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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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黒の蟲兵

――ザッザッザッ…――


「やぁやぁ、唐突に招集して済まないねぇ先生方」


グラウンドに集う〝同僚〟の諸君を見ながら私はそう言う、時刻は15時過ぎ…生徒達は事前に帰路へつかせ、現在残っているのは我々この学園に所属する教職者達だけで有る。


「我々が此処に居ると言う事は…つまり」

「――その通り、〝教材用妖魔〟を確保した…その最終チェックに君達の協力が必要なんだ、事前に告知した通りだね」

「では早速始めましょうか」

「あぁ、良いね…話が早くて助かるよ」


私の言葉に、彼等は直ぐに戦闘の支度を始め…その魔力の群れがグラウンドを包む……以前と比べてより強力に成っているその魔力を見れば、生徒と同じく教師達も日々鍛錬と研究を続けている事が分かる…さて、彼等を待たせるのも忍びない…。


「では早速〝召喚〟しよう……〝獄囚の扉〟…〝解錠〟…〝グループAのみ出る事を許可する〟」


私は地面に描かれた黒い魔術陣に手を置き、そう唱えると、次の瞬間、魔術陣の中心のソレが駆動を始め…その中心から徐々に黒い〝穴〟を開けてゆく。


――ズロォッ――


そして、拡がりゆくその〝門〟の中から…〝ソレ等〟は這い出してくる。


「「「「「ッ…!」」」」」


その姿は、人間にとって馴染み深く、忌避の対象で在り、嫌悪の的で在る生き物の姿…黒く光るテラテラとした甲殻に、異様に長い触覚、虫特有の感情の読み取れない目にワシャワシャと動く顎…其れ等は素早く、嫌悪を掻き立てる挙動を用いながらゾロゾロと這い出してくる…。


「よりによってゴキブリ…!?」

「そう〝黒虫(ゴキブリ)〟だ…見た目で動きを制限されるようじゃ簡単に死ぬからね…今の内に〝外見に動じない胆力〟を持ってもらわないとだろう?」


キャーキャーと叫ぶ女性職員達にそう返し、私はグラウンドに広がる黒い波が途絶えるとその召喚陣を閉ざす。


「コレは確保した妖魔の群れの一つです…魔術と近接に耐性をつけた…訓練用の〝個体〟だよ…先ずはこの群れを一掃して欲しい…殺して構わないよ、飽く迄もコレは無数の群れの一つだから……さぁ、それでは準備も整っただろう所で……〝始めようか〟」


私はそう言い、這い出た虫達に指示を入力する…その瞬間、虫達は何かに取り憑かれたかの様に急に動き出し、彼等へ殺意と敵意を向けて肉薄する。


「〝火恵(ひえ)赤視(せきし)〟!」

「〝疑似降霊〟…〝風の白虎〟!」

「〝地に降り注ぐ雨槍〟ッ」

「〝土塊の砲轟〟!」


そして、始まった〝模擬実験〟…放たれる綺羅びやかな魔術が黒の群れを埋め尽くす…職員の彼等はその攻撃に確かな手応えを感じた事だろう……しかし。


――ズァッ――


「ッ…無傷!?」


その程度の攻撃では足止めにしか成らない…黒く光る彼等の装甲を傷一つと付けることは叶わない。


「〝成長せず〟、〝進化せず〟、〝種を残さない〟…凡そ生物としての〝変容の因子〟を排除したコレは…その余剰を〝肉体〟に割いたのだよ…より硬い鎧を、より阻む力をと…それが〝グループA〟…〝重装蟲兵アーマード・インセクト〟」


しかし素が大した性能では無い為に、ソレの強化と言うのもたかが知れている…。


「確かにッ、〝強固な守り〟は厄介だ……だが、ソレだけなら対応は容易だ…!」

「高火力で順次殲滅をッ、火力の出し辛い魔術師は妖魔の足止めに回れ!」


やはり、幾らか修羅場を潜り抜けた職員達にはこの程度、さしたる障害にも成りはしないか…早くも連携による処理を行い、妖魔達の数を徐々に減らしていく様は、見事と称賛する他に無いだろう。


――ボシュンッ――


風が炎が、土が水が虫達をそれぞれの方法で鏖殺してゆく…やがて十数分後には、蟲の骸が山の如くに積み上げられ、彼等へ向かい戦う意志を見せる蟲兵は一匹と居なくなっていた。


「――ふむ…成る程…単純な一対一では教員でも手間取ると…結構結構」

「ふぅっ……いや、中々手応えの有る相手でした孝宏先生…コレなら生徒達も十分、実戦の厳しさを理解してくれるでしょう」

「――そうでしょうそうでしょう、我ながら中々良い改良を施せた物ですよ!」


私はそう言い、構えを解き手応えに満足する彼等と雑談を交わす……そんな時。


――コンコンッ――


「アレ?……お〜い孝宏先生、もう全部倒し終わったっすよ?」

「早く結界解いて下さいよ〜!」


ふと、学舎側からそんな声が聞こえる……どうやら模擬戦を終えた為に、学舎に戻って休憩でもしようと考えていたらしい彼等彼女等が私へそう叫ぶ。


「……」

「?……どうしましたか孝宏先生、早く結界を解いて上げて下さい」

「……ふ」

「……え?」


――アハッハハハッ!――


そんな彼等を見て…私は笑う…そんな私を見て、彼等は驚きに硬直する…うん、終わったなら〝解放しろ〟…か。


「無論、無論だとも!…ちゃんと〝解放しよう〟…ちゃんと…〝終わったならば〟…ね」

「ッ…何を言って」

「〝まだ終わっていない〟よ諸君!」


私は呆然と、怪訝と此方を見詰める彼等へ、予想打にしていなかった一言と共に、このグラウンドに響き渡る声で、〝彼女〟へ告げる。


「〝グループA〟…〝最後の女王(ラスト・クイーン)〟の存在を〝認識〟…〝女王〟による〝最後の権能(ラスト・オーダー)〟…〝滅亡の皇帝ロヴィーナ・エンペラー〟の要請を確認、〝許可する〟」


そのたった一声を以て、この無惨な骸の山は一変する……。


「――君達には散々な目に合わされてきたからねぇ…まだこの実験は終わっていないとも…!」

「ッ――全員集合!」


私の言葉に、場の空気は緊張で満ち…そして蠢き雪崩れる蟲の骸を警戒する彼等は徐々に増す気配に冷や汗を流す。


「さぁ、日頃君達に絞り上げられた私の怒りを味わい給え、フフフッフハッハハハハーッ!…何、死にはせん!…代わりに死ぬ程痛い目に遭ってもらう!」


私はそう言い、蠢く蟲の死骸達を眺めてそう言う……そして、その死骸の中からは、日頃私を苛む彼等をお仕置きする者がその中から這い出すのだった…。


〜〜〜〜〜



――シーーーンッ――


そして、それから更に1時間過ぎ…凄まじい闘争の跡を刻んだ大地で、私と彼等が相対する。


「…」

『…』

「………」

『……すみませんでした』

「分かれば宜しい」


そうして、私の実験は幕を閉じ…1日は流れてゆくのだった……。

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