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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第二章:幻獣駆けるは科学の世界
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灼焔の不死鳥:邂逅

――ゴオォォォッ――


揺らめく〝赤〟が在った。


ソレは人に〝文明〟を齎した原始の〝赤〟…暗闇を拒絶する力、忌むべき悪習の道具、悼み愛せし葬送の〝力〟…〝焼却〟、つまりは〝焔〟…。


――パチッパチパチッ――


……しかし、其処は間違いなく〝地獄〟で在った。


――ブォンッ――


汎ゆる全ては〝焔〟だった…全は一こそが世の習いで在るはずが、その全が存在しない……。


いいや、いいや、そんな回りくどい言い方は適切とは言い難い。


〝汎ゆる全てが燃え尽きた〟のだ。


「『ッ――――!!!!』」


其処は幻想が〝夢の跡〟…かつて〝理想郷〟に謳われし国々が一つ……今や現存すらしていない、していたかもあやふやな〝国の亡骸だった場所〟……其処は見るも悍ましき〝焔の地獄〟と成り果てた。


何が起き、誰の所為かと問われれば…それは恐らく世に言う〝運命と業〟を生み出せし者、即ち〝神〟なる者の所為と言えよう。


神と言う存在が生み出した〝生命〟の所為だ、神の気紛れに生み出された〝永劫〟の所為だ。


「『ッaaaaAAAAA!!!!』」


誰も〝彼女〟を責められやしない…それは〝間違い〟だ。


彼女が望んで生まれたのでは無い、彼女に選択の余地は無かった。


ただ美しく在れ、ただ永劫で在れと望まれた〝獣〟…緋色の翼、橙の尾を持ちし〝再生者〟…。


人は誰も彼もが羨むのだろう…彼女の〝永劫〟、彼女の〝美〟を。


しかしだ。


「『何で、何でよ!?‥何で私の身体は朽ちないのよ!?』」


彼女の美を保つが為に施された、〝孤高の焔〟は、彼女を〝孤独〟に変えた。


彼女を愛する為に施された〝純粋な心〟は、彼女に〝孤独の苦痛〟を与えた。


生命を美しいと思う心を持ちながら、生命に〝触れられない〟‥。


美しい土地を愛おしいと思う心を持ちながら、土地を〝焼き尽くす〟事しか出来ない。


彼女は完璧で在り、〝欠陥品〟だった…いやそもそも、彼女に心を与えるべきで無かった。


であらば彼女は……永劫の孤独と苦痛に〝狂う〟事など無かったのだろう…。


「『お願い、お願いよ……誰か、私を……』」


――殺して…――


ソレは悲痛にして、痛ましい彼女の〝願い〟…そして〝決して叶う筈のない願い〟…。


彼女の皮を、羽を、骨を狙うかつての生命達ですら果たせなかった〝彼女の宿願〟…だが、無理なのだ…。


彼女を……死して生まれ変わる〝灰被りの雛〟を、不死と美を決定付けられた彼女を…一体どう倒せと言うのだろうか?…。




●○●○●○


――ザザッ――


紆余曲折有りつつも順調に使い魔の使役は進み最終組…私は其処で、眼前の少女…〝土御門九音〟君の使役の手伝いをする。


「―――フゥゥゥッ…良し、やるぞ!」

「そう緊張する事は無いさ、手順さえ守れば誰も彼も出来る」


私はそう言い、妙に気合を込める少女にそう軽く毒気を抜いてやる。


本来、使い魔の召喚はそう重く背負う者ではない…魔術師ならば誰でも扱える代物で有る物だからだ…しかし。


(何だろうねぇ…この嫌ぁな感じは)


こう、晴天駆け抜けるそよ風も木々のざわめきも何もかもが〝心地良い〟筈なのに、心の奥底にじっとりと絡みつく〝面倒事〟の気配。


「(はて……確か以前もこんな事が…あの時は確か…)…」


私は組み上げられてゆく彼女の術式を目にしながら、実際には脳内の記憶を遡る…たしか、500年前の筈だ。


――カッカッカッカッ――


(500余年…私が教授に成って8年目の冬……)


そうだ、確かあの時海底遺跡の調査に動向しようとして船で向かってる最中に海賊に襲われた時の――。


「〝炎理の獣〟、〝焔の――」


その瞬間、私はその思考を中断せざるを得なくなる…九音君が今し方組み上げた魔術式に燻り始めた〝焔〟…其処に感じた〝狂気〟が故に。


「『――殺害者〟!、嗚呼、嗚呼!…遂に見付けた私の〝死〟!…〝死〟を呼ぶ者!』」

「なッ!?」

「『待っていたわ、ずっと、ずっと、ずっと!』」


――ゴオォォォッ!――


「ッ――ァァァッ!?」


燃え盛る焔が九音君を〝掴む〟…その魔力は荒々しく、凄まじく、身を焦がす程に膨大で在った……。


――ガシッ――


「間に合った!――しかしッ、コレはッ」


私は焔に腕を掴まれた九音君を此方に引き戻し、地面を睨む。


――ジジジッ――


焼け炭が地面を蠢く、その黒い〝魔術陣〟を構築しつつ……。


(〝再召喚〟…!……自力で此方に顕現するつもりか!)


――ゴオォォォッ――


「チッ…やってくれますね…私の腕を焼き尽くそうとは…!」

「九音君、悪いがコレは君には荷が重――」

「良いでしょう、何方が〝主〟かその身に知らしめて上げましょう…!」

「ッ――血の気多いなぁ!」


あぁ止めろ、君も同調して術式構築を早めるな!――クソッ。


――カカカカッ!――

――ゴンッ――


「ブヘッ!?――先生、何を――」

「説教は後だ九音君!…今から我々を〝逆召喚〟する!…自らの防御に全力を注げ!」


私は血の気の多い大馬鹿者の頭から血の気を抜き、炎の中で術式を〝作り変える〟…。


――ゴオォォォッ――


そして視界一面が炎に包まれ、暫くして…我々は〝移動〟する。


「――〝多重遮炎結界〟」

「ッ…炎しか見えないですね」

「――いいや、〝炎〟だけじゃないよ…〝其処〟に居る」


それと同時に出来得る限り最速で結界を構築し、迫る炎を寸前で閉ざす…それと同時に、恐らくはこの〝世界〟の主らしい…〝視線〟に我々は目を向ける。


「『凄い、凄いわ人の子達ッ、私の炎を防げるのね!』」


其処に居たのは……我々を見て、その瞳を歓喜に歪める一匹の〝火の鳥〟…。


「……〝不死鳥〟…」

「…だね、〝不死鳥〟…〝フェニックス〟…或いは〝鳳凰〟…有名も有名な〝完全な唯一生命〟…たった一匹の〝種〟…の様だ」


しかし…見た目と精神の乖離が著しい気もするが……。


「不死鳥!…貴女に話が有る――」

「『えぇ!えぇ!…私を倒したいのね!殺したいのね!…良いわよ、思う存分殺して頂戴!』」

「…いや、そうでは―」

「『漸く私は〝死ねる〟のね!…この悍ましい呪いから解放されるのね!…本当に夢の様だわ!』」


……どうやら、不死鳥…〝彼女〟は随分と〝壊れてしまった〟らしい。


「――あ〜…済まないね〝フェニックス〟…生憎だが我々は――」

「貴女を〝使い魔〟にしに来たんです」


その時……不死鳥の身体が硬直し…周囲の炎が更に猛々しく燃え盛った。

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