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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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鬼と京都

――コンコンッ――


『えー、コレより〝不身孝宏脳内会議〟を執り行う、静粛に、静粛に』

『……馬鹿か私は?』


其処は白々とした空間、即ち我が夢…〝記憶図書館〟と命名しようその場所で、私は独り卓について思考に耽る。 


『――兎に角、早々に〝探偵ごっこ〟に勤しむことにしよう…先ずは〝大雑把な状況〟からだ』


脳髄から引っ張り出した記憶を見る…其処には何の気無しに夜の山道を歩く私の姿。


『ポイント1……私は〝襲撃〟された…明確な意図を以て、計画的に、打算的に…その根拠とは?』


私はその答えを、次に浮かぶ五人の鬼の姿に視線を移し、一人に注ぐ。


『即ちは〝言葉と行動〟…彼等の実力は私以上、にも関わらず私の無力化に躍起になっていた…その点から〝妖魔の捕食衝動〟による襲撃では無く、彼等は明確に〝目的〟を持って私を襲撃したと推測する』


コレは後の彼女…〝艶莉〟君の証言…〝敵対の意図は無い〟、〝追従しろ〟との言葉から間違いなく〝私個人〟を狙った物と判断出来る。


『ポイント2…では、その襲撃の〝目的〟とは?…コレも上記の口上から、〝私〟の〝拉致〟或いは〝交渉〟…つまり〝私を何処かへ持ってゆく事〟……何故?』


――カチッ――


『即ち、〝私の従属〟で有る…コレに関しては〝彼〟の口振りがその根拠だ』


突如現れ私のサンプルを回収していった鬼の青年…名を知らないので〝青年鬼〟としよう、彼の口振り…〝やはり、貴殿も此方側の…〟…で有る。


『コレが私の認識を誤認させる為の罠ならば素直に完敗と宣言しよう…しかしそうで無いのなら、彼等は〝私の素性〟に勘付いている…少なくとも予測、最悪確信までに至り…決して〝無知〟で無いと考えよう』


ならば彼等の目的は簡単だ、〝襲撃〟の目的は〝拉致服従〟で有り、私の素性に少なからず知見を得ている、その上でのこの行動…間違い無く、私を〝勧誘〟し、部下ないしは仲間として利用しようと画策しているのだろう…。


『ポイント3…では、彼等は何者なのか?…此処での〝何者〟とはつまり、彼等がどういった〝活動方針〟なのかと言う問いだ……そして私は、〝組織〟で有ると考える』


妖魔が徒党を組む〝組織〟…コレは彼の言動から判明した〝大将〟なる存在と、彼等程の個体が複数人、意思疎通を取りながら襲撃を行うと言う〝連携〟から判断した物だ。


『ポイント4…では仮に組織と仮定して、彼等の大将とは何者なのか?…』


コレばかりはまるで検討も着かない…先ず間違い無く〝彼等〟以上の存在で有る事は確かだがソレだけでは推測も出来ない…。


『……鬼、鬼…鬼の組織…鬼の群れ…』


鬼の指揮指導者、鬼を束ねる者……ならばその大将もまた〝鬼〟だろうか?…。


『強力な鬼、〝鬼の頭目〟……』


――パタパタパタパタッ――


周囲の書物が独りでに開く、荒れ狂う様に…頁の蓋を外していく…そして最早、それは〝推測〟ですら無く、〝探偵ごっこ〟を興じるでも無い…ただの〝遊び〟と化した。


想像力に身を委ねる……未だ見ぬ〝鬼の頭目〟…その〝存在〟を…。


『京都の鬼…か……何とも〝それらしい〟』


私の知識が遡る…伝承、伝説の鬼の名を…〝この地(京都)〟に座す、その存在の姿を。


鬼の大将ならば、仮定で有れどこの名を定めよう。


〝大江山の鬼〟、〝京都(平安)の地〟…その名は……。


――フワッ――


〜〜〜〜〜〜


「――〝仮称〟…大将〝酒呑童子〟としよう」


源頼光に滅ぼされた鬼の頭目……無論そうで無い可能性も有ろうが、兎も角この名が覚え易い。


「相手の狙いが分かったなら…次は……〝対策〟だね」


私は独り言を、夢の続きを泡沫成らぬ微睡みから目覚め、寝屋を出る…。


「字波君からの尋問から〝3時間〟…純人間だった頃ならばこうは行かなかっただろうね…」


混ざり物のおかげで、大幅に変化した〝生理的活動〟に私は小さな感想を漏らし、陽に照らされる人の街を歩き出すのだった…。



●○●○●○


――チャプチャプチャプッ――


「――しかしまぁ、派手にやられたなぁオイ…?」

『……』


其処は、蝋の光に照らされた室内…赤髪の美女はその大盃に瓢箪から酒を注ぎ、その水面に浮かぶ四人の〝鬼〟へそう告げる。


「艶莉…お前がまさか籠絡されるたぁ予想外だったぜ…」

「……言い訳はあらへんよ、〝大将〟」

「中々面白かったぜ?…鴉から見てたがよぉ…まさか四人掛かりで行って捕れねぇたぁなぁ…クククッ…〝良いじゃねぇか〟!」


赤髪の美女はそう豪快な、屈託ない笑みを浮かべてそう笑い、酒を飲み欲し…その〝気〟を緩ませる。


――ブワッ――


途端溢れ出す、凄まじい瘴気の濁流が室内を満たし、蝋の火を緩ませる。


「コイツァ、是が非でも欲しい…あの糞爺にゃくれてやらねぇ…オイ〝黄蓮〟…〝茨木〟と組んで〝策〟を練れ…今回ばかりは〝享楽紛い〟にゃ動かねぇ…カチッと硬く、戦みてぇに気張れ!」

「承知…!」

「――テメェ等もだッ、今回は咎めなしだ!…俺様の采配が悪かったが、次はそうじゃねぇ…〝本気〟で取りに行く…刃ァ〝鈍らせるな〟よ?」

『応!』


その濁流は室内に留まらず、その周囲にすら広がり…その気配に充てられ、〝常夜の世界〟に鬼の慟哭が響き渡り…この世に珍しき静夜はまた、何時もの騒乱に染め上げられていった。



○●○●○●


――キィィィィンッ――


「『あーあーマイクテストマイクテスト…ゴホンッ、やぁやぁ諸君朝から意気軒昂で大変よろしい…全員今日の〝講義〟…否、〝訓練〟が楽しみで仕方が無いと言った様子で』」


私は広々としたグラウンドに響く己の声を聞きながら、眼の前に集まり、列を成し、拝聴する将来有望な〝魔術師〟達に声を掛ける。


群がるヤル気が〝殺る気〟に感じる程情熱の秘めた彼等には、さしもの歴戦の教師達とて普段の穏やかな雰囲気を一転させ、〝戦いを知る者〟の雰囲気を纏わざるを得ないらしい。


「『さて、では長々と話すのも惜しい…先ずは簡潔に、宣言しよう……ただいまより、〝林間合宿〟に向け、〝一ヶ月間〟の、〝一学年合同訓練〟を開始する!』」


――ドッ――


そして、私は膨れ上がる彼等の〝気迫〟に更に薪を焚べるかの様にそう宣言すると…彼等の返答、或いは圧縮された空気、言葉の圧力が私の耳を劈いた。

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