」

『……』


――ポイッ――


「――取り敢えず、其処に〝焼き芋〟を作っているので、各々一つずつ、先生方から受け取り給え!……何で私だけ焼き立てを直渡しなのかね!?」


――ジュウッ――


「アッ――!?」


そして…空に投げた焼き芋を鷲掴みし、悲痛な叫びを浮かべる青年の声に従い、彼等は訓練後の御褒美を手に入れんと教師達の元へと歩を進めるのだった…。


『魔術で浮かせたら良いのに』


そんな魔術師にとって至極尤もな発想を胸に押し込めながら。

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