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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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教員達の昼下がり

――パサッ――


「――それでは続いて、〝林間合宿〟の件に付いて改めて情報の共有、修正を行っていきたいと思います」

『ッ!』


先程までは緩やかに過ぎていた其の場の空気が、その一言で一変する…教科を担当する教員、教員補助の総勢18名がその顔に真剣を滲ませ寝惚け眼をシャンと開く…何時もは人の話を聞かない連中では有るが、少なくとも生徒達に対する〝真摯さ〟は持ち合わせているらしい。


「……ふぅむ」

(しかし……コレは確かに〝死者も出る〟だろうねぇ…)


渡された資料に目を通す…林間合宿の場所はかの有名な〝大江山〟の麓……人気の無い森の世界が広がる自然と危険に満ちた場所……だが、魔術師の卵を育成するに差し当たり此処以上に適した場所も無いだろうと言える土地。


(都会に比べ妖魔の質が高く、かと言って強過ぎない塩梅……気を配れば多少の怪我は有れど死ぬ事は無い…と思うが、油断ならない)


現に死者が出ている以上警戒はすべきか。


「此処へは三日の宿泊の予定です、持ち物に関しては、次のページの――「少し良いかね?」」


進行する学生主任君にそう言い手を挙げると、視線が一斉に此方を向く…うむ、この視線は何度やっても慣れんな、特に学会での論文発表を思い出す。


「はい、どうかされましたか孝宏先生?」

「その装備一式に付いてだが、私が少し細工を施して構わないかね?…具体的に言うと〝装着者のバイタルデータ、魔力残量の可視化〟と〝緊急時の備え〟を一つ二つ仕込みたい」

『ッ!?』

「ソレは……可能なのですか?……生徒達に配備される装備の性能は〝安全面〟だけを見れば〝最高峰〟の代物です…装備に刻まれている魔術式も修復術式を始めとした無数の防護魔術が刻まれておりとても手を加えられる余地は…」

「うん、出来るよ…だがその為には一度〝支給品〟の術式を整理しなければ成らないが…総数は予備含めて約〝140〟セット…装備の種類は除外するとして、このレベルなら一ヶ月有れば調整出来る…最悪壊してしまった時は私の口座から引き出してくれれば良い」

「……了解しました…しかし作業時は記録の為に私も同行致します」

「構わないよ……〝私欲〟の為じゃ無いだろうね?」

「……では、装備に関しては不身先生が担当すると言う事で、次に〝グループ分け〟ですが…」


……話を逸らしたな……まぁ良いか。


「従来通り〝五人一組〟が対応力に優れているのでは?」

「しかし前年の事も有る…六人で組むのはどうだ?」


で、グループ分けか……ふむ、ふむ……うむ。


「え〜っと、君君、確か弥崎君だったかね、〝1−B〟の担任の」

「え?…あぁはい…どうかしましたか?」

「このグループ分け何だが、少し聞きたくてね…コレは〝クラス内〟でグループを決めていると見て良いのかね?」

「はい、そうですよ…なるべく全グループの能力差が無いように分けています」

「ふむ……そうか」


成る程成る程……グループ分けの仕組みは分かった…。


「――何度も済まないが、良いかね?」


私が再び手を挙げると、それぞれの討論が静まり、また静寂と視線が集まる。


「グループ分けだが、確かに〝全グループ均一化〟を以て組むのは良いのだが、〝一クラス〟で平均だとしても、〝一学年〟の括りで見れば随分な〝歪み〟が有るように思う……コレではグループ毎の〝バランス〟が取れていない、能力差のバラバラなグループが出来てしまうのでは無いかね?」

「――確かにその通りですね……つまり孝宏先生、〝一クラス〟では無く〝全クラス〟含めてグループ分けをする…と言う事でしょうか?」

「その通りだよ、理解が早くて助かる…どうかね?」


私の提言は彼等にスルリと聞き入れられ、グループの再編に会議の流れが変わっていくのを見て、私は再び席に着く。


それから1時間…流石は魔術師の中でも一級品の教員達、彼等はアレヤコレヤと言う内に会議を進めていきものの見事に林間合宿でのスケジュールが埋まってゆく…。


「それでは孝宏先生、お言葉に甘えてお先に失礼致します」

「うーん、私は少し仮眠を取らせてもらうよ―」


――パタンッ――


そしてその会議室に唯一残された私は、適当に会議室の清掃を終わらせ、一人適当な席に腰を落とす。


やはり、この手の会議は疲れるねぇ…昼と言う事も相まって今直ぐに寝落ちてしまいそうだ。


「――あぁ、そう言えば…」


そして私は仮眠を取ろうと言う刹那に、何かを思い出し…しかし薄れる意識に身を任せてしまうのだった……。



「『やぁ〝記憶〟…来てそうそう悪いのだが〝香君〟から届いていた調査記録の進捗を見せておくれ』」


そして、其処は殺風景な白い本棚の群れの中…私はその中で本を読み耽る女性の姿をしたソレにそう言いいつの間にやら作られた椅子に腰掛ける。


「『了解……これがそうだよ』」


私の言葉に〝記憶〟は読み耽る手を止めずに本を捲り、本を捲りながら指を鳴らし一冊の〝赤茶色の書物〟を私へ届ける。


「『どれどれ……ふむ…やはりと言うべきか何と言うべきか……〝黒縄妬蛇〟君の一件を境に緩やかだった妖魔の増加が急激に促進されている様だ』」

「『あの一件は酷く〝人間の目を引いた〟からね…恐らくその恐怖心からより妖魔が生まれやすくなっているのだろう』」


〝記憶〟の言葉に耳を傾ける…確かにソレも一因としては有るだろう…少なくともこの共通項をただの〝偶然〟と見るのは節穴が過ぎる…しかし。


「『どうにもそれだけとは言い難い様な気もするが……駄目だねぇ、今の所他に情報が無い…これ以上は陰謀論に片足を突っ込む事になる…妄想に留めておこう』」


どうも〝ソレ〟だけが原因で無い気もするが、私の知り得る内で黒縄妬蛇の大虐殺に並ぶ有力な可能性は見当たらない…だからこそ何かモヤ付く。


「『――一度情報の見直しが必要だね……〝記憶〟…悪いがまた後日、君の肉体が出来た時に〝八咫烏〟の〝資料保管庫〟に行ってくれないか?…私から話は通しておく』」

「『了解……そろそろか』」


その言葉と共に私の脚が塵に変わってゆく…どうやら覚醒の時間らしい。


「『〝全知〟、そう言えば〝狡知〟から聞いたのだけど…彼を〝クレイヴ〟と呼んでいるらしいね?』」

「『まぁね…元は〝私〟とは言え、今は〝別々の存在〟な訳だしね…新しい名前、新しい試み、自我意識の確立、社会への様々なアプローチは私が抑圧する事ではないよ』」

「『ふぅん……なら、〝私〟もソレに準じて見ようかな』」

「『構わないよ』」


私はそう言う彼女に軽くそう言い、その場から消え去る……。





――モゾッ――


「んん……ふぅ…さて、仮眠終りょ…う……?」

「……クゥッ……クゥッ……」


そして目覚めたと同時に、私の視界を〝白〟が包む……其処にはその身を大きくした〝アル〟が、穏やかな寝息を立てて眠りに耽っていた。

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