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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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灼焔の不死鳥:契救

――ゴオォォォッ――


「『私が…使い魔に……人と、共に?…それは…素敵ね、とっても素敵…』」

(ふむ、存外乗り気だ…乗り気だね…)


と言うよりも…だ、観察し、言動、行動を分析してゆくと…どうもこの不死鳥は〝幼い〟気がするね。


私が苦手なタイプだ、〝嫌に純粋〟な…精神面の発達が未熟な様な…ともすれば稚拙さが抜け落ちない様な…そんなタイプだ、謀り嘲弄する私とは〝相性が悪い〟…しかし。


「『――嗚呼、でも駄目よ、無理なのよ…私は〝一人〟で居るしか無いの、〝孤独に生きる〟か〝死ぬ〟しか道はないのよ…』」

「……どういう事?」


荒ぶる焔の中で嘆く〝不死鳥〟の瞳は…嘆きと狂気に満ち、その言葉を我々へ奏でてゆく…その悲哀から、彼女の嘆きと死を求める理由が推測として浮かび上がる。


「〝不死鳥〟……その性質は〝破壊と再生〟による〝永劫〟だ…〝循環〟と言い換えても良いかな…朽ちては灰被りの雛として生まれ変わり、また生を始める…故の〝不死の鳥〟と言う名を与えられた…そういう意味合いで、成る程…確かに〝孤独〟を余儀無くされるだろう」


しかしそれに関しては多少の埋め合わせは出来るだろう、永劫と定命の〝結実の業〟…つまりは〝死の別れ〟…それによる悲しみも孤独も、また別の生命と育むことで無聊は慰められよう…しかし、そうでは無い。


彼女は〝孤独〟だ…〝片時も生と共に在れない〟のだ……その――。


「〝美しき焔の鳥〟…そう定められた〝呪いの様な運命〟が為に…彼女は〝孤独〟なのだよ」


〝焔〟が全てを奪うのだ…燃え滾る彼女の羽が、皮が、血が、肉が…彼女の周囲を〝焼き尽くし〟、〝焦土〟に変える…ならば成る程、彼女の〝幼さ〟にも納得が行く、〝狂気に堕ちる〟のも無理は有るまい。


「君は〝何とも関われない〟…自らが出向けば出向く先は焦土に変わり、待てど暮らせど〝生命は来れない〟…どれだけ美しい自然で有ろうとも、君には遠い幻想の夢にしかならず、森の土の香りは君の焔によって煤けた炭の香りに掻き消される…何一つ〝得られず〟、故に〝何も育まれず〟…〝求めども叶わない〟…神の気紛れで生み出され、そして〝美しいまま捨て置かれた生命〟が君だ…そうだろう、〝フェニックス〟」


私の言葉は、確かに彼女の〝歴史〟を言い当てたのだろう…彼女はその言葉に肯定し、〝自らを語る〟…。


「『えぇ、そうよ…〝穢されぬ美しさ〟で在れ…それが私に与えられた〝呪い〟…この炎の身体は近寄る者を灼き尽くす…焼き尽くして〝近寄らせない〟…何万年も〝独り〟だったわ…ずっと、この炎の中で生きてきたの…いっそ私に〝心〟何て無かったら、こんなにも苦しむ事は無かったでしょう…お願いします、人の子達よ…私は貴女達と〝共に在れない〟のです…私の炎が貴女達を灼き尽くす前に…どうか〝私を殺して〟…』」

「……さて、彼女はそう言っているがどうかね〝九音〟君?」


そして、そんな彼女の嘆願に…私は召喚した本人で有る彼女に問うた。



○●○●○●


「私を殺して…と」


私はその言葉を何度も反芻する、そして悩む…。


彼女の言葉を信じるならば、彼女を殺す事が救いなのだろう…しかし。


「……無理です…私には〝殺せない〟…私じゃ貴女を殺すには〝届かない〟…!」


殺せない…私には…不死鳥に死を与える等…誰にも出来ない芸当だろう…でも、それでは彼女は救われない。


それは酷く哀れに思う…。


――ピキッ――


「おっと……そろそろ結界が限界かな?……さて、どうする〝九音〟君……そろそろ選択の時間だ…〝彼女〟を〝殺す〟のか…それとも〝生かす〟のか」


急かす様な先生の物言いに私は何か手はないかを模索する。


「先生、私の力で彼女を殺す事は「無理かな」…」


では放って置くしか無いのだろうか?……そう思った時、ふと…〝結界〟を見る。


其処には…〝業火〟とソレを阻む〝結界〟が合った…。


――カチンッ――


その時、何かが嵌まる様な…そんな〝感覚〟と共に、私は結界を維持している先生の顔を見る。


「……先生」

「はいはい何だい?」


先生は私の問い掛けに、軽く返し余裕気な表情で此方を見る……彼女の灼炎を防ぐ程の結界を〝維持しながら〟…。


「………〝先生〟なら…〝彼女〟を殺せますか?」

「出来なくは無いね」

「「『ッ!?』」」


そんな先生に、もしかすればと問い掛けると先生は事も無げにそう言い、私の問い掛けに肯定する。


「ッ――何で早く言わないんですか!?」

「聞かれなかったからね」

「『ほ、本当に私を殺せるの!?』」

「大丈夫だと思うよ?…その場合ちょっと〝本気〟でやらないといけないけど…でも良いのかい?」

「何が!」

「〝彼女〟を殺すと言う事で……彼女を〝使い魔〟にせずに良いのかい?」

「  」


その言葉に、私はハッと気付く…先生は彼女を殺せると言う…殺せると言うのなら、その〝焔〟をどうにか出来ると言う事では無いのか?…。


「……〝彼女〟を…フェニックスを、〝人と触れ合える〟様に…出来るんですか?」

「殺すよりも〝楽〟だね…それでも重労働だが……で、どうする?」


その言葉に、私は考えるより先に言う。


「彼女を〝使い魔〟にします、協力して下さい!」

「オーケー、可愛い生徒の頼みだ…任せ給えよ!…九音君は自身の防御をしておきたまえ!」


先生はそう言い、結界を解いてその炎の中に消えてゆく…そして、私には抑圧された炎が私を包み込むように迫ってくるのだった。



●○●○●○


「――と、言う訳で…君を彼女の〝使い魔〟にしたいのだが構わんね?」


私の眼の前で、その人物はそう言い…私にその瞳を向ける…其処に〝嘘〟の色は無く、それ故に私は驚きを隠せないでいた。


「『……本当に…出来るのですか?』」


私の数万年に及ぶ〝孤独〟を、たった一つしか〝結末〟は無いと思っていた…それでも〝もしかすれば〟と夢見、そして有り得ないと遥か遠くに追い遣っていたその〝夢〟を…本当の本当に、出来ると言うの?…。


「〝出来る〟よ……ただし…〝前提〟として、コレから起きる事、起こす事は〝君と私だけ〟の秘密だ…無論使い魔と主の関係で有ろうとね……良いね?」


私のそんな疑問は、眼の前の人物の確固たる肯定に掻き消され、そして…私はその人物の言う言葉に、首を縦に振り〝肯定〟した…。


――カチャンッ――


「結構、今君と私は〝契約〟を結んだ…〝今から起きる全ての秘匿〟と言う…我々だけの〝秘密〟…その遵守を……そして、その契約を破った場合…その場合、破った側は〝最悪〟を被る事に成る…君の場合、〝永劫の孤独〟を、誰彼の手にすら終えない、最早同仕様も無い〝生き地獄〟が…そして、私には――」


――ズズズズズズッ――


「〝私の正体の露見〟が起こる」

「ッ――!……コレ…は……」


私に幾つもの黒い瘴気の束が伸びる…その瘴気の身に覚えのある感覚に、私は私の眼の前にいる〝男〟が〝何者〟かを知る。


「始めましてフェニックス、私の名は〝不身孝宏〟…或いは…〝知恵〟を司る悪魔、〝アスタロト〟と人の〝同化個体〟…所謂所の〝魔人〟と言う種だ…宜しく頼むよ」


その自己紹介に、私は眼の前の彼を食い入る様に見つめる。


「『悪魔、悪魔!……は、始めて見る…ほ、本物!?』」


姿も形も、人間と同じに見える…それに、さっきの魔力だって人間の物と同じで、それに――。


「嗚呼、本物さ……いや、100%悪魔とは言えないが……と、行けない行けない…このまま九音君を蒸し焼きにする前に…早く済ませよう」

「『ハッ――そ、そうね!』」


私はそう言うとタカヒロの言葉に本来の目的を思い出し、問う…つもりが、タカヒロが私よりも早く、コレから何をするのかを教えてくれる。


「コレから君の〝魂〟を分ける……〝本体〟と〝余分〟に…君の炎の対処は、実を言えば簡単でね…君の力を分割すれば良いだけなのだよ…問題はその分割には凄まじい〝魔力〟と〝寸分の狂いも無い精密動作〟を求められるんだがね……兎も角、コレからする事はコレだ、君の魂を分け、君の〝本体〟…つまりは〝意識〟を切り分けて容れ物に移す…その過程で君自身の能力は大分に落ちるだろうが、それに関しては追々説明しよう…魔力は君の物を〝拝借〟するが良いかね?」

「『えぇ、えぇ!…是非お願い…!』」


そして、言うが早いか…私に真っ黒な〝文字の束〟…黒い〝魔力〟が私を貫いて行く――。



○●○●○●


――ゴウンッ――


体感的には、恐らくは〝十数分〟…ジリジリと灼き尽くす焔の熱を防いでいた、その集中力が為か……私は、変わらない様な炎の微細な変化を察知する。


――ズオォォッ――


それは…〝炎の流れ〟の変化…揺らめく炎が、有る〝一方向〟に流れ、私の周囲から散逸してゆく。


――ゴオォォォッ――

――ジュオォォォォッ――


「………凄い」


そして、私はその炎が脅威でなく成ったのを見て、術の行使を止め、その炎の先を見て…そう、呟く。


「……」


収束し、圧縮し……焔が眩しい白光を放ち、蠢く熱と成る…その焔の〝塊〟を片手に持つ、その男の姿は、さながら神話の〝神〟を彷彿とさせる程、〝美しい〟光景だった。


「――フゥゥゥッ…さて、それじゃあ…コレは〝預かっておこう〟…返して欲しければ何時でも言うと良い」


そして、その人物は圧縮された焔の塊…小さな〝太陽〟を何処かにしまうと、眼の前の…全裸の美少女にそう言――。


「――ちょっと待ちなさい!」


――ドゴォォッ――


「ブゴヘェッ!?」

「――んん…何だか、身体が重いわ…」


私は眼の前の先生を殴り飛ばし、その美少女に上着を投げ付ける。


「何がどうすればこうなるんですか!?」

「いや!…ちょいちょいちょい!…待って待って、呼吸出来な…グヘェッ…降参、降参!」


そして先生に掴み掛かると、先生はそう言いながら私から離れ、一呼吸置いて説明する。


「私だって予想外だよ…でも仕方ないだろう!…私は小さな火の鳥に成る事を提案したんだよ?…でも彼女が『どうせなら人間の姿が良い!』と言うからだね!…私の血をちょこーっと分けたらこうなったんだ!…断じて私の所為では無い!」

「それでも!…中身が人じゃないとは言え、全裸の少女の身体をマジマジと見るのはどう言う了見ですか!?」

「ただの動作確認だ!…見た目は若いがコレでも何十年生きた老人だぞ!?…幼気な少女の全裸で欲情する程色欲に満ちていないよ!」


そうして、私が先生とやいのやいのと言い合っていると…私の服の袖が引っ張られる…。


「ッ!…」

「ウフフッ、凄い、凄い!…ちゃんと触れる、そうなのね、服ってこんな感触なのね!…温かい…人の温もり…」 


その赤髪に金の瞳を持つ少女はそう、嬉しそうにクスクスと笑いながら…そして私を見る。


「タカヒロを怒らないで、人の子…タカヒロは悪い人じゃないわ」

「……まぁ、良いでしょう」

「た、助かったよフェニックス君!」


私は前の先生を無視し、フェニックスに手を差し出す…コレで彼女は晴れて孤独では無くなった、人と関わることが出来る…ならば。


「改めて……私の〝使い魔〟に成りなさい、貴女の知らない〝世界〟を、〝知識〟を…〝夢〟を見せて上げる!」


彼女は、私の使い魔に成る事を拒絶する必要等無い筈だ。


「ッ〜〜〜!!!……うん、うん!…コレから宜しくね!…〝私の主様〟!」


――ギュウッ――


私と彼女…〝フェニックス〟はそうして〝主と使い魔〟として契約を交わし…私の〝使い魔契約〟は紆余曲折有りつつも、無事に終了したのだった…。


「――だが、先ずはちゃんとした服を〝創ろう〟か…全裸に上着一枚は、私の体面的にも名誉的にも、公序良俗的にも不味い」


……それもそうね。

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