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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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記憶を弄るなら任せ給えよ!


「ニュフフ〜♪今日は楽しいお買い物〜♪」


私黒乃結美は上機嫌に空を駆ける…何故ならば今日は待ちに待ったお買い物の日!…今まで働いて来て貯めたお金を使って魔術師に相応しい装備を揃える日!


「よっ、ほっ、とうっ!」


魔術師のお祖父ちゃん直伝の空中走行を使い最短距離でモールに向かう。


こういう時に信号を無視できるから便利だよね〜。



「お、大きい…」


私は眼の前に広がる広々としたロビーで一人立ち尽くす……前々から気になっていた魔術師御用達の専門店の、その大きさに。


「と、取敢えず何処か入ろ―」


――ドンッ――


うとしたその時、私は誰かとぶつかった。


「んぉ?」

「キャッ!?」

(あぁぁ!ごめんなさい〜!?)


心の中でぶつかった人に謝罪をしながら私は受け身を取ろうとした…その時だった。


(あ、あれ?)

「痛――くは無い?」


恐る恐る目を開くと、私の身体は空へ浮いていた……え?何!?ドユコト!?


「大丈夫かねお嬢さん?」


その声に私は目を向ける……其処には黒い髪の、何処か大人びた風貌のお兄さんが居た。


「あ、はい…コチラこそすいません」


カッコイイ人だな〜何て思っていると、そのお兄さんが私を見て真顔で言葉を紡ぐ。


「まぁ良い…それよりも取敢えず立ち給え、衆人環視の中その格好は中々不味いと思うが?」

「へ?……」


その言葉とお兄さんの視線に思わず後を追う。


「ッ〜!?……見ました?」


ソレに気付いた私は直ぐに立ち上がり、お兄さんを見るとお兄さんは鼻で笑い。


「不可抗力だ、それに私は君を見て欲情する程若くない」


そう言った……失礼なッ、コレでも毎日自分磨きは怠って無いしそれなりに可愛いと自負しているのに……っていや、そうじゃない!


「え、失礼ですが年齢は?」

「38だ」


その言葉に私は驚く、だって38だよ38!…家のお父さんの2つ下だよ!。


話を聞けばそう言う体質だとか……何て羨まし―じゃなくて困った体質か!


「それじゃあ、私はコレで」

「あ、ありがとうございます!」


少ししてお兄さんにお礼を言い、私とお兄さんは別々の方向へ……では無く同じ店に入る。


「「………」」

(き、気不味い!)


お兄さんも少し目を逸らした……い、いやいやそれよりも!


「早速触媒を選ぼうかな!」


そして私は店の商品を見て回る……。


「樫の木、白樺、桜、ヒイラギ……木製の触媒は魔力回路は良いけど耐久性が……」


長く使う物だし余り脆いのは……でも……。


「銀の触媒は……ウググ…高い……」


何十万もするなんて……私のお金が全部吹っ飛んじゃう!…でも…。


「ふむ……銀の触媒指輪か…お嬢さん、それは止めておきなさい」


私が悩んでいると後ろからさっきのお兄さんがそう言うので、思わず問い返してしまう。


「え、何でですか?」

「この店の魔導具では君の実力を発揮出来ないからだ」


お兄さんのその言葉に店内の人の視線が鋭く突き刺さる……なんて事を言うのよこの人!?


いやそれよりも。


「ど、どういう事ですか!?」


私の実力を発揮しきれないなんて何故そう思ったのかを聞き返すとお兄さんは呆れたような顔を浮かべて声を上げる。


「落ち着きたまえよ、そして、私は此処の店の品が悪いと言っているわけではない、触媒にするに足る十分な性能だと理解しているよ」


そう言うと周りの気配が少し穏やかになる……よ、良かった。


「先ずお嬢さん、君は射出タイプの魔術は苦手だろう?」


しかし私はお兄さんの言葉に言葉を詰まらせる。


「うぇっ!?、そ、そうですけど…」


た、確かにお祖父ちゃんからも私は射出系は向いてないって言われたけど、けど!


「そう気落ちする事も無い、見た所君の魔力量は十分高いし癖がない、私が思うに……」


私の心の叫びを無視してお兄さんが店の中を進む……そして、皆が見てる中でお兄さんは叩き売りされている触媒コーナーから一本の剣を取り出した。


「な、それは剣じゃ無いですか!」


私は魔術師見習いで触媒を買いに来たのに剣何て買ったら丸っ切り戦士じゃない!


私の言葉に淡々と返すお兄さんに負けじと言い返していたその時、お兄さんは溜息を吐きながら店員さんに何かを話していた……。


そして……その次の瞬間、お兄さんは私の“背後“に立っていた。


「……へ?」


何が起きたのか…お兄さんの口から語られた、“身体強化“の術を使っただけだと……。


信じられない、だって身体強化はあんな劇的な変化を起こすものじゃない、精々が己の身体能力を少しだけ底上げする物…あのレベルまで身体能力を上げるならその魔力消費量は大規模魔術にも引けを取らない程に必要な筈……なのに。


悠然と立ち上がるお兄さんはまるで堪えた様子が無い……魔力も全然減っている様に見えないのだ。


その姿に、私は思わず見惚れてしまった。



そしてお兄さんの言葉通り、私はその触媒を買う事に決めた……あれ程の術を見せられて、あれだけの知識を聞かされたなら、信じてみようと思ったから。


そして、私は去ろうとするお兄さんに声を掛けた……お兄さんに私の買い物に付き合って欲しいと。


このままこの人を逃がせば二度と会えなくなるかもしれないから。


結果、お兄さんは快く引き受けてくれ、私は色々と良い買い物をする事が出来た。




だが……その後、絶望が私の前に現われることとなった。



夕べをお兄さんと歩いていた、その時だった。


「人の匂いだァ」


お兄さんの言葉を遮る様に、黒い魔力が私を襲った……そして何かが打つかる様な音と共にお兄さんの前に黒いナイフが留まっていた。


ソレの正体を見た時、私は心臓を締め上げられたような恐怖に襲われてしまった…何故ならその先に居たのは…。


――悪魔――


黒い肌の、獣と人を足して割った様な姿の涎を垂らした恐ろしい化物。


私が生まれる遥か以前、秘匿された魔術が今一度世に知らしめられた原因が、其処に居た。


「え?……アレ…悪魔……?」


思わずこう呟いた私の言葉に、お兄さんは何でも無い様に淡々と返す。


「だね、それも君より数段上だ」


その言葉を聞いた途端、私はお兄さんを連れて外へ出ようと反対方向へ足を踏み出したその瞬間。


――ゾォッ――


夕暮れが見るも恐ろしい地獄の世界に変わった。


「ふむ、結界術の様だね…中々練度の高い」


私はその言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった……結界術に閉じ込められた……それはつまり私達は悪魔が術を解くか死ぬまで、この結界から抜け出せないと言う事なのだから。


そんな時だった。



「ンン?……貴様同族か?」


悪魔がそう言った……その言葉に、私は思わずお兄さんを見る。


「失礼な事を言ってくれるねぇ?」


その顔は心底面倒臭そうな、それでいて眼は冷たく悪魔を捉えていた。


私の混乱を諭すようにお兄さんが語り掛ける、その瞬間を悪魔が魔術で襲って来た。


凄まじい魔力のナイフ、私の防御魔術では決して抑えられない力と量の攻撃に死を覚悟する……しかし。


――ギィンッ――


そのナイフは私に触れる事無く弾かれて消える。


「ふむ、結界術の練度はそこそこ、他の戦闘魔術は苦手かね?」

「……何故仲間が人間の味方をする?」

「生憎と君みたいなのと仲間になった覚えは無いよ」

「そうか……ならば――」


お兄さんの言葉に悪魔は顔を無に染めて指を鳴らす。


「死ね」


そして降り注ぐ、黒い刃の雨が…大地を削りながらお兄さんを襲った。


それを見終えると悪魔は顔を悦にそめて私を見る……。


「さて、邪魔者も消えた事だ、久し振りの食事と行こう」


舌舐めずりをしながら迫る。


「ふむ、良く見れば中々悪く無い雌では無いか、喰らう前に犯してやるのも一興か?」


そう言いながら、足を進め、そして手を伸ばした悪魔――その瞬間だった。


――ドシャァッ――


悪魔の胸に腕が生えたのは、そしてその腕には脈打つ赤い心臓が握られていた。


「う〜ん、君は余り唆られないねぇ」


倒れ伏す悪魔の背後には、お兄さんが立って見下ろしていた。


その後は呆気なかった……何が起きたのか分からない悪魔の頭を吹き飛ばし、結界を解いてしまった……そして、その後は一人で蹲り、何かを呟くと私を抱えてある場所へ向かい始めた。



「――それで?つまりは?」

「ごめん字波君、バレちゃった☆」


そして今、私の眼の前には…日本の最上級魔術師にしてこの学園の学園長、字波美幸さんだった。


混乱する私を他所にお兄さんを説教している字波学園長、それに対してお兄さんはまるで悪びれずまったりと紅茶を飲んでいた。


そんな私の困惑に気付いてか学園長が教えてくれる。


聞けばお兄さんは美幸さんの知り合いで今年からこの学園の教員になるんだとか……それを話し終えると字波学園長は私に頭を下げてくる。


「お願いだからこの事は他言無用でお願いするわね……じゃないと」

「じゃないと……?」

「其処の馬鹿が何をするか分からないわ」

「うん?記憶を弄るなら任せ給えよ、前に自分で試して効果も保証するよ、勿論安全性もね!」


「「……」」


こうして私はとんでもない秘密を抱える事となったのでした。

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