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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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魔人の休日

ギリギリの三本目、せーふ!…。

――ゼェッ…ゼェッ…――


「何だね彼等はッ、人の脳味噌から知識を搾り取って生きてるのかね!?」


アレから2時間、蒸し暑い昼陽の中で複数人からの質問攻めッ…人の休日に水を差してくるとは…。


――シャリッ――


「……忠告はしておくわ」

「頼むよ本当に……ハァ、脳が萎む…糖分、糖分を摂らねば…」


自室の適当な椅子に座り、テーブルに置かれた果実を齧りながら何故か居る字波君にそう愚痴を吐く…そして、その視線を別の方へ向け、観察する。


――パラパラパラッ――


「「「「「……」」」」」

「〝強化魔術・応用〟、〝魔術知識を深めよう・氷編〟、〝魔力の制御と増強・上級〟、〝特殊魔術への考察〟、〝猿でも分かる呪術の使い方〟……手慰みに作成した参考書だが、役立って何より……素晴らしい集中力だねぇ……私の知る学生像とは些かズレるが」


休日だよ?…偶には羽目を外しても良いと思うんだけどねぇ…ストイックな事だ。


「貴方も同じ様な物でしょ?」

「私のは〝趣味〟だよ趣味…教育は嫌いじゃないが興味の無い事柄への対処は億劫だ、面倒事は嫌いだよ?」


――チョイチョイッ――


「先生、この〝五感強化〟ってどうやるの!?」

「センセ、この術式がちと分かんねぇんだが教えてくれ」

「先生、魔力制御の鍛錬法で試したい物が有るのですが、協力して貰っても良いですか?」

「せ、先生?…この〝黒雲魔術〟とはどういった魔術何ですか?」

「先生、少し呪術を組み込んだ魔術を作ってみたいので意見が欲しい」

「――おやおやまぁまぁ……構わない、構わないとも!…丁度今糖分が染み渡り脳の活性化が済んだ所だ、教えられる範囲ならば教えて上げよう!」


私は椅子を引き、自身に投げ掛けられた生徒達の疑問に目を通し口を開き教えて考え彼等に知恵を与えてゆく…。


「……」


ソレを見る字波君の視線は、生憎と見る事が叶わなかった訳だが……。



〜〜〜〜〜〜〜


――パクッ――


「――うんうん、ファストフードの味はやはり病みつきになる旨さだねぇ…偶にはこう言うのも悪く無い」


学生たるもの不健康の一度や二度は経験すべきだろう、無論そんな彼等への細やかな〝奢り〟等拒否する私では無い。


「――ソレで?…こんな日暮れまで態々残る何て、随分とまぁ〝勿体振る〟ね?」

「あら、貴方と生徒達の交流の機会を奪わない様にと思っていたのよ?」

「ハハハッ、今更五人から六人に増えた所でちゃんと聞き分けて見せるさ、流石に二十人は〝強化魔術〟でもカバーし切れないがね」

「……強く注意しておくわ」


空の日がまだ少し浮かんでいるその頃…それぞれの帰路へ帰る生徒達を窓辺から見下ろし、私は字波君と間食とも夕食とも捉えられる食事を摂り、会話を交わす。


「それで、本題についての候補は幾つか想定しているが…何用かな?」

「…そうね……夏季中期の〝林間合宿〟についての話かしら」

「――あぁ……確かアレだね…〝一年生〟の〝魔術師資格〟を付与するか否かの〝選別場〟…そう言えば後二ヶ月後か」

「……前年の全国平均死亡生徒は〝6人〟よ…何れも〝妖魔〟に殺されたわ……我が校も一人…亡くなったわ」

「……成る程」


ソレは痛ましく、同時に野蛮だねぇ…。


「前々から気感じていた事だが……やはり、コレも〝魔術と社会の混濁〟の〝害〟かな…いや、或いは淘汰選別の〝激化〟か…日本は昔に比べ随分と〝血生臭く成ったねぇ〟」


それでも他国よりは何倍も安全なのは今も昔も変わらずだが…。


「――〝私の過ち〟だろうかねぇ…」

「ッ……それは!」

「フフフッ、分かってる…分かってるよ字波君…何れにせよ〝この時代〟は来ていたのだろう…その起点が偶然私だっただけの話だ…と言いたいのだろう?」

「……」

「――君は昔から〝善良〟で、〝可愛らしい〟ねぇ…」


そんなだから、良くセクハラ親父共に絡まれるんだよ…全く。


「……任せ給えよ…直ぐにこの〝日本〟を再び〝血の染み付いた社会〟から引き離して上げよう…かつて〝夜門の固定〟を考案した偉大なる〝日本人〟の様に」


例え一人でも、妖魔に怯えることの無い夜道を実現して上げよう…その為の〝布石〟は既に完了しつつ有る。


「――しかし、目下の目標は〝今年の林間合宿〟か…前年の〝不幸〟を再現する訳には行かん……となれば必然、全体の練度を高めなければ…フフフッ、山積みの問題は何時見ても萎える…が、一つ一つ紐解くのもまた一興さね」


困難は心が軋むが、ソレを乗り越えた先の一時の〝感傷〟は何事にも代え難い、得難い〝経験〟と成る物だ。


「……お願いね、孝宏」

「………さて、暗い話題も此処までにしよう…そら、何処かに気晴らしに行こう…〝一週間の私の使用権〟もある事だ……安心し給え、今日はサービス、明日から一週間としよう…それで?……何処に行きたい?…食事も娯楽も休息も、望む事ならば何でもしよう」


私の言葉に彼女は軽く思案する……と、何か思い至ったか、私に目を合わせ、しかし何故か目を泳がせながら後ろめたそうに顔を俯かせる…。


「何か思い付いたのかね?……構わないよ、何でも…どんな頼みでも願いでも叶えると言う言葉に二言は無い」

「………じゃ、じゃあ…」


私の言葉に、決心が付いたのか彼女は漸く口を開き…その続きを告げる。


「――私のい、〝家〟で映画でも見ましょうよ…」

「――  ……」


その言葉に、今度は私が唖然とする番だった……字波君の家…まさか〝麗しい女性の家〟に老人とは言え〝男〟を招待するとは夢にも思わなかった…しかし、そうか…。


(年は離れているとしてもかつての知己、それもそこそこ親しい友人との再開だ…再開を祝したいと言うのも理解出来る)


それに成る程、〝友人と映画〟か…中々可愛らしい頼み事じゃ無いか…フフフッ。


「全く……君は〝警戒心〟が無いと言うかなんというか……いやさ、構わんとも…では帰る前に少し寄り道しよう…何、身支度を整え、キャラメルポップコーンとコーラを用意しよう…映画には必須だよ?」

「そう…良かったわ」


そうして我々もまた休日を余すこと無く楽しむ為に学園から帰投するのだった…。

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