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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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真の祈りは仏に届かず

――ザワザワッ――


「何あの子…?」

「酷い火傷」

「救急車でも呼ぶか?」


人混みが逸れてゆく、たった一人身体中に酷い火傷を負った少女の猛進が為に。


その姿に人の烏合は一様に憐憫を浮かべ哀れみを向ける。


「ハァッ……ハァッ……」


焼け爛れた〝少女〟、それがその身で苦痛の音を鳴らしながら一目散に駆けているのだから。


事実を知らぬ者共には、その少女が〝何かの悪意に晒されたのだ〟と…そう考えるのだろう。


「待て!」


そして、そんな少女を追う〝数人の男女〟を見れば尚の事…。


〝多対一〟、〝ひ弱な少女の姿〟、〝酷い火傷〟…そんな単純な情報に、大衆は踊らされ、主観を促されてしまう…そして、そんな〝思い込み〟が、〝付け入る隙〟と成ってしまうのだ。


「〝助けて〟…!」


その一声は驚く程か細く、驚く程に広がり、耳から脳へと染み込み、昏い〝執着〟を人の内に縫い付けた…そして、その声を聞き、〝効いた〟者共は取り憑かれた様に、暴徒の如くに寄り集まり少女の壁として少女を追う〝男女〟へと迫る。



●○●○●○


「――何だコイツら!?」

「『軽度の〝洗脳〟だ、これだから呪い使いは面倒だ…どうする〝主〟よ、此奴等を殺すか?』」

「馬鹿かッ、避けれるか!?」

「『フッ、聞いただけだ……だが無理だ、奴め、逃げる先から人間共を差し向けてきよる…このままでは振り切られるぞ?』」

「チッ――〝お前等〟、来い!」


迫る人群に氷太郎は顔を渋くさせ、使い魔の言葉に即座に背後の四人に声を掛ける。


「――〝蒼狗〟!」

「『何だ主よ』」

「〝足場に成れ〟!」

「『ッ…心得たッ』」


――ピキピキピキッ――


「今だお前等、飛び越えろ!」

「「「「了解!」」」」


その直後に、白狼はその姿を巨大な狼へと変貌させ、周囲を冷気で覆う…。


「な、何だコイツ!?」

「構うなッ、取り囲め!」

「抑え込め!」


その冷気に一瞬怯み、その威圧感に一瞬竦ませる…しかし、〝少女の助け(悪意の甘言)〟に未だ縛られた人間の群はそんな恐ろしい獣であろうとその身を省みずに妨害せんと群がりゆく…。


――タッ――


「――チッ…小賢しい真似を…!」

「『空から追跡するわ、貴女達は――』」

「『待て不死鳥の、前を見ろ!』」

「『ッ―ハッ!?』」


空の上から少女を追っていた不死鳥と九音が続く三人へそう告げたその瞬間、前方から大量の鳥の群れが少女と不死鳥にぶつかる。


「ッ――チッ!……〝結美〟さんコレを!」

「ッ――!?」


そうして行く手を阻まれた九音は、罠に嵌った事への舌打ちと同時に先を走る黒猫と少女達へその手から〝何か〟を投げる。


「〝伝言〟を!」

「――有り難う九音ちゃん!」


数はへって三人と二匹は先へと駆けながら少女を追う…次第に人気は減って行き、ドンドンと不穏な空気で満ちて行く中…等々その〝少女〟を追い詰めるのだった…。



「――チェリャァ!」


――ザシュッ――


「ッ――クゥッ!?」


結美の剣が少女を狙う、その速さに対応し切れず少女は切り裂かれ、血を吹き出させる。


「――〝穿て〟――〝風槍〟」

「ガッ!?――ゲホッゲホッ!?」


月人の魔術が少女の手足を穿ち貫く、その量に耐え切れず少女の身体には穴が空く。


「〝奇丈蔓(きじょうかずら)〟――〝抑えて〟!」

「〝―――〟!!!」


そして、そんな少女を地面から伸びた無数の蔓草が縛り上げ、締め付ける…。


三様に繰り出される〝一撃〟は確かに少女の身体を傷付け、その身を更に弱々しく変えてゆく…少女も消耗故か、動きが緩慢になり、一撃一撃に対応するのもままならないのかその顔を苦悶に歪めるばかりで抵抗しない。


「カハッ…!?」

「ッ――……〝結美〟さん!」


解体現場の地下駐車場の奥から、椿の声が響き…縛り上げた少女の形をしたソレに、黒乃結美がその剣を突き立て――。


――ザシュッ――


その少女の胸を…確かに貫いた……。



――ゴプッ――


「……〝肉捨(にくすて)〟」

「ッ――!?」


確かに……〝貫いていた〟のだ…。


――ブワァァァッ――


少女の胸元から、ドス黒い〝瘴気の泥〟が溢れ、染み込み、染め上げてゆく…大地を、大地から壁を、壁から天井をと…。


「〝皮破(かわやぶり)〟……〝骨溶(ほねとけ)〟」

「『ッ――ソレから離れろ!…〝小娘〟!』」

「『〝腸腐(くさりのはらわた)〟…〝魂晒(さらしのみたま)〟』」


その膨大な呪詛に一番近いその少女へ、黒猫は焦った様にそう叫ぶ…。


「『――〝呪界瘴土穢喰地獄〟』」


そして、その声に少女が飛び退こうとしたその瞬間……。


――ガシッ――


「ッ!?…ヒッ……!?」


少女が〝何者か〟に脚を捕まれ、その場に拘束される……。


ソレは〝人間〟だった……いや、〝人間の成れの果て〟の姿だったろうか。


「結美ちゃ――……!?」

「「「「「「ァァァァ…!」」」」」」


ソレは苦痛に叫ぶ人の形をした〝ナニカ〟だった……ただ、苦痛に悶え、叫びその手を生きとし生ける者、全てに伸ばして何かを乞う様に引っ張る〝魂達〟…。


「タスケテ、タスケテ…」

「イヤダ、シニタクナイ…!」

「ナンデ?…ドウシテ…」

「クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ、クルシイ…」


ソレを見た少女も、少女を助けに向かわんとした者達も、皆…一様にその悍ましい〝魂の大地〟を見て、動きを止める、止められる…。


「『主よ……此奴等全員、まだ〝生きている〟ぞ…!』」

「『〝生きた死んだ〟等では無いッ……コレは此奴等の〝魂〟じゃ…えげつない…生きた人間を利用した実験は見たことが有るが、コレはその類いじゃ…〝此奴等の苦痛〟を〝呪詛〟にして呪術を使っておった訳か…!』」


「クククッ、クハッハハハッ……〝アッハッハッハッハ〟!!!」


狂った様に、悪意を孕んだ嘲笑が悍ましい空に響き渡る…この地獄の〝主〟は、その顔を酷く醜く歪めながら、地面の〝亡者〟に拘束された三人と二匹を見詰め、近付いて行く…。


「――まんまと我が〝術中〟に嵌ったのう…小童共め」


そう……自らの力に驕ってしまった〝愚者〟を見下ろす様に…。

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