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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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眠らぬ街の惨劇

――コポコポコポッ――


「えぇ〜!?…今日は〝稽古〟無しぃ!?」

「仕方ないだろう?…字波君から一週間療養しろと言われてるんだから…君と派手に打ち合えば何を言われるか分かった物じゃない」

「むむむむ……字波さんが…なら、引き下がるしか無いかぁ…」


私の研究室に、〝二人の弟子〟が来訪するのを出迎え、何て事はない世間話に花を咲かせる…山積みの市販菓子をそれはもう、某ピンク玉の如くに。


「――ナハァッ♪…何じゃ何じゃこの研究室!…何処もかしこも興味の唆られる〝物〟ばかり!…最高じゃのう!?」

「喧しいぞ〝黒猫〟――って待て貴様何だその爪はァァァァッ!?」


そして、そんな我々の周囲では結美君の使い魔に血と毛と皮を採取されて叫ぶ使い魔達。


「――所で椿君、確か君は明日〝使い魔〟の使役をするんだったかい?」

「はい!…どんな子と契約する事に成るのか楽しみです!」

「君の魔力制御ならばまぁ詰まる所も有るまい…大した問題も無く契約は出来るだろう…見た所〝魔術〟の研究も進んでいる様だ…重畳重畳」


と、そんなこんな雑談しながらゆったりと時間に身を委ねていると、気が付けばもう夕暮れに差し掛かっていた…。


「あ、もう帰らなきゃ!」

「私も、そろそろ帰らないと…」

「何ッ、待たぬか〝主〟よ!…まだもう少し此処に残っても良いのでは無いか!?」

「早く去ね!」


私はそう言い、私の研究室から退出する二人と、アルに引き摺られるように出て行くルイナを見送り、そしてその途中に忘れていた事を思い出し二人を呼び止める。


「「?…何ですか?」」

「いや何…元々君達に渡そうと思っていた〝魔道具〟が有ってね…先日までそれの調整や試運転をしていたのを今思い出したんだよ…と、言う訳で〝はい〟」


私はそう言い、結美君に〝鞘に嵌められた剣〟を、椿君に〝白色の木箱〟を譲り渡す。


「コレは私から君達への〝贈り物〟だ…触媒が一つだけだと色々と苦労するだろう?…予備としてでも持っていると良い……ただこの触媒にはちょっとした〝仕掛け〟が有ってね…君達の魔力データを解析して〝所有者〟として固定するのに時間が掛かる…それまではこの〝触媒〟は使えない…が、性能は保証しよう」


そして、説明だけして興奮冷めやらぬ二人を叩き出し私は独り夕暮れを見る。


「…〝経過観察〟は頼んだよ?」


そして、紅を泳ぐ〝夜の使者〟達を見送り…私は私の雇用者の元へと向かうのだった。



●○●○●○



――ペタッ…ペタッ…ペタッ…――


「グッ……クソッ、あの〝化物〟め…舐めた真似を…!」

(チッ、消耗し過ぎた影響か…妖力が足りん…!)


冷たい下水道を少女は歩く……その顔を憤懣と憎悪に歪めながら。


「ククッ……だが、もうすぐじゃ…」


己の頭上に蠢く気配に少女はその口角を歪める…その姿はさながら蛇の様に。


そして少女が天の〝蓋〟に目を向けた…その刹那。


――チャプッ――


彼女の耳に…〝些細な異音〟が届いた。


「ッ――!?」


ソレは水辺に浮かぶ〝蛇の顔〟…しかし、その目は、姿は、雰囲気は…同胞との遭遇に喜ぶような純粋とは言い難く、何よりも〝蛇の声〟を聞く事が出来る彼女には、その〝異音〟を聞き冷や汗を流すだろう。


『ミツケタ』

『ミツケタ、ミツケタ』

『ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ――』


狂った様にそう蛇は謳う…その身に詰まった唾棄すべき〝呪詛〟を見た彼女は瞠目し、そして驚愕を突き抜けて湧き出す〝憤怒〟に叫ぶ――。


「あの〝男〟ォォォォッ!?!?!?」


と…そしてその蛇の肉体を縊り殺して少女はソレを奪い取る…その、切り取られた己の〝腕〟を…そう、〝殺して奪った〟…。


――ゴシャッ――


「ッ――ナァッ…ァッ!?」

「――〝直情的〟で〝他責的〟ねぇ…こうまで簡単に罠に掛かると拍子抜けかしらね」


己の〝左腕〟が捻じれ狂う…その痛みを受けて〝少女〟は膝を付く、泣き叫び、藻掻き苦しむ…その光景に暗闇の奥から歩み寄りながら〝茶眼〟の主はそう紡ぐ。


――ズオォォッ――


「貴様…あの〝男〟の仲間か…小癪な真似を――」


その声に、痛みから立ち直った少女は憎しみを込めてそう紡ぐ…その瞬間。


――ガシュッ――


少女の〝喉〟が潰れた…。


「カハッ…!?」

「〝誰が言葉を話せと言った〟?…妖魔風情が」


呼吸に苦しみ手をばたつかせる少女を見下しながら、その女性はそう言い…そしてつまらなそうに吐き捨てる。


「ハァッ……思っていたより大したことは無かったわねぇ…この程度の呪術すら呪詛返し出来ない何て…貴方〝才能〟無いんじゃない?」

「ッ〜〜〜!?」


そして、その表情を甚振るような嗜虐的な笑みに変えて、その手を、脚を徐々に砕き折り、引き延ばしてゆく。


そして、その身体を完全に締め上げられ…その表情を怒りで保つ事も難しくなったその時…封じられた〝妖魔〟、〝少女の皮を被った蛇〟は呆気なく生命を落とした。


――ドサッ――


下水道の地面に少女の骸が転がる…その姿は見るも惨たらしく、その四肢も胴も首も引き伸ばされた蛇の様な姿で其処に在った…。


「……〝食いなさい〟」


その少女を沈黙と共に見据えていた彼女は、ピクリとも動か無い少女の、苦悶に歪んだ顔を見ながらそう、己の〝従僕〟に名を下す…。


そうして、その少女の骸へ蛇が口を開いた…その時。


――ギョロッ――


「ッ―――!?」


見下ろしていた彼女…〝蛇妃〟はその少女と目が合った。


――ドオォォォッ――


途端に吹き出される、〝瘴気〟の大瀑布に蛇妃は呑まれる…そして…その瘴気が晴れたその時…彼女は目にした。


――ギョロッ――

――ゴプッ、ドクンッ、ドクンッ――


その悍ましい、〝少女の皮を被った化物〟の…〝本質〟を。


ソレは何十何百の眼を忙しなく動かし、黒い肉的な触手が蠢き合って作られた様な長蛇の体躯を生物的な嫌悪感を抱かせるような動きで操り壁に張り付く……ただ〝化物〟としか言えない〝化外〟の姿を…その目に焼き付けた。


その一瞬の〝空白〟…〝動揺〟にも似た〝呆然〟が〝天秤〟を傾けた…。


――ニタァァッ♪――


その刹那……その〝化物〟は天を這う…奈落と現を繋ぐ〝蓋〟へ猛進し、塵芥が如くに吹き飛ばして奈落から飛び出す……。


「ッしまった…!」


彼女は完全に其の場から消えた〝化物〟へそう言い、急いでその後を追う…。


たった〝数秒〟の空白はしかし……決して眠らない〝夜の街〟に、最悪の地獄絵図を作り上げた。

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