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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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校長の言葉には軽い睡眠作用が有ると思うんだ

――ザワザワザワッ――


「ほほぉ、この光景は中々壮観だねぇ」


今日は私が教職に就任する八葉上大学……否、今は八葉上魔術師養成学園と呼ばれる魔術師の学び舎の入学式、その教員の席で私は眼前で椅子に座る生徒達を見てそう言葉を漏らす。


その全てが魔術師、近年魔術が普及し最早珍しくも無いとは言え、この光景は中々見難い物である……まぁ、他の職員の彼等は別の事が気になる様だが。


「おぉ、やはり流石は古くから続く名家の土御門、まだ魔術師見習いと言うのにこれ程までの魔力制御を」

「巌根の三男の魔力量は素晴らしいな」

「大椿家は――」


ふむふむ、確かにこの中でも特別強い魔力反応は複数あるね……しかし。


「……良いねぇ♪」


私にとっては、名家だ何だと言う肩書よりも、私の眼に映る複数の生徒の方がとても気になる。


「…ッ…」


一人は少し前に私と出会ったあの少女、アレからかなり特訓した様で、ほんの2週間と言うのに随分と魔力の制御が上手くなっている…あ、今乱れたね。


「……」


一人は椅子に腰掛け、魔術書を熟読する青年……魔力は並、出力はそこそこ、しかしその制御は他の生徒よりも数段上、加えて軽く隠蔽して居る……。


「……」


そしてもう一人、真面目そうな青年だ……魔力は平均より少し上、制御も魔術書の彼よりも劣るがそれでも中々やる…それにはかなりの努力の跡が見受けられる。


「是非欲しい」


何とも磨き甲斐の有る宝石達だろうか?


「さて、今回この八葉上魔術師学園に入学した魔術師見習いの者達へ、入学おめでとう」


そうこう考えている内に字波君が言葉を紡ぎ始める……前々から思っては居たが、この校長の言葉には軽い睡眠作用が有ると思うんだ、だって十秒聞いただけで眠くなるんだもの。


「キュイッ」


――ガプッ――


「痛いね、そう怒らなくとも聞いているよ……ただ微睡みに委ねて声が耳を通り抜けるだけでね」


睡魔との激戦の末、私は数時間後に勝利を収めた……カフェインを貫通して睡魔を差し向けるとは下に恐るべきは校長の言葉なのではないかな?



取敢えず、入学式のアレコレが終わり、とうとう私が教壇に立つ時が来た。


――シ〜ンッ――


「ンンッ、今日から君達1年の特待生を担当する事になった、不身孝宏と言う、よろしく頼むよ諸君」


さて、教壇から私の受け持つ生徒を確認しよう。


「あの人が担任?」


先ずは一人目を惹くのはその美しい海色の髪をした少女……おや、確か彼女は土御門家の令嬢、“土御門九音“では無かったかな?。


「フンッ、魔力量も大した事無いが、本当に俺達の教員が務まるのか?」


次に…おや?…彼は巌根家の所の三男坊と噂の“巌根氷太郎“君?。


「……」


それに彼は私が気になっていた目ぼしい生徒一号、“菅野月人“君。


「……」


おやおや、彼女は私の秘密を知る唯一の生徒“黒乃由美“君か。



……ふむ。


(間違いなく新任教師に任せるクラスでは無いねぇ!?)


いやいやいや、こちらとしては好都合だけれどね、でもねもう少し順序が有ると思うんだ!……あ、字波君、そんな別棟から見てないでフォローをだねッ――無視!?


「………ハァ、まぁ良い、後でトイレとお友達になる呪いを掛けてやろう(ボソッ)」


(((何かとんでもない事を言ってる……)))


「え〜っと、取敢えず君達、一人ずつ自己紹介でもしようか、私は全員の名前を知っているが君達全員が面識あるとも思えん、何人か有名人は居るが君達も自己紹介したまえ――」

「話の途中、宜しいでしょうか?」


私が取敢えず自己紹介で軽い人物把握を促している最中、一人の少女……土御門九音が挙手して立ち上がる。


「何かね、土御門九音君?」

「何故字波学園長が担任ではないのでしょうか?」


その言葉に皆が黙し、しかし確かにと言った風に私を見る。


「学園長は仕事で忙しいからねぇ、それに彼女で有っても私で有っても教える内容にそうそう差異は無いので安心したまえ」

「ハッ、魔力量が平凡な奴に此処の担任が務まるのか?」


私の言葉に噛み付くように、今度は巌根家の三男君が立ち上がる…。


「質問が有る時は挙手し全員が耳を傾けてからにしたまえ、そして質問の答えだが、務まるとも、そもそも魔力量云々は魔術を行使するのに重要では無い、重要なのは魔力制御と魔術の精度だよ」


おや?私の言葉に未だ納得が行かないかな?


「ふむ……どうやらあまり納得が言っていない様だ、それにこのままこの疑問を解消しないままだとまともに講義も出来やしないね…うん、そうだ、ではこうしよう…土御門久遠君、巌根氷太郎君……“私へ魔術を撃ってみたまえ“…勿論、全力で構わないよ」

「ッ!?…それは危険では?」

「オイオイ、そりゃ舐め過ぎだろ?…一応俺達のデータは見てんだよな?センセ?」


私の言葉に久遠君と氷太郎君のみならず、多くの生徒が呆れた様な声を上げる。


「無論君達の試験記録には全て目を通しているよ……その上で問題無いと判断しているんだ…正直な話、私は君達にあまり好奇心が刺激されない」


魔力量は並を逸脱した無類の一品、だがその魔術の制御が甘い…ある程度魔術を納めた者達と何ら変わらない。


「私としては、菅野月人君に興味が尽きないよ」

「?……僕ですか?」

「うん、君だよ…君の魔力制御はこのクラストップと言って良い、極めて効率的に洗練された魔力回路だ、その歳で此処までの域に到達するのは並大抵の意思じゃ不可能だろう、恐らくは…いや、魔術に対する異様なまでの探究心故かな?…それは、事魔術を扱うと言う観点で非常に大事な要因だよ」


或いは狂気とも言い換えられる程だよ…其処が面白いんだがね……ん?


「どうしたんだい二人共、早く来たまえ」

「…私の魔力制御が未熟だと?」

「そうだね、菅野君よりも数段劣るよ」

「俺達名家の生まれだぞ?そんじょそこらの魔術師達よりも遥かに最先端な修行を積んでるんだぞ?目ぇついてんのか?」

「……?…だから?」


全く御託は良いから早くしてくれないかなぁ…講義が進まないよ。


「良いから早くしてくれないかね…それとも、そうせざるを得ない程、“追い詰めて上げた方が良いかな?“」


――ッ!?――


「“豪炎ノ狐火“!」

「“白凍ての氷槍“!」


私のちょっとした催促に漸く二人が術を行使する……おっと、その前に結界を、コレで良し。


「うんうん、成る程……随分と古い形式の術を使うんだね、名家秘伝の術か何かかな?…成る程、魔力消費を底上げし、全ての術式が火力に特化させた代物か……うん、“大体分かったかな“」


――パチンッ――

――フッ――


「「ッ!?」」


私が指を鳴らすと同時に、久遠君の身体を迸る炎と巌根君の眼前に作られた氷の槍が霧散する。


「いま、何を……」

「術へ干渉して強制的に破壊した……その術式は駄目だね、低級、中級の魔物程度なら倒せるだろうけど、上級の魔物じゃ手も足も出ないよ、術式の防御が脆すぎる」

「はぁ!?お前ッ、巌根家の秘術の一つだぞ!?」

「あぁ、“氷の武装“の術式ね…うん、術の発想は悪くないんだけど、やっぱりこっちも大分脆いよ古い仕来りを遵守するのは悪い事では無いが、少しは現代に合わせたほうが良い、昔と今じゃ術に対する理解度が大分違うよ?」


……って、何だい君達、そんな信じられない物を見るような目をして、失礼な!?


「オホン!それじゃあ、私が君達に教鞭を執る資格者で有ると理解してくれた所で、早速講義を始めようか」


何はともあれ、私の就任1日目は幕を開けた。

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