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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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日陰者は日を妬む

――チュンッチュンチュンッ――


「――昨日の夜はそれはもう…〝忙しさ〟を極めた様で」


燦々煌めく陽の光、夏への移ろいにより一層強い陽射しが窓辺を照らす…心地良く、暖かい…燕達も一眠りしたくなるだろうさ。


「えぇ、今も八咫烏の職員達は大忙しよ…総死者は三千人を越え、今もその数は増えてる…おまけにその死体は呪術の所為でグチャグチャ、混じり合って判別作業も難航しているわ……遺族の下に届けられるのは一体何時になるのか…」


そう痛ましげに…ともすれば疎ましそうに言の葉を綴る彼女はそう一息付くとまた、紅茶に口を運び…そしてまた溜息を吐くと今度は異なる話題、厄介事について言及する。


「オマケに今回の騒動で〝正体不明〟の存在が確認されたらしいわ…聞いたわよね?」

「ああ、勿論…確か老人の姿をした者と一匹の鴉…老人は〝クレイヴ〟を名乗って居たとか?」

「えぇそうよ…厄介な事に彼等に関する事は彼等の主張と複数人居ると言う事だけ…姿形の特徴も〝老人〟とは言っているものの、その姿を明確に記憶している者は居ないし、映像媒体では何も映らなかった…〝証拠隠滅能力〟の高さは、確かに〝正体不明〟と一致するわ」

「まぁ、その程度なら少なくない数当て嵌まるだろうけどねぇ」


そうして、私と彼女が雑談混じりに別棟の講義風景に目を踊らせていた……その直後。


――ピクッ――


「ン……コレは」

「どうかした…の…!?」


私が〝ソレ〟を察知したその少し後に字波君も察知したのだろう…その気配に思わずと言った様子で立ち上がる。


「真っ昼間から〝活動〟とは…夜更かしならぬ〝朝更かし〟な妖魔だねぇ……って事で字波君、少し対処してこよう――」

「いえ、孝宏…私が行くわ…この魔力反応なら私で対処できる」

「――いや、駄目だろう字波君…君はこの学園の理事長だろう?」

「日中は私よりも貴方の方が強いでしょう?…だから貴方は此処に残しておきたいのよ」

「………むぅ…仕方無い、請け負ったよ〝字波君〟」


私の言葉に字波君は食い下がる…一歩も引かないその強情さと時間の浪費に私は観念し、字波君の案を採用すると字波君は直ぐに其の場から姿を消し、屋根屋根を飛んで反応へと向かう。


「……〝アル〟」

「『何だ?』」

「〝手筈通り〟にやってくれ」

「『……大丈夫なのか?』」

「あぁ…〝問題無い〟」


いや、寧ろ…〝こうでなければならない〟のだよ…。


「『……良いだろう』」

「頼んだよ」


そして私はまた一人……静かに静かに〝紅茶〟を啜る。


――トポン、トポン、トポン、トポン――


カップ底にザラつき積もる砂糖の山の、不快な甘さに口を緩めながら。



○●○●○●


「〜〜〜♪」

「あ、結美ちゃん!」


私は鼻歌を歌いながら校門を通り通路の真ん中で私を歓迎する噴水に近付く…其処には色んなクラスメイトや上級生のグループが屯し、思い思いに朝の友人との邂逅に花を咲かせていた……勿論、私もその一人だ。


「おっはよ〜椿ちゃん!」

「おはよう結美ちゃん!…夜更かしでもしたの?」

「え!?何で分かるの!?」


噴水前で私は友人で有り、妹弟子の椿ちゃんと挨拶を交わす、そして開口一番に確信を以て問い掛けられたその質問に、私は思わず目を見開く、それは私が隠していた小さな〝秘密〟であったから…すると、そんな私の反応が面白かったのか、椿ちゃんはクスクスと笑いながら自分の目下を指差して言う。


「フフフッ…だって結美ちゃん、何時もはお化粧しないのに、今日はお化粧してるでしょ?…それも目の下に結構厚く…だから、もしかしたら夜更かしの隈をお化粧で隠してるのかな〜って…当たってる?」


その言葉に私は驚く…確かに私がお化粧をする事は滅多にない…何か特別な日で有ったり今日みたいな何かを隠す時意外は使わない…でも、そういう時はだからこそ、上手く隠せる様にして来たし、事実今まで身内にも誰にもバレたことは無かった。


「うん、当たってるよ椿ちゃん…今まで誰にもバレたこと無かったんだけどな〜…」


私達はそう言いながら、何時もの様にじゃれ合って居た……その時だった。


「――〝春野椿〟」

「――〝黒乃結美〟さん」


ふと、私達を2つの声が呼び止めた……その声に振り向くと、其処には私のクラスメイトで有る〝巌根氷太郎〟君と、〝土御門九音〟さんが居た。


「あれ!?…どうしたの二人とも?」

「な、何か御用でしょうか!?」


私と椿ちゃんはそう言い、近付いてくる二人に軽く問う、すると…。


「――悪い、遅くなった」


そう言いながら私達の下に〝菅野月人〟君が現れ、肩で息をしながら私達の前に立つ。


「あん?…何だ月人、コイツらと何か予定でも有ったのか?」

「ハァ…ハァッ――はぁ?…い、いや…お前達が僕を呼んだんだろう?…先生から聞いたぞ?」

「はい?…いや、私達は先生から二人へ伝言を預かっただけなのですが…?」

「「……」」

『……どういう事?』


私達はそう首を傾げながら、食い違う意見に眉を寄せる…聞けば、氷太郎君と九音さんは孝宏先生から私達宛の手紙を渡されて、送り届ける様に頼まれたとか。


聞けば、月人君は孝宏先生から皆が月人君を呼んでいると言われて此処に来たのだとか…。


「私達は何も聞かされてないよ?」

「はい……どういう事なのでしょうか…」


二人はそう言い思案に顔を俯かせ、二人は顔を顰めて彼方の学舎へ目を向ける。


そんな微妙な空気が満ちていた、丁度その時だった……。


「………?…アレは…」


菅野月人が、その瞳にとある人の像を捉えたのは…。



●○●○●○


(明らかに孝宏先生の差し金だ)


そう思案する月人は、しかし…この状況を構成した人物の、その意図について〝謎〟と言う暗闇にその手を伸ばす。


暗闇に浮かぶのは、その人物の薄い笑み…姿形はまだ20を越えぬ様な青年の見た目をしながら、その知識と魔術の技術には膨大な年月の含蓄を見せる…我々の学びの師で有り、謎多き人物。


(僕達を集めた意図は何だ?)


伸ばせども伸ばせども、その意図が分からない…共通点は少なからず先生と接点が有ると言う事だけ、術も性格も統一性は無く、敢えて同じタイプを集めたと言う雰囲気でも無い。


(だが……何か〝僕達に求めている〟…?)


ならば何を?……そう思案し、状況を確かめる為に視線を彷徨わせる。


人、植物、空、雀、噴水、水の音、命の声…ただの平穏そのものな空気だった……たった一つの〝違和感〟を除いて。


「……?…アレは…」


僕はその時、偶然にも〝見つけた〟……この学園では無い違和感を、平穏の内に居て不思議では無い、しかしその姿は平穏を陰らせる様な小さな〝違和感〟を内包した一人の少女の姿を…。


「皆、アレを見てくれ――」


僕はそう言い他の四人にそう言った……その直後…。


「『――〝危ない!〟』」

「ッ――〝不死鳥〟!?」


そんな声と同時に、突如九音君の側から一人の少女が飛び出し、その焔が学園入口の境に居た少女を焼き焦がす。


「『――主よ、今直ぐ退避せよ!…奴は〝魔物〟だ!』」


その言葉に、僕達は驚愕に目を剥き…逃げてゆく他の学生達に取り残される…その瞬間。


「『――もう、〝逃さん〟』」


僕達の居た大地が一瞬で黒く染まり…その空間は見る間に異常性を帯びた世界に変わり果てる…。


「〝結界〟!?……皆逃げ――ッ!?」


その瞬間、僕は閉じ行く結界の壁から…ソレを見た。


「………〝―――〟」

「ッ…せん―」


僕達の事を学び舎の奥からジッと見つめ、薄く笑い何かを〝呟く〟…その教師の姿を。



――ズォォッ――


「『クククッ、最初の獲物にしては数が少ないが……まぁ良いじゃろう、蹂躙の馳走を前に軽く遊ぶ事としよう♪』」


そして、結界は〝閉鎖〟され……僕達は眼前の少女…の様な〝ナニカ〟と対峙する事を余儀なくされたのだった。

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