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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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悪意を以て悪意は死する

――ズル…ズル…――


血濡れた身体を用いて這い寄る…こんな時に人の肉体が煩わしい。


「ハァッ…ハァッ…!」


朽ち掛けの己が無様だ…こんな有り様は屈辱の極みだ…だが、そんな事などどうでも良い。


――ズル…ズル…――


後一歩、後一歩…痛む体が痛むまま、苦しむ声の苦しむままに、己の眼前に転がる…〝五体満足〟の肉体に這い寄る。


「ハァッ……ハァッ!――ククッ、クキッ、クキッヒヒヒヒッ…妾は、妾はァッ!」


深手を負った、死に体と成った…それでも生き残った、幸運?…だからどうした、生きたのは確かだ…そして、まだ勝負は終わっちゃ居ない。


「妾の勝ちだ!!!」


漸く手の届く範囲に来た…この肉体は最早駄目だ、捨て去ろう、そして新たな肉体を己の物とし、再起を測ろう…所詮人は蛆の様に湧いているのだ…一年と掛かるまい……。



そう考えながら、眼の前の人間の身体へ手を伸ばす…コレで私は〝生き残る――。


――バチィィンッ――


「ギギャアァァァァ!?」


……筈だった。


――ドサッ――


ソレへ手を伸ばしたその刹那、己の身体に雷撃の如き痺れが奔り、妾は壁際まで吹き飛ばされる…痛い、苦しい…それ以上に理由が分からなかった…。


「な、何故ェ――」


何故…己が〝拒まれた〟のか……その答えは直ぐ側に〝居た〟…。


「――ふむ、ふむ…OK、ちゃあんと生きてるね…少し魔力消費が大きいがそれ以外は概ね問題無い…多少の〝汚染〟は覚悟していたがこう綺麗だとは予想外だ♪」

「ッ!?…〝貴様〟は…!?」

「良し、〝アル〟…三人を学園に送ってくれ、序でに道で一般人に巻き込まれてる二人も、字波君はもう帰ってきてるだろうし、一般人の洗脳は軽い一時的な物だ、放っておいても治る筈だ」

「『…うむ』」

「宜しく……さて」


ソレは白い獣へ三人を乗せると、何処かへ走らせる…静寂の戻ったこの廃墟の中で、二人切りとなった妾と〝ソレ〟は互いに目を合わせて口を開く。


「――何故貴様が此処に!?…さっきのさっきまで気配など欠片もしていなかっただろう!?」

「そりゃあそうだとも…私はさっきまで〝君の腹の中〟に居たんだから……そうで無くとも君に私を見つける事は不可能だよ、その手の技術については、私は恐らく世界一だ」


そうクツクツと笑いながら、その男は一人…独白する様に妾へ言葉を続ける。


「正直な話…〝君〟を殺す、処理する、無力化するだけならば〝簡単〟だったんだ…〝位置〟を割り出し、〝追跡可能〟な時点で〝天鋼級〟を三人派遣すれば勝てたし、〝金剛級〟を20人集めてしまえばそれでも良かったんだよ…態々私の生徒を危険に晒さずともね?」


その言葉には一切嘘偽り無く、その男は淡々と語る…では何故――。


「〝何故そうしなかった〟のか?……理由は二つ、〝天鋼級〟を当てるに差し当たり、君に彼等の膨大な魔力を勘付かせない必要が有った…ソレには時間が掛かり、その間にも被害が増えていた事だろう、二つ目は〝金剛級〟では天鋼級の比にならない被害が出るからだ…単純に君と実力が拮抗している集団だからこそ長期化し、副次被害も増えてしまう…ソレは避けたかった、ソレもコレも積み上げられた〝条件〟の所為でね」


その背にはまるで苦労したと言う風な身振りが加えられ、その男は…人の皮を被った〝ソレ〟は軽く頭を振る。


「――〝短絡的〟で、〝激情的〟、〝他責的〟で〝執着的〟…君の行動性格から、君の行動の予測は可能だった…可笑しいと思わなかったかい?…あの手紙……〝何故〟…私が君の行動を一言一句言葉通り文字通りに言い当てられたと思う?…君をリアル中継で観測していないにも関わらずだ……簡単だ、〝私がそう誘導した〟からさ…さて、コレで〝種明かし〟は終わりだ」


彼はそう言うと、地面に転がっていたその〝剣〟を手に取り…鞘から抜く。


――ドロッ――


「二人に渡した…その中でも〝コレ〟は取り分け〝特殊〟でね…コレは持ち主によってその〝姿〟を変えるんだ」


シンプルな剣が〝黒〟に染まる…そのドス黒い瘴気はまるで、この世の全てを斬り殺さんとする様に刺々しく周囲に広がってゆく。


「〝バルムンク〟……かつて北欧神話の〝英雄ジークフリート〟が愛剣とした剣、コレにより様々な軍功を上げたと言う…ソレが〝結美〟君が持つ〝場合〟の姿…いや、違うな…多くの場合は〝此方〟にしか成らない」


白い剣身が黒に染まり、黄金の柄は紅黒く変色する…その剣に埋め込まれた蒼の宝石は、その変容により、まるで血走った目の様に赤く変わり…剣そのものが〝変質〟する。


「――この剣は〝人を見る〟…内在する〝善悪〟を〝剣〟自身が裁量し、〝白く〟、〝黒く〟成る……言うなれば天秤だよ、だから基本的に、彼女達は〝善の剣〟しか扱えない……私が創り出した〝実在した魔剣のレプリカ〟…私の〝自信作〟だとも…」


その気配が収縮する…濃縮し、唸りを上げる大剣と成る…覚えている、覚えが有る…かつてあの〝時〟…己を掠めた〝一撃〟だ…。


「ま、待て…!」

「待たないよ」


――カッ――


「嫌だッ、死にたくない…!」

「〝彼等〟もそうだったろうね?」


――カッ――


「もう、お前達の邪魔はしない!…だから――」

「〝見逃さない〟よ、君は生かしておかない、復讐でも無ければ今まで君に殺された者の恨みを果たす為でもない…君の〝魂〟が〝必要〟だから殺す…私の〝私利私欲〟の為に〝殺す〟…命乞いも、交渉も持ち掛けられた所で君を殺す手を止めるつもりはない」


近付いてくる…〝死〟が…足音を鳴らし、ゆっくりと…その冷たい目を己へ向けながら。


「ひ…ィッ…」

(嫌だ…)


また一歩、また一歩…近付いてくる…心臓が震える、恐怖で身体から力が抜けてゆく。


「助けて…」

(助けて)

「死にたくない」

(死にたくない)


――カッ――


「――〝御免なさい〟…!」

「〝悪たる破滅者の魔剣バルムンク・クリームヒルト〟」


そして、〝誇大化〟したソレが…少女の姿をした〝ソレ〟に…振り下ろされたのだった…。








「――〝御免なさい〟」

「――今更謝罪は無価値だよ、〝鞍山奈弓〟君…君が謝罪した所で君の両親や、君自身、〝アレ〟に喰われた彼等が元に戻る訳じゃない」


私はそう言い、私の眼の前に居る〝少女の霊〟にそう告げる…分かっているのだろう、少女は私の言葉にただ小さく頷く。


「純粋で在る事は否定しない、善良で在る事は良い事だ…だが、君達は〝間違えていた〟…間違えた〝善意〟を持ってしまった、だからこうなった…〝疑わない〟事は〝思考放棄〟と同然だ、〝疑う事〟は〝悪では無い〟…必要な防衛手段だ…君達の犯した過ちは決して消えない…しっかりと記憶しておき給え」

「……はい…御免なさい……〝有り難う〟…」



そうして少女は其の場から消え去る…こうして、たった一人の少女の過ちから始まった3日間の〝大事件〟は幕を閉じるのだった…。


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