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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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獣の監獄

どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地でございます。


何時もいいねや感想、誠に励みになります…本当にありがとう。


そして誤字脱字を感想や報告機能で報告して頂いた読者の皆様、誤字報告、設定矛盾の報告、とても助かっております。


この通り、幾ら投稿しても一向に誤字脱字が抜けない素人どはございますが、なるべく気を配り、より良い物を投稿出来るよう頑張りますので、どうかコレからもお楽しみ頂けると幸いです…それでは、本編をお楽しみに。

――トントントントンッ――


「天鋼級兼、八葉上魔術師養成学園理事長…〝字波美幸〟殿からの〝紹介状〟…ですか」


私はそう言う、黒髪を結わえたスレンダーな彼女の瞳を見る…何重ものチェックを終えて漸く対面した…この場所の〝主〟の姿を。


「一先ず受け取って貰えて嬉しいよ…やはり何においても地位と名誉は重要だねぇ…私だけなら門前払いだって雰囲気だもの」

「〝彼女〟には〝実績〟が有りますから…ソレに、私は貴方が嫌いです」

「フフフッ手厳しいねぇ」


客室の机を、小刻みに指で叩く所作…部屋の空気の冷たさに、この室内に居る数人の警備員の視線…どうにも私は歓迎されていないらしい…その警戒心の高さは成る程、彼等の〝役割〟を熟す上では〝最適〟だと言えるだろう。


「――これ見よがしに〝防衛結界〟を素通りする様な人間を警戒せぬ人間が居るとでも?」

「いやいや、気を悪くしないで欲しい…別に君達を嘲るつもりが有った訳では無いのだよ…ただちょっぴり、君達の使う結界術の練度を知ってみたくてね…うん、かなり良い腕だった」


私はそう言い外を見る…堅牢な壁に覆われた〝監獄の様な光景〟…しかし其処は〝人の為の物〟では無い。


「〝山狗〟…〝八咫烏〟と双璧を成す国営の魔術組織…八咫烏が〝魔術師の管理、派遣〟を目的にした国家組織ならば、君達〝山狗〟は〝妖魔の排除、殲滅〟…そして殲滅不可能な妖魔の〝拘束〟がメインの組織……しかし…〝山狗〟か…〝狗〟や〝犬〟と言う呼び名は愛玩とは異なり、人に用いられる場合は〝蔑称〟や〝忌避〟を込めて使われる事が多い……名付けるにももう少しセンスが欲しいところだねぇ……大方〝送り狼〟が名の由来かな、確か山犬が元の伝承で人の帰路を守るが反面、転んでしまえばその人を喰らうと言う――」


私が場を和ませんと口を回していると、ソレを遮る様に対面の彼女が私を睥睨する…その瞳には強い〝不快感〟が籠もっていた。


――トンッ――


「――御託は結構、金級魔術師様…字波殿の紹介で貴様と面会している事を忘れないで頂きたい」


そして、そう言う…案に〝要件を話せ〟と言っているのだろう…仕方無い。


「……ふむ…それは確かに…君も私も多忙の身だ、君はコレからもハードな業務が待ち受けている、乱れた精神では能率も落ちよう……うむ、では単刀直入に言おう……〝E〜C〟級に該当する妖魔を数匹〝使いたい〟」

「〝却下〟します」


私が要件を伝えると即座にソレを却下する〝山狗の長〟殿…まぁコレは想定内だ。


「いやぁ、実は夏季中期に〝林間合宿〟が有るだろう?…知っているだろうから内容は省くとしてだ、余程の名家でも無い限り大概の生徒達は妖魔と戦う事が無い…まぁ危険だから当然だが、しかし…我々は〝魔術師の養成学園〟だ…当然この先卒業すれば一級の魔術師として広く活動することに成るし、学生の内から〝魔術師資格〟を手にする…つまりは〝国の規定した魔術師の扱い〟を受ける事もある…年齢性別の差別無く、〝妖魔〟との戦いが起きる筈だ」


私はそんな彼女を無視して話を続ける…此処ではいそうですかと引き下がっては行けない……彼等の安全を守る為にもこの〝要請〟は必要なのだ。


「――しかし、ただ訓練だけをさせていきなりはい実戦しよう…では、当然上手くいく訳が無い、訓練は飽く迄も能力を鍛える為の物であって、〝戦場の予行〟では無い…経験、判断、知識、機転…実戦や〝実際の戦闘〟でしか得られない物が有る以上、ふとした油断が命取りに成る事は自明の理ではないかね?」


私はそう言い、彼女へもう一度問う……聡明な彼女ならば私が言う〝意味〟を理解してくれるだろう。


「〝貴重な人材〟の生存、強化は国家にとっても有益と成るだろう事は想像に難くない筈だ…それでも受け入れられないならば、潔く諦めるとしよう」

「……」

「さて……〝返答〟は?…時間が惜しいだろう、是非早く決めて欲しい…が、無理強いはせんよ」


そして、私は彼女を急かす……無論結末は既に定まっている、質問の体裁を、頼み事の体裁をとっているだけで、コレは既に〝脅迫〟の様に陰湿で薄暗い…しかし抗いようの無い〝問い〟なのだから…。


「………はぁ、分かりました…低級妖魔の利用を許可します……が、くれぐれも安全性に配慮し、万に一つ逃がす事等無いようにお願いします……この〝監獄〟に収容されていると言う〝意味〟を、お忘れなき様に」

「結構――では、これ以上の言葉は不要だね…君、済まないが案内を頼めるかね?」


私はそう言い警備員の一人を拝借し、案内を頼む……あぁ、それはそれとして。


――バサッ――


「――コレはほんの〝御礼〟だよ…展開されている結界の〝調整案〟だ…既存のものより強度を上げ、魔力消費も削減出来るだろう…是非有効に使うと良い」


彼女の前に分厚い資料を投げ置き、部屋を後にする…。


「安心し給えよ諸君、警戒せずとも私は君達に危害は加えないよ…〝約束〟する」

「ッ…此方です」


おやまぁ……随分と嫌われたものだねぇ。



○●○●○●


「――ハァ…何なんですかあの〝男〟…」


執務室に肘を突き、頭を肘の間で埋める彼女はそう言い、酷く疲れたようなため息を吐く。


――コトッ――


「――クククッ、中々厄介だぞ?…あの人間は」


そんな彼女…〝日鶴江理香(ひずるえりか)〟へそう声を掛けながら、その部屋に残っていた一人の警備員はそのマスクを外し珈琲を口に含む。


「有り難う〝ジュード〟…それで、どうだったのあの男は?」

「お前が〝気に食わない〟と考えたのだろう?…それが答えだ」

「貴方の〝眼〟には何が映っていたのかって意味よ」

「……〝何も〟…ただの人間だ…何も映っていない…少なくとも〝善人〟に手を掛ける様な人間では無い…と、我の眼には映っているな…」

「……そう」

「クククッ、不服か〝主〟よ…〝正義〟の信奉者よ」


ジュードと呼ばれたその男は、その姿を人から〝黒い大鷲〟に変えながらそう問う…その返答に彼女は答えず、渡された黒墨の様な珈琲に口を着ける。


(――あの男は〝危険〟だ)


それは正義者として長く悪を見てきたが故の〝憶測〟だった…彼女の目に映っていた、彼女の認める〝存在〟を辿り現れたその男。


卓越した技術を持つ、理知的で、柔和そうな…人と打ち解ける穏やかさを持ったようなその男の内側…。


彼女の本能がソレを掠めた…あれは〝危険な存在〟だと。


確証は無い、今までに前例の無い〝気配〟…彼女を苛むのはその気配が〝邪悪〟であると同時に〝善良〟さを併せ持っているかの様な相反する気配を持っているが為だろう。


(……気味が悪い)


その言葉は本心だった……心底に彼女は彼へ強い嫌悪を抱くのだ…それも無理は無かった…あの男が…ジョークを言い、笑みを誘い、おちゃらけているかの様な動きをするあの男の目は。


一度だって〝笑み〟を浮かべてなどいなかったのだから…。

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