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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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学び、理解し、殺せ

――キィィィィンッ――


「『――諸君、休憩は満喫出来たかな?…否、聞かずとも良い、タップリ体を休められただろう、何せ1時間だ、ちょっとした仮眠すら出来てしまうからね、充分だと判断するとして――』」


耳鳴りが如く響く振動の音…その後に響く拡声器から響く様な声…その声の主たる白衣の青年はそう言いながら、眼下の生徒達を見て一際〝怪しい笑み〟を浮かべる…その表情に、生徒達は次は何が来るのかと冷や汗を流し身構える…そして。


――パチンッ――

――ブォンッブォブォブォンッ――


その瞬間、生徒達一人一人の眼の前に半透明のディスプレイが浮かび上がり、其処には彼等を見下ろすその青年の姿が映し出される。


「『――〝妖魔との戦い〟…その1度目は滞り無く終了した、君達は余裕綽々に臨み、予想打にせぬ状況に慌てふためき、集中を掻き…ボロ雑巾の様に、それはもうものの見事に〝全滅〟した…想定通り、予想通りに…文字通りの〝実戦〟ならばこの時点でセカンドチャンスは無いが、コレは飽く迄も〝訓練〟だ…コレで君達の中に〝妖魔と戦う心構え〟の一つ……〝油断大敵〟と言う事を理解してくれた事だろう…まぁ、これは妖魔以前のどの出来事、競争に於いても注意すべき事だが……コホンッ、兎も角、これは訓練…君達は全滅したが、まだ生きている…となれば次に成すべきことは〝学習〟だッ、勝利の為には〝理解〟が必要なのだよ諸君!』」


そして、その青年はそう熱意を込めて語りながら画面越しに生徒達の目を見つめる。


「『さぁ、時間が惜しい!――直ぐ学ぼう、直ぐ〝理解〟しよう、そして〝思考〟し、〝試行〟し、〝施行〟しよう!』」


そう言うと、画面に映るその男はそのディスプレイに画像を引っ張って来る。


「『先ず第一に君達が〝理解〟するのは〝敵の情報〟だ…姿形はどんな物だった、丸い、四角?…手は何本脚は何本、毛の有無、感覚器官の有無、内蔵の有無…此等全ては貴重な〝情報〟だ…と言う訳で君達に〝テスト〟だ…君達が目にした〝アレ〟が持つ特徴をディスプレイに表示される解答欄に記入し給え……カウントダウンと共にスタートだ』」


そしてその言葉の洪水を浴びせると、そのディスプレイが変動し、その視界一杯の半透明に無数の文字と空欄が現れる。


「『3……2……1……開始!』」


その言葉と同時に、生徒達は困惑から立ち直り手をディスプレイの上で踊らせる…。



〜〜〜〜〜〜



「『――ふむ…良々、概ね〝正解〟だね…姿形は〝ゴキブリ〟、脚は六本、内蔵は存在し、感覚器官は稼働している……これだけ分かれば及第点だろう……さぁ、では次の段階に進もうか』」


生徒達の回答を読み解きそう言うと、その男の背後には別の映像が流れ出す。


「次に彼等の〝戦い方〟だ…この映像の通り彼等は〝物量〟で攻めてくる、推定50キロ前後の巨大ゴキブリが何百と群れてね…それだけでコレは脅威と成るが、ソレだけじゃない」


其処には真っ黒な〝波〟が大地を進む姿が映っていた…しかし、よくよく目を凝らすとその〝黒〟は何百と犇めき合う〝蟲の塊〟で有ると分かるだろう…そんな黒の〝波〟に紛れて、幾つかの〝人影〟がその場から這い出す。


「『〝擬態〟、〝偽装〟…大型とは別に〝小型のゴキブリ〟が密集し、〝混ざり合い〟人間の姿を摸る…厄介極まる性質だね…コレでは〝行方不明者〟の帰還すら喜ぶ事は出来ない…』」


其処にはその場にいる生徒達と同じ姿、同じ形を持った〝偽物〟が映像の奥地で戦っている生徒達へ向けて歩き出す光景が映っていた。


「『――と、言うところで質問しよう…状況は…そうだねぇ…君達が〝擬態能力〟を把握していない場合、君達が最初に取るべき〝行動〟は何かな?……〝壇ノ浦東〟君』」

「ッ…救助ですか?」

「『ふむ…人情に厚く仲間の帰還を喜ぶのは人間の道理だが…〝残念外れだ〟…此処で君達が取るべき行動は〝調査〟と〝警戒〟だ……妖魔は通常の生物とは違う、質量等はアテに成らない…この場合最初に取るべき行動は、生還してきた者に対する〝尋問〟だ…ポイントとしては全員それぞれ符丁を用いる確認方法…今回等はソレが有効だね……しかし仮に〝記憶すら取り込める〟妖魔が擬態した場合は、己等の観察眼に期待する他無い…故に観察力は常に鍛えておく事だ……では』」


男はそう言うと、次の問いを投げ、別の生徒へ答えを問う。


「『既に君達が〝妖魔は擬態能力を有している〟と言う情報を保有していた場合…その場合はどうする?……〝伊方武〟君』」

「――〝斬る〟、〝斬って確かめる〟…血が赤なら本物、紫なら妖魔じゃ」


その生徒は当てられた事に何の反応もなく…ただそう、淡々と答える、その物騒極まる言葉に、周囲の生徒を恐れ慄かせながら。


「『ふむ……それでは本物だった場合はどうするのかね?』」

「治癒師に治させぃ…死んでないならコレで元通りぞ」

「『ふむ……宜しい、確かに〝半殺し〟にすると言うのも間違いでは無い…些か物騒が過ぎるがね…後は先程言った様に符丁や特徴を使った看破、他には〝様子見〟で相手の出方を探るのも良いだろう…一度己の懐に潜り込ませる事も時には有効だ』」


そんな彼へその男は少し困った様に笑い、しかし否定せずに続ける。


「『――この様に、相手が保有する〝能力〟を把握している、していないでは対応の仕方が違う、未知の相手が敵の場合は〝観察〟し、〝理解〟する事が重要なのだよ…無論相手が如何なる姿であれ〝平静〟で居られる精神力も必要だ…そしてもう一点、コレは本来は〝次の段階〟を予想していたが…とある生徒達が新たな情報を獲得したので公開しよう』」


その言葉と共に映し出されるのはまた異なる映像…しかし、ソレは先程の様な嫌悪感を掻き立てる様な〝生易しい〟物では無く――。


――『グチュッ…ズロォォッ』――


「ヒッ…!?」

「何…コレ…」


見る者の顔に、明確な〝拒絶〟と〝恐怖〟を与える様な…そんな〝冒涜的〟な光景だった。


蟲が蟲を喰らい、その数を増やす…その在り方は〝繁殖〟とは凡そ呼べず…まるで――。


「〝複製(クローン)〟?…」

「『む、良い所を突くね〝冬木一楽〟君…そう…コレは〝繁殖〟では無い…一匹を〝培養室〟、もう片方を〝生体情報〟とした〝複製化〟だよ…この通りに、彼等は無限に増殖する…尽きる事の無い兵力に、強力無比な〝防御性能〟…コレほど厄介で最適な訓練相手は居まい』」


生徒が述べた推測に、その男は肯定して顔を薄く笑みに歪める…そして、その次に二人の生徒に目を向けて声を紡ぐ。


「『この情報を公開したのは〝君達〟の御手柄だよ、〝巌根氷太郎〟君、〝伊方武〟君…でもね、コレの想定は〝妖魔との実戦〟だ…その点で見るならば君達の行動は無謀が過ぎた…〝特攻〟の後はどうするつもりだった?…自分達が多くを斬り一匹でも多く倒す?…主義主張は立派だが、それで君達が死ねば其処までだろう、〝情報〟も〝戦力〟も…全て〝無くなる〟じゃないか』」

「「……」」

「『と言う訳で、君達に花丸は上げられない…が、その前の〝指揮の確立〟は良かった…その点を踏まえ、今回の失敗は減点としない事にするよ』」


そして、一通り言い終えると…またあの胡散臭い笑みを浮かべて生徒達へ言う。


「『さて…それではコレより、〝三十分〟の作戦タイムを設けよう…一丸と成るも、複数グループに分かれるも良い、各々が思考する作戦を共有し、2度目の〝訓練〟を乗り越え給え♪』」


その背に、巨大な砂時計を浮かばせて。

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